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特集

こんな書き手を待っていた。〈小説 野性時代 新人賞〉受賞作『君の顔では泣けない』著者、君嶋彼方さんインタビュー

『君の顔では泣けない』刊行記念 君嶋彼方インタビュー

同級生と体が入れ替わって、元に戻れないまま15年が過ぎた――。
古典的ともいえる題材「入れ替わり」を、現代的で誠実なまなざしで新しく捉え直し、選考委員を唸らせた〈小説 野性時代 新人賞〉受賞作。『君の顔では泣けない』と改題し、9月24日に発売されました。
本作がデビュー作となる期待の新人・君嶋彼方さんに、担当編集者がお話を伺います。

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新しい「入れ替わり」の物語


――小説 野性時代 新人賞のご受賞おめでとうございます! 応募作「水平線は回転する」(刊行時『君の顔では泣けない』に改題)が生まれたきっかけはなんだったのでしょうか。

君嶋:元々は短編の小説でした。本作は「入れ替わって15年後(現在)」と「その15年間何があったか(過去)」のパートが交互に進んでいくのですが、短編ではその現在パートのみの話でした。それを読んだ知人が、「この話、長編でも面白そう」という感想をくださり、確かにもっと話を膨らませられるかも……と思ったのがきっかけです。


――最初は15年後の部分だけのお話だったのですね! 入れ替わる前は坂平陸という男子高校生だった主人公・水村まなみは、15年後の時点では既に夫も子供もいて、普通の主婦として生活を送っているんですよね。そこに至るまでにどんな物語があったのだろうと、もっと読みたくなる気持ちは非常によくわかります。そもそも、「入れ替わり」という設定を選ばれたのにはどんな理由があったのでしょうか。

君嶋:「入れ替わり」は正直、使い古されているといっても過言ではないくらい昔から使い続けられている設定です。それでも近年に至っても様々な作品でこの題材が取り扱われるということは、それだけ興味が持たれやすいからだと思います。
しかしそれだけ溢れているのに、「入れ替わったこと自体への苦悩」をしっかり描いている作品はあまりないな、とふと思いました。もちろん描かれはするのですが、あくまでその設定をベースにして恋愛話やミステリーが展開されていくものが多いように感じたのです。であれば、もっと「入れ替わり」に焦点を当てた作品があってもいいのでは、と考えました。
ちなみに「入れ替わったまま戻らない」も同じです。そのままずっと、という展開の作品もいくつか知ってはいますが、あまり見かけない気がするので。また、「入れ替わった男女が恋愛関係に発展しない」も同様です。
ないのなら、そういった作品を書こう、と思い執筆しました。


――「入れ替わったまま、元に戻れない」「恋愛関係に発展しない」はこの作品の2大ポイントと言えそうですね。しかし「元に戻るための格闘」や「恋愛」と切り離して日常を描いていくことは、かなり難しい挑戦であるとも思います。本作のご執筆時に苦労されたことはありますか?

君嶋:入れ替わり後の陸とまなみが会話するシーンは少々苦労しました。「見かけは女性だけど言葉は男性」を文字で表現する、というのに書きながら自分でも混乱してしまうことがしばしば……
それと、ぼくは男ですので、女性の体にしか起きないことを表現するのは苦労というより不安がありました。これを読んだ女性はどう思うんだろうか、きちんと表現できているだろうか、と考えてしまい、筆が止まることもありました。


――そのお答えが意外に思えるくらい、本作では女性ならではの違和感や不安がリアルに描かれているなと思います。特に、入れ替わってしまった最初の朝、生理になっていることに動揺し、廊下にうずくまって泣いてしまうシーンが非常に印象的でした。このシーンがどのように生まれたのか、教えてください。

君嶋:上の質問でも少し触れさせていただきましたが、やはり女性と入れ替わるとなれば、女性の体にしか起きないことを書くべきだと思いました。その中であの年齢の女の子が一番身近なことといえば、やはり生理かなと。
もし入れ替わって困惑している状態で、激しい腹痛、しかも出血しているなんてなると、自分だったらたぶん泣いちゃうなあ、と思って書きました。


――この「たぶん泣いちゃうなあ」の感覚がとても現代的で、同世代の編集者として、こんな書き手を待っていた、と心から嬉しい気持ちでした。ご自身では、ここが気に入っているというシーンはありますか?

