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(解説者:吉村栄一 / 編集者)
写真家・三浦憲治は今年(2019年)7月、古希を迎えた。20代の頃より、雑誌、広告をはじめとした様々な媒体で写真を発表してきた三浦だが、なによりも知られているのは内外のアーティストのポートレイトだろう。
1970年代のピンク・フロイド、レッド・ツェッペリン、サンタナ、クイーンといった海外のアーティストはもちろん、日本のアーティストでもユーミン、矢沢永吉、奥田民生などは三浦のカメラによってステージでの輝く一瞬や意外な素顔を数多く撮られてきた。最近では歌舞伎役者の撮影も多い。
そんな70歳の三浦のこれまでの仕事の中で、特別とも言えるのがイエロー・マジック・オーケストラ(YMO)の撮影だ。
1978年に結成され、日本のバンドとしてはいち早く世界進出を果たした。1980年代に入ると、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の文化面の象徴として、SONYのウォークマンやテレビゲームとともに海外でも親しまれた。
三浦は1979年のYMOの最初の海外公演の撮影を機に、以降、YMOに密着する。中でも1980年に行われたYMOの2度目のワールド・ツアーでは40日間7カ国の長期のツアーに帯同した。
「俺は写真で時代の空気も記録しているんだ」と語る三浦らしく、この日本のバンドでは例のない大規模なワールド・ツアーにおいて、ステージはもちろんオフでの素顔などとともに、YMOを食い入るように見つめる海外の若者たちの姿、あるいは欧米の街角に張られたYMOの公演ポスター、大量の機材や衣装などを撮影することによって、当時のYMOを取り巻く高揚した空気、緊張感を見事に記録している。付録として掲載したこのワールド・ツアーの過酷な日程表や、毎日の食事メニューなどのテキストと合わせ、スリリングな記録集になったのではないだろうか。
YMOは1983年に一度解散(散開)するが、三浦との縁は続き、メンバーそれぞれのソロ活動を継続的に撮影。1993年、2007年のYMOの再結成、再々結成のときも、つねにカメラを構えて被写体とその周りの空気を記録してきた。
1980年代の尖った鋭い目つきのYMOは、年を経てどこか柔和な表情の写真が多くなり、近年の撮影ではメンバーの子や孫も登場する。
「俺が撮影するとYMOのメンバーはいつもふざけるんだ。なかなか真面目に撮らせてくれない」
本書に掲載のインタビューで三浦はしきりとそうぼやくが、それだけYMOのメンバーは三浦を信頼し、心を許しているという証拠だろう。
本書は2018年の夏に企画された。1年後の2019年夏に三浦が古希を迎えること、そして同時に三浦がYMOの撮影を始めた1979年夏からちょうど40年となることから2019年夏の発売を目標にし、企画がスタート。
数千点を超える40年間のYMOの写真をあらためて三浦が整理し、編集サイドとともにセレクトを行った。何度かのセレクト作業の結果、YMOのメンバーには400点超の写真をチェックしてもらった。今年早春からのそのチェック作業に並行して、2019年のYMOメンバーのソロ活動の撮影も進行した。3月の『Yellow Magic Children』、『NO NUKES 2019』と5月の『CIRCLE '19 』の3つのイベントで、この写真集のための撮影が行われ、本書のフィナーレとした。
これまで多くの人に愛されて目に触れてきた有名なカットもあれば、本書で初めて公開される多くのカットもあり、「みんなが愛するYMO、誰も知らなかったYMO」の姿が本書には収録されている。1970年代から時代をともにしてきたかつての盟友との共演シーンの写真も多くはここで初公開となった。40年は短いようでやはり長い。YMOも三浦もともに年を重ねたが、時代も変わった。フィルムで撮られた写真とデジタルで撮られた写真が混在している。街角の様子、観客たちのファッション、使用される楽器。YMOを主軸としながら、三浦のカメラは時代の変遷もまた記録しているのだ。
YMO、ならびにそのメンバーのソロ活動は本書完成後も活発に続いており、賑やかな気配はやむことがない。
40年間のYMOの記録となった本書だが、三浦はこれからもまだまだYMOとそれを取り巻く時代の空気を撮影し、記録を続けるだろう。
50年、あるいはそれ以上に続くだろう三浦とYMOの並走の記録の、本書は中間報告なのかもしれない。
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執筆者プロフィール
吉村栄一(よしむら・えいいち)
1966年生まれ。『広告批評』編集者を経てフリーの編集者/ライターに。著書に『評伝デヴィッド・ボウイ』(DU BOOKS)など。『龍一語彙』(坂本龍一/KADOKAWA)の構成・執筆にも携わる。