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痛々しい青春の勘違いと執着に気付くとき――君嶋彼方『夜がうたた寝してる間に』レビュー【評者:ニシダ(ラランド)】

特殊能力を持つ高校生の苦悩と成長を描く青春小説
君嶋彼方『夜がうたた寝してる間に』

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君嶋彼方『夜がうたた寝してる間に



痛々しい青春の勘違いと執着に気付くとき

評者:ニシダ(ラランド)

 特殊能力を持っている人間が出てくる作品はバトルするものだと勝手に勘違いしているわたしはエンタメに毒されているのかもしれない。『夜がうたた寝してる間に』は特殊能力を扱う作品だけれど、目の前の現実世界で起こっているようなリアリティと切実さを持ち合わせている。

 一万人に一人が特殊能力を持っている世界。時間を止める能力者として生きる高校二年生、冴木旭。旭は普通の場所で普通の人と一緒に生きることを望んでいる。能力者が生きる街、特地区へ行くこともできる。ただでさえ能力者はいわれのない偏見に晒される。能力者は胸元にバッジを着けているから、誰の目からもそうだと分かる。けれど特地区に行きたくないのは、普通の場所じゃ上手くやれずに逃げたと思われるのが嫌だから。そう思われることを屈辱だと考えているからだ。普通の人々の中で、能力を理由に後ろ指を指されたくない。マイノリティに属することによる生きづらさと孤独を感じつつも、同級生たちの前で道化に徹することで旭は上手くやれているという実感もある。
「幸せな日々を過ごしたいんだ。誰からも楽しく充実して見えるように、俺はしてなきゃいけないんだよ」そう語る旭。もはや執着だ。
 そんな高校生活の途中、二年生の教室の椅子と机が全て窓から投げ捨てられる。そして程なくして二年生の教室の机が全てペンキで汚されるという不可解な事件が立て続けに起こる。当然疑われるのは能力者だ。能力者としての自分の立場を守るため、旭は事件の真相に迫る。

 旭は上手くやることに固執し、上手くやれているという自覚がある。能力のせいで不当に扱われてきた人生の中で身につけた処世術だ。自分がこう振る舞えば、こう伝えれば、他人はこう動くという方程式が脳内に作られてしまっている。事件の真相を解き明かす中で、旭は同じ高校に通う二人の能力者と仲を深めていく。他人の感情を読み取ることが出来る女子、篠宮。そして瞬間移動能力を使うことが出来る男子、我妻。旭は二人にこう言われる。「あんたに言われたからしましたってわけでもないし」「旭が思うほど、旭の言葉になんて心動かされてないよ。したいからしただけ」と。旭は二人を言葉で動かした、操ったという感覚があったのだと思う。コミュニケーションの中で、旭は本当に伝えたいことよりも他人にどう思われるか、他人をどう動かすかを無意識に重視してきた。それは能力者として普通の人々の社会で上手く生きるため、幸せに生きるために違いない。その思い違いに自覚したとき旭からすれば目から鱗が落ちるといった感じだったろう。
 特殊能力の存在するSFチックな世界観だけれど、これはわたしたちにも通じる感覚だと思う。大勢の人間の中で上手くやっているという誤解。他人の心を全て理解しているという驕り。一度は誰でも体験しているはずだし、思い出すだけで大声を出したくなるほど恥ずかしい経験に心当たりがあるはずだ。少なくともわたしはそうだ。自分という人間とその周りにいる人達をメタの視点で見ている感覚。全て分かっている。わたしが我慢すれば丸く収まる。他人を観察、分析するあまり、自分自身を蔑ろにしてしまっている。その気付きに旭が立ち向かう瞬間を目の前で見せられる。旭はわたしでもあるし、あなたでもあると思うのだ。

 わたしは学生時代、リーダーシップがあり自分が大勢の意見を纏めているという自意識があったけれど、それはただ単にわたしは嫌われ者で、わたしと話したくないクラスメートが話し合いの結論を急いでいるだけだった。大人になってそう友人に聞かされて気が付いた。大声を出すくらいではかき消せない記憶であったからか、今日まで忘れていた。嫌な記憶を掘り起こされたものだ。

作品紹介・あらすじ



夜がうたた寝してる間に
著者 君嶋 彼方
定価: 1,650円(本体1,500円+税)
発売日:2022年08月26日

『君の顔では泣けない』著者待望の新刊! 小説野性時代新人賞受賞第一作。
高校二年の冴木旭には、時間を止めるという特殊能力がある。だが旭にとって一番大事なのは、普通の場所で、普通の人と同じように生きていくことだ。異質な存在に向けられる無遠慮な視線や偏見に耐え、必死で笑顔をつくっていた旭だったが、大量の机が教室の窓から投げ捨てられるという怪事件が起こり、能力者が犯人ではないかと疑われる。旭は真犯人を見つけて疑いを晴らそうとするも、悩みをわかり合えると思っていた能力者仲間の篠宮と我妻にも距離を置かれてしまう。焦りを覚えていたところに、また新たな事件が起きて……。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322204000318/
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