アラフィフ姉妹のきまま旅!お参りして美味しいもの食べてパワーチャージ!――椰月美智子『ご利益ごはん』レビュー
評者:吉田伸子
なんて楽しい物語なんだろう。読んでいる間中、ずっと思っていた。物語の主人公はアラフィフ(四十八歳)の早智子で、彼女の本音が、まんまアラフィフあるあるというか、妻あるある、母親あるあるなんですよ! なんたって、本書の冒頭の一行は、「全員皆殺しっ」なのである。面白くないわけがないじゃないですか! 物騒な言葉が、朝起き上がる時の日課のようになっている早智子の横で、夫はすうすうと寝息。これは、夫あるある(怒)。
早智子の朝は目まぐるしい。高校生の長女のお弁当を作り、家族の朝食を用意し、夫を起こしたところでようやく洗顔。朝食を食べ終えた夫に、食器を洗うことを促してから、二階でまだ寝ている双子の中学生男子を起こしに行く。部活がある佑人の返事が「……うるせえなあ」で、明人の返事が「んああ」。やっとこさ起きて朝食を食べた佑人に「自分が食べたものくらい下げなさい」と声をかければ、返って来た言葉が「……毒親」。泣くわ、こんなの!
とはいえ、早智子には泣いている暇はない。大急ぎでご飯を食べ、家の中を片付け、洗濯機を回し、家中のゴミをまとめてゴミ出しをした後、仕事場へ。早智子の職場は、地元の「五ノ丸神社」だ。書道師範の免許を持つ早智子は、そこで御朱印書きの仕事をしている。
冒頭、御朱印を依頼した男性(三十代見当)から値段を聞かれ「お気持ちでお願いさせていただいております」と返した早智子。百円玉がなくてさ、五百円玉ならあるんだけど、と言い訳しつつ男性が出したのは「五十円玉」。おい! 五百円だろ、そこは。
と、まぁ、早智子の日々はだいたいこんな感じ。三人の子ども(うち二人は双子! 双子が小さかった頃の早智子の苦労、どんだけだったことか)を育てつつ、仕事と家事に追われるその姿がめちゃリアル。
疲労困憊して帰宅し、ソファでぐったりしているところに、姉からの電話が入る。早智子より四歳年上の奈緒子は、もうすぐ五十三歳。離婚して、二十八歳と二十六歳、二人の娘と暮らしている。奈緒子は、早智子のイライラを更年期かもと指摘し、婦人科の受診を勧める。忠告に従い、後日クリニックを訪れた早智子は、「加味逍遙散」という漢方を処方される(出ました、「加味逍遙散」! 私も服用していました)。
とはいえ、漢方ですからね。即効性があるものばかりではないわけで、早智子のイライラDaysはなかなか改善されない。そんななか、奈緒子から「三嶋大社」に一緒に行かないか、とのお誘いがが。ここから、早智子と奈緒子姉妹の神社巡りが始まる。
描かれているのは、三嶋大社を皮切りに寒川神社(神奈川県)、伊勢神宮(三重県)、北野天満宮(京都府)、豊川稲荷(愛知県)。嬉しいのは、参拝とグルメがセットになっていることだ。三嶋大社ではうなぎ、寒川神社ではお抹茶と和菓子のセット、伊勢神宮では伊勢うどん、松坂牛丼、松坂牛コロッケ、伊勢海老……。どれもこれも食べたくなってしまう。それぞれの神社参拝には、その折々で早智子の家族のドラマ(そりが合わない母親との葛藤やら、穏やかな父親に隠された衝撃の過去やら、双子の受験やら)が描かれているのも、いい。
なによりいいのは、本書のタイトルにある「ご利益」もちゃんと描かれていることで、読んだ後、自分も神社に足を向けてみよう、という気持ちになるのだ。神社の持つ、あの静謐な空気感が、ページの向こうから読み手にすうぅっと届けられるのだ。自分のためでも、誰かのためでも、神様の前で手を合わせるというのは、幸せなことでもあるのだな、と実感できる。
「神仏を信じると、生きることが楽になる」というのは、奈緒子の言葉だけど、本書もまた、読むと気持ちが楽になること、請け合います!
作品紹介
書 名:ご利益ごはん
著 者:椰月美智子
発売日:2025年02月25日
アラフィフ姉妹のきまま旅!お参りして美味しいもの食べてパワーチャージ!
「全員皆殺しっ」。物騒な言葉を吐きながら毎朝起床する前田早智子は48歳。中高生3児を抱え、日々の家事に追われる毎日だ。ある日、見かねた姉から三嶋大社へ行こうと誘われる。信仰心を持たない早智子も、日々の愚痴を神様に盛大に打ち明けてすっきり。その後に食べたうなぎのおいしいことといったら。反抗期の子ども達、夫の浮気、親の介護問題……休まらないアラフィフの日常を生き抜くコツ、ここに詰まってます。
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