ある会合で話題に上がったAさんという女性。いわくありげで「近づきたくない人」らしいが、みな顔を合わせる度に彼女の話に没頭する。Aさんに会ったことのないわたしは、いつしか想像の彼女と本書の水無月を重ね合わせていた。
離婚の痛手から、他人を愛し過ぎないように生きてきた水無月。しかし小説家の創路によって、あっけなく誓いは破られる。自分勝手な創路に振り回される水無月の本心はどこにあるのか? そして彼女の過去とは?
水や食べ物と違い、愛は目に見えない。だけど両方とも人間に必要で、足りなければ死んでしまう――水無月は常に愛の飢餓感の中にいたのだろう。愛されるために常軌を逸した行動に走った彼女に、正直近づきたくない。だけど嫌いになれない。
「私の中に溜まっていた膿のようなものが、彼めがけて噴き出してしまっただけのことだと思う」もしかしたらAさんも噴き出してしまったのかもしれない。
誰だって噴き出す恐れはある。
「ダ・ヴィンチ」中江有里さん書評
- 心がざわつく「あひる」の姿が、読み終わった後も脳裏に浮かんできます。――『あひる』
- 娘を殺された父の復讐は正義なのか? 重いテーマが導き出す予想外の結末。――『さまよう刃』
- 自閉症の世界には秩序があります。それを知ればこの世界はもっと広がります。――『自閉症の僕が跳びはねる理由』
- 小説の面白さを存分に味わえる。切実なまでのこの愛にあなたは気づくだろうか。――『悪いものが、来ませんように』
- 物を捨てることで人生を考える。片付けという闘いを描いたノンフィクション!――『老いと収納』