【朗読つきカドブンレビュー】
カドブンを訪れて下さっている皆さま、こんにちは。
今回は警察小説、古野まほろ著『女警』を紹介したいと思います。
刊行される作品数も非常に多いジャンルですが、本書の作者はそんな「激戦区」でも珍しい、また華々しい経歴の持ち主。
東大法学部卒、警察庁I種警察官として採用され、交番、警察署、警察本部、海外などでの勤務を経て警察大学主任教授まで勤めあげた元警察キャリア官僚——そんな人が書いた警察小説ってどんなものなのか大いに気になるじゃありませんか!
凪いだ、夜だった。
すなわち、強盗もひったくりもなければ、まさか殺人もない。
警察署の当直をうんざりさせる、首吊りなどの変死事案すらない。
変死事案が起こると警察署の当直はうんざりした気分になるんだ!
なんというか……リアルです。
警察官として現場にいなければ出てこないであろう言葉に冒頭からワクワクします。
このように静かに幕を開ける『女警』ですが、さびれた駅の人通りのない交番で若い女性警察官——「女警」——がベテラン警部補を射殺し、姿をくらますという事件が発生し、凪いだ夜は一瞬で嵐の夜へと転じます。
事件の解決を命じられたのが、警察の不祥事に対応する女性キャリア監察官の姫川理代。
彼女に捜査を命じたのが〈女性の視点を一層反映した警察づくり〉を推し進める女性県警本部長。
事件を追うのも、それを助けるのも「女警」。
主人公の理代が被疑者の足取りを追い、心の動きを理解しようと多くの「女警」に話を聞くうちに、やがて事件の真相が浮かび上がってくる、というお話です。
この本をいわゆるオーソドックスなミステリーや警察小説と隔てているのは圧倒的な熱量と生々しい内部からの視点でしょう。
組織内の序列やキャリアと地域警官の力関係、市民の常識から乖離した警察独自の体質や理不尽さに始まり、女性警察官の歴史や立場、男社会である警察組織の内情は元警察関係者である作者でなければ描けないように思えました。
H27年度時点で、全国において女性警察官の割合は8.1%。警部以上の階級にあるのはわずか0.1%。
圧倒的に少ない「女警」は職場で命じられる「女性ならでは」の業務に忙殺されているそうです。男女平等の元に推進されている女性警察官の積極的な採用ですが、そこには職業人としての平等さはなく、性差だけが存在しているのかもしれません。
もちろん警察だけでなく、どんな組織にも不正やゆがみは存在します。
本書を読んでいると、これは警察小説でなく警察組織に対する内部告発なのでは、と思わせられましたが、実は吉野作品は、そんな組織の中で働く人たち全員へのエールでもあるそうです。
興味のある方は是非ページを開いてみてください。
*本文中の女性警察官、警部以上の役職についている女性警察官の数字は、警視庁Webサイトを参考にしています。
https://www.npa.go.jp/hakusyo/h27/honbun/html/r6110000.html
書誌情報はこちら>>古野まほろ『女警』
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