【カドブンレビュー】
超有名絵画「真珠の耳飾りの少女」。
青いターバンと後頭部から垂らした黄色い布のコントラスト、肩越しにこちらを見つめる美少女の姿は、日本でも大人気だ。
この絵の作者が、オランダの画家フェルメール(1632-1675)。
寡作な上に若くして亡くなり、現存する作品は、わずかに30数点のみ。
“光の魔術師”とも言われる彼の絵には、カメラのレンズごしに見たような世界が描かれているという。ファインダーから覗くと、肉眼で見るよりも色彩が鮮やかに見えたり、薄い膜越しのように見えたりする。フェルメールの絵は、彼独自の技術を駆使し、一見リアルでも現実世界では起こりえない異界へと導いてくれる。
この本は、目白大学教授でフェルメール研究のスペシャリストである小林賴子さんが、フェルメール全作品を解説したガイドブックだ。文庫サイズではあるが、フェルメールの作品はオールカラー。お買い得だ。
フェルメール作品を制作順に並べた解説は、一点一点の説明に留まらない。時間軸の中でフェルメールの努力や成長の跡を追っていく。
そこから見えてくるのは、感性の赴くまま自由に作品を生み出した早熟の天才というよりは、ひとつのテーマや構図にこだわり、じっくりと模索を繰り返した職人的な側面だ。
それならば、晩年になるほど傑作が生まれそうなものだが、そこは正解のない芸術の不思議。破たんしそうでもギリギリのバランスで輝く絵もあれば、惰性になったり、挑戦に失敗して輝かない絵もある。せっかく生み出しながらも捨て去ってしまう画法もある。
もし、日本でも頻繁に開催されるフェルメール関連の展覧会に行くことがあれば、ぜひこの本をポケットに忍ばせて欲しい。
本物の絵を前にして解説を読み直せば、忘れえない感動や納得感がきっと体験できるはずだ。
また、本の中で小林さんも書いている通り、ほとんどすべての絵がヨーロッパとアメリカ東海岸の美術館に保管されている。時間とお金が許せば、すべての絵を見て回ることも可能なのだ。
私が魅かれたのはミーハーと言われようが、やっぱり「真珠の耳飾りの少女」。そして当時の現実以上に美しく描いたであろう風景画「デルフト眺望」。どちらもオランダのハーグ、マウリッツハイス美術館にある。行きたい!
>>小林 頼子『フェルメール 作品と生涯』