【カドブンレビュー】
「専門論文は無理でも、新聞の生物学関連の記事や、一般向けの生物学の本を、より興味をもってより深く読むことができる」ように書かれたという序文を読んで俄然期待が高まる。以前大きな話題になったiPS細胞など、最新医療に関する新聞記事というのはよく目にするが、書いてある内容は意外と難しい。だが、この本を読めばもう「分かったふり」をしなくてよいのだ。まるで理系の話題が苦手な私のために書かれた本と言っても過言ではない。実際、時にユニークな例え話を交えながら繰り出される様々な生物学の話題は非常に分かりやすく面白い。
私が最も驚いたのは光合成人間の話だ。
単細胞から多細胞へ、生物の劇的な進化の起源は共生にあるという。その中で光合成機能をもつ葉緑体との共生に成功したのが植物だそうだ。だから人間が最新技術を駆使して共生できる光合成生物を開発し、人の中に入れてやれば、食事をしなくても光合成で生きていける人間ができるという。いわばソーラー人間。いやはやなんとも夢のような話だが、自分は謹んで遠慮したいと思う。
また、突然変異と自然選択の話題も興味深い。
生物は生存を脅かされるようなストレスにさらされると突然変異を起こして適応しようとする。変化に対応する方向性をもって変異するという考え方がある一方、デタラメに様々な種類の突然変異が起こり、たまたまその変化に適応できたものが生き残るという説も有力だ。もし真実が後者であるなら、まさに数撃ちゃ当たるの適当さで生まれてきたのが我々人類ということになる。そもそも進化の過程というのはそれほど緻密なものではなく、そのほとんどがアクシデントの産物だという。
生き延びるためにはるか太古の昔から繰り返されてきた壮大な「偶然」の積み重ねの上に「たまたま」生まれてきた人間、そして自分という生物。なんとも不思議な気分にさせられる。
誰もが気になる話題を楽しく読ませながら、生命の起源からヒトの誕生までをきっちり網羅し、まさに生物学の土台となる部分の理解が深まる本作。今度新聞に生物学の話題を見つけたら、この本を思い出しながらいつもより突っ込んで読んでみようと思う。
書誌情報はこちら>>池田清彦『初歩から学ぶ生物学』
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