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特集

『君の顔では泣けない』でデビューの新鋭・君嶋彼方。第2作で描くのは、マイノリティとしての「能力者」――『夜がうたた寝してる間に』刊行記念著者インタビュー

取材・文:瀧井朝世
写真:中林香

今までにない「入れ替わり」小説で注目の著者、待望の第二作刊行!

君の顔では泣けない』で鮮烈なデビューを飾った著者・君嶋彼方さんの新作『夜がうたた寝してる間に』が8月26日に発売されました。二作目となる今作のキーワードは「特殊能力」と「マイノリティ」。創作過程や作品に込めた思いなど、詳しくお話を伺いました。

▼君嶋彼方特設サイトはこちら
https://kadobun.jp/special/kimijima-kanata/

▼『夜がうたた寝してる間に』試し読み
https://kadobun.jp/trial/yorugautataneshiterumani/adra17xps6os.html



――君嶋さんの第二作『夜がうたた寝してる間に』は、特殊能力を持つ「能力者」たちが存在する社会が舞台。主人公は時間を止める能力を持つ高校2年生の冴木旭で、彼は“普通”に暮らしたいと思っています。でも学校で奇妙な事件が起き、能力者が犯人ではないかと疑われて……という。この物語の出発点はどこにあったのですか。

君嶋:最初に念頭にあったのは、特殊能力を持つ人が社会に馴染んでいるという設定と、高校生が主人公ということでした。僕はデビュー前、大人が主人公のものばかり書いていたし、SF要素のあるものは書いていなかったのですが、今回は今までとは違うものをやってみようという気持ちがありました。それと、衿沢世衣子さんの『うちのクラスの女子がヤバい』という漫画があって。女子高校生の話で、思春期の間だけちょっと変な能力が目覚めるという設定で、その能力がすごくうまくストーリーに組み込まれていたんですよね。こういう話を書いてみたいなと思っていました。


――君嶋さんが青春小説を書くのは珍しいんですね。書く際に意識されたことは。

君嶋:僕にとって青春って、「同じ箱の中に詰められている」というイメージなんです。正直、あんまりプラスのイメージがない(笑)。その環境下で、学校の人たちや家族とどういう関係を築いていくのか、というのが僕にとっての青春という気がします。だからキラキラした部分よりは、焦燥感やもどかしさが書かれた青春小説にしたいと思っていました。


――たしかに本作は不安や戸惑いといった心の揺れが丁寧に描かれます。超能力者たちも、能力をひけらかすことはせず、むしろ居心地が悪そうですし。

君嶋:能力者が能力を隠して生きている場合と、公にしている場合では世界観が違うだろうなというのがありました。公にしている場合、周りは能力を羨むだけじゃなくて、ちょっと怖いなと思ったり、距離を取ろうとしたりするだろうし、本人たちも、こんな能力持ちたくなかったと思うだろうな、と。
特殊能力じゃなくても、自分とは違う人たちに対する差別意識とか、人と違うことについての本人の悩みってありますよね。そういうものを特殊能力者に置き換えてわかりやすく書けたらと思っていました。


――能力者の存在は一万人に一人くらいの割合というのが絶妙ですね。彼らはマイノリティなんですよね。そのために起きるさまざまな出来事がとてもリアルで、高校を舞台に、社会の縮図が描かれていると感じました。

君嶋:一万人に一人というのは、ちょっと珍しいなと感じるくらいのレベルを考えての人数設定でした。高校ってすごく狭い世界で、集団から外れたらもう3年間生きていけないみたいな感覚があります。小学校や中学校でもそうだけど、高校生のほうが自我もはっきりしているし、一番自己主張する年齢ですし。その年代で、こうしたタイプのマイノリティの人たちはすごくきついだろうなと思ったので、あえてそういう子の話にしたところはあります。


