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レビュー

留学生はまるで「奴隷労働者」 その匿されし実態を暴く『移民クライシス 偽装留学生、奴隷労働の最前線』

 改正入管難民法が4月1日に施行された。安倍政権は5年間で最大約34万5000人の外国人労働者の受け入れを見込む。政府は否定するが、日本は実質的に移民国家となり、私たちは大量の外国人と同じ空間で暮らす時代を迎えることになる。しかし、すでに単純労働に就く外国人は大量に日本に入って来ており、その多くが日本人が働かなくなった最底辺の仕事に就いている。

 2018年6月時点で外国人技能実習生約28万5000人が農業や漁業、製造業などの分野で働いている。それを上回る約32万4000人の留学生が在留しているが、彼らの大半も低賃金労働に従事している。技能実習生については、劣悪な境遇をマスメディアが報じるようになったが、留学生がピンハネと差別待遇の中で、借金漬けになって蟻地獄のような暮らしを強いられていることは、本書の著者・出井いでい康博やすひろが告発するまで、ほとんどの日本人が知ることはなかった。私も出井の前著『ルポ ニッポン絶望工場』(講談社+α新書)と、さらに取材を重ねた本書を読むまで、ここまでえげつない仕打ちを受けているとは知らなかった。出井は、実態を「奴隷労働」「人身売買」と厳しい言葉で表している。

 人の大量移動にはプル要因とプッシュ要因がある。日本には安い労働力を求める吸引力があり、ベトナムなどの送り出し国には、貧困と若者に職がないという押し出し力がある。そこに、両者を結び付けて儲けようという勢力が出現する。労働力不足を深刻にとらえる日本政府が留学生拡大策を採って吸引を支えることで、それはビジネスとして膨張してきた。「日本に行けば稼げる」という甘言を信じ、母国で日本への送り出し機関やブローカーに多額の借金をして来日する留学生たちは、その返済費用と学費、生活費を稼がなくてはならない。こうして彼らは日本人の働き手が来なくなった深夜の肉体労働などに送り出されていくのだ。

 出井は多くのベトナム、ブータンなどの留学生と付き合い、日本語学校の職員と関係を作り、送り出すベトナムにも行って、「奴隷労働」「人身売買」の実態を赤裸々に描き出す。酷い日本語学校がある。パスポートと在留カードを取り上げ、学費を支払うまで返さない。「一部屋に8人詰め込んで、一人から2万5000円を取っていた」という寮を使ったボッタクリ。自分は奴隷商人と同じだと、良心の呵責を日本語学校職員が告白する。

 出井は、留学生ビジネスを展開する組織や学校、そしてキーマンたちに取材をかけ、その実名をはばかることなく記す。確かな取材を重ねている自信と、訴えられたり、攻撃されたりすることを覚悟している証しだろう。そして出井の筆は、私たちが謳歌している「便利で安価な暮らし」に向けられる。24時間開いているコンビニ、そこで売られる数百円の弁当、ネットで簡単に注文すれば翌日届く宅配荷物の仕分け……。私たちの目に触れないところで仕事をしている外国人労働者の犠牲があって、「便利で安価な暮らし」は成り立っているとの指摘は重い。

 返す刀でメディアの偽善も斬る。外国人実習生に対する人権侵害を書く朝日新聞が、留学生を新聞配達員として使いながら、賃金の未払いや日本人従業員との差別待遇を放置していた実態も緻密な取材で暴く。

 著者は英字紙記者をやめた後、経済、政界、米国現地ルポなど、幅広い分野で健筆を揮ってきた。筆致は主義主張や正義をふりかざすタイプではない。だが、この本は違う。ページを繰るごとに、怒気が立ち昇ってくるかのようだ。入管難民法の改正は国会でも論議されたが、留学生問題は無視された。メディアもほとんど報じない。日本社会は知らぬ存ぜぬを決めこんでいいのかという怒り。あまりの不条理と偽善を生み出し続ける政官財一体となった利権構造への怒り。出井は巻末でこう記す。

醜悪さもまた、他者を思いやる余裕をなくしてしまった、落ちゆく日本と日本人の姿そのものなのかもしれない

憂国の書でもある。


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