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レビュー

この「6年3組」の中には、あの日の自分がいる…。小さな社会の残酷さと希望を描く『君たちは今が世界』

【カドブンレビュー】



「皆さんは、どうせ、たいした大人にはなれない」
担任女教師が放った信じられない一言。

 4つの章からなるこの作品は、そんな衝撃的な第1章からスタートする。
 ある小学校の6年3組。クラスの中心的な存在である男子と女子のグループが、担任の女教師に嫌がらせをする。教壇に生理用ナプキンを置いて反応を嘲笑ったり、小馬鹿にした態度で口答えしたりと学級崩壊寸前だ。
 そんな中、男子グループの一人である尾辻文也は違和感を感じながらも、仲間はずれにされるのを恐れ、ついに悪戯と呼ぶには酷すぎる行為にまで手を染めてしまい……。

 第2章以降は別のクラスメイトの視点から、クラスの人間関係が浮き彫りにされていく。6年3組という小さな社会で渦巻く様々な感情。子どもなりにその社会の中で自分の居場所を見つけようとする努力や駆け引きは大人のそれと大差ない。遠慮や忖度がない分、欲望に忠実で残酷な彼らの様子が描かれる。

 特筆すべきはそのリアルさだ。
 不安を感じながらも悪戯の後に達成感を感じてしまう文也の心の弱さ。見下した態度をとる女子に対し虚勢を張る男子たち。教師を馬鹿にする言葉の一つひとつに滲む幼さ。傍観することしかできない自分を正当化しようとする偽善。何より嫌がらせをする彼らに明確な悪意が感じられず、ただの遊びの延長、子ども特有の無邪気な残酷さが見事に表現されている。
 6年3組の中にはあの日の自分がいる。だから読んでいて息苦しくなる。あの日の自分の未熟さを目の前に突きつけられて狼狽える自分を自覚する。最初は僅かな痛みだった。だが読み進めるうちに、その刃はゆっくりとズブズブと身体に差し込まれていく。悲鳴をあげることもできず、息を止めて歯を食いしばり目を見開いて読み続けることしかできない自分に戦慄する。

 この物語を全くの他人事として読める大人がどれほどいるだろうか。
 子どもであることを免罪符にして人を傷つけることに頓着せず、そのくせ自分が傷つけられることを極端に恐れ、見栄と虚勢で自分を必死に守っていたあの頃。
 そんな子ども時代を経て、今自分は「たいした大人」になれているだろうか。年を重ねた分、周囲から当たり前に求められるままに大人のふりをしているだけではないのか。
 エピローグで作者は一つの答えを示すが、正解の無いこの問いかけには読者の数だけ答えがある。そんな気がしてならない。


ご購入&試し読みはこちら>>朝比奈 あすか『君たちは今が世界』


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