――現実社会にいるマイノリティの主人公を書こうとすると、実際の当事者のこともあって、いろいろ繊細になりますよね。超能力者がマイノリティという設定にして、そのマイノリティの立場から書くというのは上手い着眼点だなと思いました。

君嶋:ああ、超能力という設定でマイノリティを書こうとは思っていましたが、そうすれば「現実と違う」と違和感を持たれることは絶対ないですよね。そこは正直考えていなかったんですけれど、いま気づきました(笑)。



――旭の高校では、能力者の生徒は3人だけです。時間を止められる旭、人の心が読める篠宮灯里、テレポーテーションができる我妻蒼馬。ある日学校で、教室の机が大量に窓から投げ捨てられる事件が起きて、能力者が犯人ではないかと疑われてしまう。

君嶋:こういう事件が起きたら絶対に能力者は疑われますよね。それ以外にも、たとえば徒競走で足が速いとズルをしたと疑われるなど、日常的なところで似た場面は作中にちりばめました。
最初は、もっと変わった超能力にしたら面白いかなとも思ったんですが、別に能力そのものを書きたいわけではなく、あくまでも能力を持ったことによる悩みや生きづらさを描きたかったので、凝らずによくある超能力にしました。
実は、最初は群像劇のつもりで、能力者4人の視点で書こうとしていたんです。その4人が事件によって立場があやうくなり、どうしようという……。うまく書けなくて編集者さんといろいろ話しているうちに、主人公を1人に絞ろうということになり、それで4人のうちの1人だった旭を主人公にしたんです。4人だった能力者も3人に減らしました。


――旭は周囲に馴染もうとして、いつも明るく感じよくノリよく振る舞っている少年ですね。

君嶋:こういう立場にいる場合、「俺はみんなと違うから」と投げやりな態度をとるか、どうにかみんなに溶け込もうとするかだと思いますが、旭は後者なんですよね。そういう能力者もいるだろうと考えました。
集団の中でうまくやっている人たちも、なにかしら自分の心を殺して、立場を維持するために演じているところがあると思うんです。カーストという言い方がいいのかわかりませんが、主人公をカーストの上位タイプにしたのは、そういうところが書きたかったから。カーストの下のほうの人たちが主人公の物語って、上にいる人たちがちょっと悪者だったり、遊んでいたりする描かれ方が多い気がしますが、上の人には上の人なりの悩みがあるんじゃないかな、というのがありました。


――机が窓から投げ捨てられる事件の犯人と疑われたことで旭は立場があやうくなると焦り、自力で真犯人を見つけようとします。でも、篠宮や我妻はぜんぜん協力してくれない。

君嶋:同じ環境で育った人同士や、同じ趣味を持つ人同士が仲良くなるとは限らないですよね。
そもそも我妻は能力を持ったせいですでに周りと断絶して孤独を選んでいるし、篠宮も事件に関わり合いたくないと思っている。彼らももちろん、犯人扱いされていい気持ちではないけれど、自分から動いてどうしようという気はないんです。


――そんな我妻や篠宮の葛藤も次第に見えてきますし、能力者以外の人のいろんな側面も描かれますよね。いじめられている生徒がいたり、悪気なく無神経なことを言ってしまう友人がいたり、理解してくれる教師がいる一方、排外主義的な教師がいたり……。

君嶋:能力を持っていない人たちにも悩みはありますよね。能力を持ちたかったという悩みもあるだろうし、持っている人間が身近にいると辛いなと思うこともあるだろうし。他の生徒のなかにも周囲から孤立している人がいるのも書いておきたかったですね。学校ってやっぱり、さまざまな立場の人がいるので。



――ディテールも面白かったです。能力者はバッジをつけなければいけない、定期的にカウンセリングを受ける義務がある、ズルをするかもしれないから学校の部活は禁止など、いろいろなルールがあったりして。さらには、能力者とその家族だけが暮らす特別支援地区、通称「特地区」というのがあって、能力者は18歳になったら、その地に住むかどうかが選べる制度がある。旭たちもあと数年したら、選択を迫られるわけですね。

