【カドブンレビュー】
猫背で髪はいつも寝癖がついている冴えない青年・遠野青児は特殊能力を持っている。幼いころ偶然左目に「照魔鏡」の欠片が入り込み、人の罪を見通し、罪を犯した人それぞれの罪や特徴を現した「妖怪」に見える能力が備わったのだ。
青児は、もう一人の主人公・西條皓に会うまでは、その日暮らしでニートとしてダラダラ暮らしていた。性格はおっとりしていて罪人をズバズバ追い詰めるような切れ者ではない。
西條皓は、白肌と漆黒の瞳の美少年で、常に冷静沈着であり聡明な性格である。森の奥で紅子というお手伝いさんとひっそりと住んでおり、「地獄代行業」を営んでいる。青児を助手に迎えてから彼をペットのように扱いながらも、罪人を妖怪として見抜く能力や事件に関する独自の観点を持ち合わせた青児と対話することで、その中から事件の鍵を見出し、共に事件を解決していくのである。最後には皓による罪人への痛快な「地獄墜とし」が待っているのであった。
本作は、それぞれ独立したストーリーが楽しめるような構成になっている。その中の1つの話である「鬼」のストーリーが一番分厚であったので、こちらを紹介したい。
ある日、皓に「絢辻幸次が持つ孤島でバラバラ殺人が起こる」との予告が届いた。青児と皓はその真相を探るべく、島に向かうのであった。
登場するのは、生きているかのごとくリアルな人形を作る、人形作家の絢辻幸次とその娘・璃子。璃子は、母親をなくしてから精神を病んでしまい、まるで人形のようになってしまっていた……。
頭脳明晰な皓と、罪人を妖怪に見通せる特殊能力を持っている青児のコンビ。一見向かうところ解けない謎は無いような最強コンビだが、この世界でもそう簡単に事件は解決しない。魅力的なキャラクターの生き生きした様や、地獄代行業としての特殊な職業の生業を楽しめるだけではなく、一筋縄では解決しないミステリー要素が満載であり、事件の謎解き自体をも楽しめる作品だ。
青児の能力は、「罪人が妖怪化して見える」というだけで、謎解きのヒントになるにとどまり、皓も青児の能力に頼るだけでなく、きちんと実況見分をし、仮説を立てて行動している。事件解決に向けて、仮説と検証の繰り返しが行われ、仮説がカチカチとつながっていきバチッと答えがでる様は、痛快かつ達成感を味わうことができた。
謎解き中にミスリードをするような仮説がいくつか散りばめられているのだが、そこで青児の能力が活躍する。皓は、理路整然と状況証拠を整理し一定の推論にまでたどり着く。だが次は、それだけでは解決しない問題にぶち当たり、矛盾が解決しないのである。そこで、青児の能力や観点を用いて仮説を組み直した結果、皓が事件の真相を導き出すことができる。その結果、「なぜその罪人がその妖怪の姿に見えているのか」というところまでも明らかになるのだ。
「鬼」のストーリーでも、まさにこの部分が要になり物語が展開していく。青児の能力で鍛治が媼という妖怪に見えた姿が、なぜこの妖怪に見えるのかということが鍵となり真実が導かれていくのである。その妖怪の姿に見えている理由まで合わせて解決したときには、思わず「なるほど!」と膝をたたいてしまうほどスッキリした。
普段は、おっとりして特に役に立たない青児だが、重要な場面でヒントを出してくれるのであれば、確かに皓が隣に置いておきたくなるのもうなずくしか無い。ちょっと変わったコンビではあるが、事件解決には抜群の相性を見せるこの推理劇を、次回作も是非とも読んでみたい。
>>路生よる『地獄くらやみ花もなき 弐 生き人形の島』
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