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レビュー

今から僕が、君を迎えに行く。あの日失った君を救うタイムリープ青春小説。―― 梅野小吹『右から二番目の夏』レビュー【評者:立花もも】

今から僕が、君を迎えに行く。あの日失った君を救うタイムリープ青春小説。
梅野小吹『右から二番目の夏』

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梅野小吹『右から二番目の夏



評者:立花もも

もし過去に戻って道を選びなおせるとしたら、いったい、どの時点を選ぶだろう。そんなものはいらない、失敗も後悔も全部ふまえて今の自分があるのだから、なんて胸を張れるのは、道の選択で左右されるのが、自分の人生だけだった場合ではないだろうか。小説『右から二番目の夏』(梅野小吹)の主人公で男子高生の神田桐が、「あなたをタイムリープさせることができる」と言う見知らぬ少女の誘いに半信半疑ながらも乗ったのは、嘘でもいいから変えたい過去があったから。10歳のとき死んでしまった同級生の少女・天音の命を、救えるものなら救いたかったからだ。

天音がネバーランドと名づけた、山の中の秘密基地。そこで天音の誕生日を祝うため、その日、桐は友人たちと一緒に、集まった。ところが、喘息の薬を飲み忘れた桐が発作を起こし、助けようとした天音は、急斜面から落ちて即死。しかも、天音が桐に好きだと告白した直後に。自分が天音を殺したも同然だ、と後悔しながらも、その事実を誰にも打ち明けられないまま、桐は学校にもあまり通えなくなっていった。ところが突然現れた、見知らぬ少女……天音の妹である雪音は言う。天音は誰かに突き落とされた。桐ではない、他の誰かに、正真正銘、殺されたのだと。かくして、天音を救うだけでなく、事件の真相を探るタイムリープの旅に、桐は足を踏み入れることとなるのだけれど。

バタフライ・エフェクト、という言葉があるように、過去のほんの些細な変化が“今”を大きく歪めてしまう。桐のやり直しは、天音を救えないどころか、未来を幸せに生きていた他の友人たちを、さらなる不幸に突き落としてしまう。

〈あなたはピーター、姉はウェンディ。そして私は、あなたに魔法をかけるティンカー・ベル〉と雪音は言う。過去にとらわれ続ける桐は、まさしく、大人になることを拒絶するピーター・パンそのものだ。ピーターは仲間を守り、ウェンディが窮地に立たされれば颯爽と現れ、救うヒーロー。けれど桐が無敵だったのは、10歳のあの夏までだ。天音を失ったときから、桐はヒーローであることをやめてしまった。今の桐は、不登校気味の陰キャ高校生でしかない。そんな彼に、いったい、誰を救えるというのだろう。

それでも救うのだと決めて、もがきながらも前進し続ける桐の想いが、まばゆい。本当に、友人の誰かが天音を殺したのか。そもそも雪音は、なぜ桐の目の前に現れたのか。本当に彼女は、天音の妹なのか? さまざまな疑惑を抱え、知りたくなかった現実をつきつけられながらも、桐はタイムリープをくりかえす。その先に、全員が幸せになれる未来は存在するのか。それとも、過去の悲劇はどうしたって変えられないのか。彼らはいつまでも、大人になりきることができないまま、永遠のネバーランドをさまようはめになるのか――。その結末は、どうか自身で見届けてほしい。

作品紹介・あらすじ



右から二番目の夏
著者 梅野 小吹
イラスト まかろんK
定価: 1,430円(本体1,300円+税)
発売日:2022年10月05日

今から僕が、君を迎えに行く。あの日失った君を救うタイムリープ青春小説。
「あなたがどんなに過去を変えても――私、あなたの帰りを、未来でずっと待ってるから」

幼いころ「ネバーランド」と名付けた秘密基地で仲のいい幼なじみたちと過ごしていた神田桐(かんだきり)。そのさなか、幼馴染の一人だった初恋の相手を事故で失ってしまう。それから8年、心を閉ざし人との関わりを避けていた桐の前に、亡くなった初恋の人の“妹”を名乗る少女、雪音(ゆきね)が現れる。
「姉は、殺されたんです。……あの日、ネバーランドにいた誰かに」
彼女から告げられたのは、姉は事故ではなく誰かに殺されたという衝撃の事実と、さらに「タイムリープ」――時空を超えて過去に戻ることができる方法だった。
桐は初恋の人を失った過去を変えるため、あの日に戻ることを決意する。
8年前から時が止まっていた桐の夏は、雪音と出会い、いま再び動き始める――。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322205000925/
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