君嶋:特地区の設定は最初はなかったんですが、担当編集者さんからのアドバイスで、バシッと決まりまして(笑)。決めた時、すごくしっくりきました。主人公が自分の道を選ばなきゃいけなくなるというテーマはあったんですが、それがわかりやすく可視化されたというか。能力者によって選択は違うので、このキャラクターならこうするだろうな、などと考えるのが楽しかったです。


――旭の母親が、特地区への移住を選ぶことは別に「逃げる」ことではない、と語る場面が印象的でした。

君嶋:たとえば現実社会でも、学校で何かあって転校したほうがいいかもしれないとなった時、逃げたと思われるから転校は嫌だ、という生徒はいますよね。でも、それって「逃げる」のではなく、「自分の居場所を別のところに見つける」っていうことだと思うんです。学校だけでなくて、職場やいろんな生活の場で、「ここにいたくないけどいなきゃいけない」と感じる状況は結構ありますが、それが特地区という設定でわかりやすくなった気がします。


――旭は事件の謎を追い、人間関係や将来について悩みながら、自分と向き合っていく。ラストの彼の行動にぐっときました。

君嶋:群像劇の時に考えていたラストが自分ではしっくりきていなかったんですが、視点をひとつに絞るとなった時に、最後の場面は絶対にこれしかないって思いついたんです。読者の方がどう受け取ってくださるかはわからないですけれど、自分は結構気に入っています。


――さきほど、前は大人が主人公のものばかり書いていたとおっしゃっていましたよね。前作『君の顔では泣けない』も、女の子と身体が入れ替わってしまった男の子が主人公でしたが、自分とは異なる立場のほうが書きやすいんですか。

君嶋:自分とは違う立場の人の感情を考えるのが好きなんです。『君の顔では泣けない』の時も、身体が入れ替わってしまう人の気持ちってわからないから、想像するのがすごく楽しくて。今回も、時間を止められる能力があったらこう考えるだろうな、などと想像していきました。もちろん自分の感情を入れずに描写することはできないので、自分自身の辛かったり悩んだりした時の想いを混ぜて書きました。想像と経験で作り上げていく作業は結構好きです。


――では、次はどんな主人公を想像しているのでしょうか。

君嶋:次は、これまでに比べると自分に近くて、男性性に苦しむ人の話を考えています。「男らしくしろ」とか、「男は運動ができないと駄目だ」とか「男は仕事ができないと駄目だ」みたいなことを言われることは結構あるので、そのあたりがテーマです。来年出せたらいいなと思っています。



作品紹介



夜がうたた寝してる間に
著者 君嶋彼方
定価:1,650円(本体1,500円+税)
発売日:2022年8月26日

『君の顔では泣けない』著者待望の新刊!
高校二年の冴木旭には、時間を止めるという特殊能力がある。だが旭にとって一番大事なのは、普通の場所で、普通の人と同じように生きていくことだ。異質な存在に向けられる無遠慮な視線や偏見に耐え、必死で笑顔をつくっていた旭だったが、大量の机が教室の窓から投げ捨てられるという怪事件が起こり、能力者が犯人ではないかと疑われる。旭は真犯人を見つけて疑いを晴らそうとするも、悩みをわかり合えると思っていた能力者仲間の篠宮と我妻にも距離を置かれてしまう。焦りを覚えていたところに、また新たな事件が起きて……。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322204000318/
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▼『夜がうたた寝してる間に』大ボリューム試し読み
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著者プロフィール



君嶋彼方(きみじま・かなた)
1989年生まれ。東京都出身。「水平線は回転する」で2021年、第12回小説 野性時代 新人賞を受賞。同作を改題した『君の顔では泣けない』でデビュー。

▼君嶋彼方特設サイトはこちら
https://kadobun.jp/special/kimijima-kanata/

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