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ノーフューチャー時代の政治権力に真正面から勝負を挑む、渾身の一冊――白井聡『長期腐敗体制』レビュー【評者:栗原康】

なぜ、この国ではいつも頭から腐っていくのか?構造的理由を解明する。
白井 聡著『長期腐敗体制』書評

白井 聡著『長期腐敗体制



栗原康さんが『長期腐敗体制』を紹介!
本選びにお役立てください。

ノーフューチャー時代の政治権力に真正面から勝負を挑む、渾身の一冊――白井聡『長期腐敗体制』レビュー

【評者:栗原康(政治学者、アナキズム研究)】

 われわれに未来などない。いきなりそういわれると、だれもが不安でたまらなくなる。そこに、たとえウソでもあかるい未来が提示されれば、われさきにとすがりついてしまう。みなさん、これで安心ですよ。ただしい批判は通用しない。だって、はなからウソをついているのだから。
 むしろウソをホントにするために批判者たちが血祭りにあげられる。デマに誹謗中傷。相手を悪にしたてあげる。とりしまればこちらが正義。安心だ。偽りの未来が信仰にかわる。ウソであってはならなくなる。もっととりしまれ。とりしまるためにとりしまれ。伝説的圧制のはじまりだ。
 さて、本書は政治学者、白井聡の渾身の一冊だ。このノーフューチャー時代の政治権力に真正面から勝負をいどんでいる。とりわけ白井が注目するのは二〇一二年以降だ。もはや世界に将来のビジョンなどなくなっている。冷戦時代のように自由主義か社会主義かではないし、その後、カネもちによるカネもちのための世界をめざし、ブイブイいわせていた新自由主義も金融危機でふっとんだ。
 だが、二〇一二年、政権をとった安倍晋三がいいはじめる。これからはカネもちのための経済を築きます。貧しい庶民のための経済を築きますと。どっちだよ。アベノミクスだ。政策や理念は矛盾だらけ。そのつどだれにでも口当たりのよいことばがならべられ、ハッピーな未来が約束される。
 じっさいには貨幣量をふやし、円安にして大企業は輸出でボロもうけ。海外から部品を仕入れなきゃいけない中小企業は血ヘドをはき、労働者の実質賃金もさがる。貧乏人が貧乏になっただけのことだ。
 しかし政府はいう。アベノミクス大成功。日本は好景気。ほら、失業率がさがったでしょうと。ほんとは団塊の世代が退職して人手不足になっただけ。統計の見方を操作すれば、いくらでも虚偽を真実にできる。御用学者が万歳三唱。みんなもうまくいっていると信じたいから、ずっとそのウソにしがみつく。
 もしこれに本気であらがえば、徹底的に弾圧される。たとえば、カネもちどもめふざけるなと労働組合がストライキ。そしたら威力業務妨害で逮捕。賃上げは恐喝とよばれて逮捕される。あとはメディアをつかって犯罪者のレッテルばりだ。
 あきらかなウソでも、みんながそうだといえばこれも真実。みんなではなしあい、みんなで同意した結果なのだ。ポスト・トゥルース時代の民主主義。まるで戦前の天皇制だ。国体かよ。
 どうしたらいいか。白井はいう。「間違ったことをやらせる命令を拒否」。同意するよりも、拒絶する力を身につけたい。ウソでもしたがわなければバッシングされる? そんなふうにまわりを気にして生きるのはもうやめよう。あなたの民主主義にドロップキック。真実だけがあたまをたれる。
 したがわない、ゆえにわれあり。だいたい偽りかどうか以前に、将来のビジョンじたいが必要なのか。いまを犠牲にさせられるだけじゃなかったのか。最高の未来より最低のいまを全力で生きたい。おれたちの最低生活。伝説的圧制をうち砕け。すべての道は統治崩壊につながっている。

【作品紹介】
『長期腐敗体制』


長期腐敗体制
著者 白井 聡
定価: 1,012円(本体920円+税)
発売日:2022年06月10日


なぜ、この国ではいつも頭から腐っていくのか?構造的理由を解明する。
衰退途上国から脱け出すために――。
なぜ、いつも頭(トップ)から腐るのか!?
不正で、無能で、腐敗した組織が続く構造的理由を、レジーム分析を続ける政治学者が剔抉する。

悪徳の三拍子がそろった時代。
不正=間違った政治理念を追求。ないしは、その理念に動機付けられている
無能=統治能力が不足している
腐敗=権力を私物化し、乱用している

第二次安倍政権以降の状況は「体制」と呼ぶ方が的確だ。
体制とはトップが入れ替わっても権力構造が基本的に変わらない状態を指し、個人名に重きを置く政権とは違う。
長期腐敗体制と化していった要因を洗い出し、シニシズム(冷笑主義)を打ち破る術を模索する。

詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322107000850/
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