『君の顔では泣けない』著者・君嶋彼方さん待望の新刊! 小説野性時代新人賞受賞第一作『夜がうたた寝してる間に』
新人ばなれしたデビュー作として話題となった『君の顔では泣けない』の著者・君嶋彼方さんの待望の第2作となる長篇小説『夜がうたた寝してる間に』が8/26に発売となります。
生まれつきある「力」を持ったことで、周囲との違いや関係性に悩みを抱える高校生の葛藤と成長を描いた作品です。
本作の冒頭50ページを特別公開。書き出しの一文から息を呑むほど美しい、珠玉の物語をお楽しみください。
▼君嶋彼方特設サイトはこちら
https://kadobun.jp/special/kimijima-kanata/
『夜がうたた寝してる間に』試し読み#1
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四角い窓に、夜を眠らせて閉じ込めた。
少し開いた窓から漏れ聞こえていた雨の音が、ぴたりとやむ。ベッドサイドに置かれているデジタル時計がその動きを止める。ぼんやりと流していたスマホの動画の中の人々は、奇妙な格好で静止している。
ベッドで寝そべっていた体を起こす。窓の方まで歩いていき、カーテンを開く。黒く塗られたガラスに自分の顔がぼんやりと映った。若いけれどもう少年とは言えないような、一人の男の顔だ。それをかき消すように窓を開ける。
息を止めた暗闇が、絵画のように張り付いている。深夜の住宅街の明かりは部屋によって
体を乗り出して窓から顔を出す。エアコンで暖まった体が、首筋から徐々に冷えていくのを感じる。腕にぷつぷつと鳥肌が立つ。鼻から息を吸うと、凍り付くような空気が肺へと落ちていった。
大きく息を吐く。白い
ふいに手首に何か冷たいものが当たって、思わず手を引っ込めた。雨だ。雨粒はいくつもの小さな球体になって、夜の空を漂っている。体を動かす度、それはぺたぺたとまとわりつく。気付けば窓の周りだけ、
更に身を乗り出して、手を伸ばした。ぴったりと動きを止めているその水滴たちを、
両手を
くしゅん、とくしゃみを一つする。
窓の隙間から、雨の音が聞こえ始めてきた。