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レビュー

読み始めるなら今をおいて他にない! 一気読み推奨のおすすめ中華ファンタジー――小野はるか「後宮の検屍女官」シリーズレビュー 評者:大矢博子

その女官は、遺体を前に覚醒する――。後宮にうずまく疑惑と謎を検屍術で解き明かす中華後宮検屍ミステリ!
小野はるか「後宮の検屍女官」シリーズ

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小野はるか『後宮の検屍女官4



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書評:大矢博子

 歴史上の中国や中華風の架空世界を舞台にした中華ファンタジーは、すでに成熟期に入った感がある。
 中華ファンタジーの確立に大きく寄与したのが、1990年代に刊行が始まった小野不由美『十二国記』と上橋菜穂子『守り人』シリーズだ。壮大なスケールの中で展開されるめくるめく冒険譚は、今もなお、多くの読者をとりこにし続けている。
 その後、戦記物や武侠小説、怪奇ファンタジー、ロマンスなどジャンルはどんどん広がった。そして2010年代になってひとつの潮流が誕生する。中華ファンタジーと仕事小説の融合だ。
 後宮での薬師の活躍を描いた日向夏『薬屋のひとりごと』を筆頭に、ヒロインが科挙を経て官吏になる石田リンネ『茉莉花官吏伝』、清の皇子のお抱え菓子職人見習いが主人公の篠原悠希『親王殿下のパティシエール』、他にも服飾や美容、巫女など専門職を持った女性が活躍するシリーズが次々と巻を重ねている。
 そんな中からおすすめしたいのが、小野はるか『後宮の検屍女官』だ。
 今月(2022年11月)に第4巻が刊行されるこのタイミングで紹介するのには理由がある。ここまで積み重ねられてきたさまざまな謎が、この巻で一気に明らかになるのだ。特に3巻のラストは「ええっ、そんな終わり方!?」とノタウチ回るほどだったので、解決編まで一気読みできる今こそ狙い目なのである。
 舞台は大光帝国(漢王朝がモデルと思われる)。検屍官の祖父のもとで育った姫桃花きとうかは、家庭の事情で後宮に売られ、皇帝の寵妃・梅婕妤ばいしょうよの侍女となる。野心も出世欲もなくぼんやりしている桃花がその才能を見せたのは、謀殺されたと噂の妃嬪が「棺の中で皇子の死体を産んだ」という謎めいた一件のときだった。彼女の検屍術の才を知った美貌の宦官・孫延明そんえんめいは、さらに続く怪死事件で桃花の力を借りるようになる──というのが第1巻のあらすじである。
 以降、第2巻では妃嬪と宦官の無理心中事件、第3巻では梅婕妤の乳母の墜落死事件などが扱われ、それと同時に巻を跨いでの背後に存在する謎が少しずつ炙り出されていくという趣向だ。
 権力者の都合で勝手に解決されかかった事件を、綿密な検屍で「本当の死因」を突き止め、解決に導く桃花。その手順や専門知識の描写もさることながら、この物語の芯は正しい死因を知ることで冤罪を晴らすという部分にある。
 古来、中国では今で言う法医学が発達していた。唐の時代には「仵作ピンイン」と呼ばれた死体を調べる役目は、秦や漢の時代からあった。そして13世紀、宗の時代には世界初の法医学書「洗冤集録せんえんしゅうろく」が宋慈により作られる。
 この書名に注目。冤罪を洗う、のである。すでに『後宮の検屍女官』3巻をお読みの方は、ああ、これか、と思うのではないだろうか。
 本書でヒロインとタッグを組む孫延明は、かつて冤罪で腐刑に処せられ宦官になった過去を持つ。その経験から冤罪を憎み、常に公明な裁きが行われる世にすることを自らの使命としている人物だ。たとえ冤罪がそそがれても切り取られた体は戻らない。彼が宦官なのは「取り返しのつかないこと」の象徴でもあるのだ。
 ただ謎を解くだけではなく、悲劇を繰り返さないという思いが、この物語の核になっている。また、彼や桃花を通して、宦官という性を持たない人々や検屍官という穢れを扱う人々に対する差別との戦いも描かれる。なんとも硬派なシリーズなのである。
 ……と書くとなんだか堅苦しい話のように思えるが、さにあらず。
 検屍以外にはまるで興味がなく恋愛にもおしゃれにも疎い、眠ってばかりのヒロインと、そんなヒロインを愛しく思っているのに気持ちが通じずヤキモキする美貌の上官という組み合わせは中華ロマンスの鉄板中の鉄板、にやにやしながら読めるし、後宮に渦巻く権謀術数の描写はサスペンスとして一級品。そして何より、小さな手がかりを積み重ねて真実を見抜いていく過程はミステリの醍醐味に満ちている。
 第1巻を読み始めたときには「今人気のパターンだな」くらいの感想だったのだが(すみません)、巻を追うごとにどんどんレベルが上がり、等比級数的に面白くなっていくのに驚かされた。今回刊行される第4巻は特にミステリの出来がいい。
 桃花の後ろ盾だった延明が冤罪で投獄されるというショッキングな幕開けに続き、これまで事件の中枢にいたと思われる寵妃が遺体で発見される。しかしその遺体が見つかったのは、本人の足跡しかないぬかるみの中。巫蠱ふこ(呪い)による死だと決めつけられ、延明のいない状況で桃花がどう立ち向かうのかが大きな読みどころだ。
 1巻ごとに少しずつ進んでいく(ように見えるがちょっとわからない)桃花と延明の仲、徐々に明らかになる桃花の過去、途中から登場したある人物の正体、漢王朝をモデルにした時代考証の確かさ(ファンタジーなんだから適当でいい、とはならないのがすごい)、そして何より1巻から続いてきた大きな陰謀の真実と、すべてがこの4巻に詰まっている。
 読み始めるなら今をおいて他にない!

「後宮の検屍女官」シリーズ

最新刊『後宮の検屍女官4』



著者 小野はるか イラスト 夏目 レモン
定価: 704円(本体640円+税)

後宮の疑惑と謎を検屍術で解き明かす中華後宮ミステリ、衝撃の急展開!
皇帝の寵妃殺害に共謀したとして、掖廷令えきていれい延明えんめいが投獄された――。
衝撃の報せに後宮中が揺れる中、検屍女官こと桃花(とうか)は、彼を冤罪の死の淵から救うために立ち上がる。
寵妃は呪殺されたとされており、桃花は検屍を通じて死の真相を究明しようとする。
だがそのとき、延明が獄中で新たに殺人を犯し、みずからも命を絶ったという報が入り……!?

幽鬼事件から始まった後宮に渦巻く陰謀の正体、そして寵妃の死の真実とは? 
全てが明かされる、驚愕の第4巻!
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322206000701/
amazonページはこちら


シリーズ既刊



後宮の検屍女官
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322012000507/



後宮の検屍女官2
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322105000219/



後宮の検屍女官3
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322112000896/


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