君嶋:大人になった弟とまなみの体の陸が会話するシーンは好きです。弟のキャラクターは自分でも結構気に入っていて、できればもう少し出番を増やしたかったのですが、入れる余地がなく断念しました。


――あのシーンはすばらしいですね。幼い頃の弟との思い出も、月日が流れるなかで弟も成長し変わっていく様子も、切なくて美しくて、私も大好きです。

刊行までの道のり


――受賞された後のことも伺ってみたいと思います。まずは、受賞の連絡を受けた際のお気持ちを教えてください。

君嶋:〇〇日に結果の連絡をします、という電話を戴いてから当日まで、本当に胃が痛くなるような日々でした。当日は絶対に仕事が手につかなくなるだろうから、と休みを取ったのですが、家にいてもずっとそわそわして落ち着かなかったです。
受賞の連絡を戴いたときは単純に嬉しかったのですが、「騙されてるんじゃないだろうか」の気持ちが二割、「結構色々やることがあるな」が一割、正直ありました(笑)。単行本化に向けて話が進んでいくにつれ、あぁ本当に受賞したんだなあと徐々に実感していきました。


――騙していないのでご安心いただきたいですが(笑)、なかなか実感が湧かないものだろうなというのはお察しします。それでも、ついに本という形になりましたね。完成した本を見たときの感想を教えてください。

君嶋:初めて個人で同人誌を作ったときも「自分の書いたものが本になった!」と喜んだのですが、それとは比べ物にならない充足感です。これが本屋に並んだり誰かの家に置かれたりするのか……と思うと、不思議な気持ちでいっぱいです。


――単行本ができるまでの過程で、悩んだことや、苦労したことはありますか?

君嶋:単行本化の作業自体は編集さんのご尽力もあり特に苦労した部分はないのですが、「果たしてこの本をみんな面白いと思ってくれるんだろうか」という悩みはずっとついて回っています。読者の皆様の反応が今から楽しみでもあり恐ろしくもあり、の心境です。


――感想が楽しみですね。読者の方にはどんなところに注目して読んで欲しいですか?

君嶋:どうしてもジェンダー的な部分が目につく作品ではあると思うのですが、気にせず気軽に読んでいただければ嬉しいです。苦労した陸とまなみの会話文にはぜひ注目してみてください(笑)。

好きな小説家は「君嶋彼方」と言ってもらえるように


――君嶋さんご自身についても教えてください。小説を書き始めたのはいつ頃でしょうか。

君嶋:最初に書いたのは中学生の頃です。そのときは走り書き程度の短い作品をいくつか書いていて、本格的に書き始めたのは大学時代です。文芸サークルで合同同人誌を出していました。


――文芸サークルに所属されていたんですね。小説がすごくお好きなんだなということは普段のやりとりでも感じていました。好きな本をいくつか挙げていただけますか?

君嶋:好きな本は挙げきれないほどいっぱいあるので、影響を与えてもらった本を。敬称略で失礼致します。
・山本文緒『ブルーもしくはブルー』
小説を書くきっかけになった本です。ここから山本文緒さんの作品にハマって、「こういうのを書きたい!」と思いました。
・伊坂幸太郎『ラッシュライフ』
初めてラストで涙ぐんでしまった本です。あんまり泣かせるようなタイプの作品ではないのになぁと自分でも思います。
・小野不由美『屍鬼』
とにかく衝撃を受けた本です。あの文量を一気に読ませる巧さに舌を巻き、こういうのは到底自分には書けないと思わされました。


――私も大好きな作品が!……という個人的な感想はさておき、謙虚な君嶋さんですが、次回作も非常に楽しみです。今後はどんな作品を書いていきたいですか? 抱負を教えてください。

君嶋:ネタのストックだけは頭の中にたんまりとあるので、それをどんどん形にしていければと思っています。ジャンルにこだわらず、色々な作品を書いていきたいです。
好きな小説家は誰? という質問に「君嶋彼方」と答えてもらえるような、そんな作家になっていきたいと思っています。どうぞよろしくお願いします!

作品紹介『君の顔では泣けない』



君の顔では泣けない
著者:君嶋彼方
定価:1,760円(本体1,600円+税)

この顔も、体も、本当は君のものだから。
高校1年の坂平陸は、プールに一緒に落ちたことがきっかけで同級生の水村まなみと体が入れ替わってしまう。いつか元に戻ると信じ、入れ替わったことは二人だけの秘密にすると決めた陸だったが、“坂平陸”としてそつなく生きるまなみとは異なり、うまく“水村まなみ”になりきれず戸惑ううちに時が流れていく。もう元には戻れないのだろうか。男として生きることを諦め、新たな人生を歩み出すべきか――。迷いを抱えながら、陸は高校卒業と上京、結婚、出産と、水村まなみとして人生の転機を経験していくことになる。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322105000257/
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『君の顔では泣けない』試し読み



同級生と入れ替わって、戻れないまま15年。発売前から話題のデビュー作『君の顔では泣けない』試し読み#1
https://kadobun.jp/trial/kiminokaodewanakenai/20b7e3p7ok9w.html


君嶋彼方(きみじま・かなた)

1989年生まれ。東京都出身。「水平線は回転する」で2021年、第12回小説 野性時代 新人賞を受賞。同作を改題した『君の顔では泣けない』でデビュー。

紹介した書籍

MAGAZINES

小説 野性時代

最新号
2021年11月号

10月25日 発売

怪と幽

最新号
Vol.008

8月30日 発売

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