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レビュー

【『サハラの薔薇』カドブンレビュー⑤】片丘フミ「「行動しないという選択をしている」かもしれない」

話題沸騰! 下村敦史さん『サハラの薔薇』が発売たちまち重版決定!
絶賛の声が止まらない本作の重版を記念して、カドブンでは「6人のカドブンレビュアーによる6日間連続レビュー」企画を行います。6人のカドブンレビュアーは本作をどのように読み解いたのか? ぜひ連続レビュー企画をお楽しみください。

人生とは選択の連続である。

どの学校に進学するか。どの企業に就職するか。誰と結婚するか。いや、もっと日常的な事でいい。朝、何時に起きるか。朝食は何にするか。どんな服を着て家を出るか。傘は持っていった方が良いか。選択の結果が集積されて、私達の人生が決定づけられていく。

『サハラの薔薇』では主人公である考古学者の「(みね)」が生死をかけた選択を迫られ続ける。エジプトでのミイラ発掘調査を終え、講演先のパリへ向かう峰を乗せた飛行機が墜落したのは、灼熱の太陽が降り注ぐサハラ砂漠だった。極限状況で生き残る為には、どの道を選ぶべきなのか。

生存者を救出する為、命からがら脱出した機内に自分が引き返すか、他人に任せるか。焼ける機体を消化するか、狼煙(のろし)になる可能性を考えて放置するか。その場に留まり、じっと救助を待つか。自ら助けを呼ぶ為、とにかく歩き出すか。北北東にオアシスを見たという生存者の証言を信じるか。北北西に救いがあるという「呪術師」の言葉を信じるか。どちらも信じないか。瀕死の仲間に水を分けてやるべきか、どうせ命は尽きると割り切って自身の為に温存するか。

人生をかけた選択に直面し続けていくうちに、峰は自身の信念が問われている事に気付いていく。確実な「正解」がない状況で、自分は何に重きを置くのか。非常事態だとしてもやってはいけない、自分にはどうしても出来ない事は何なのか。それはまさに「どう生きるか」という信念が決める事だ。

そしてもう一つ、大切な事を『サハラの薔薇』は「物語上のどんでん返し」と同時に突きつけてくる。それは今この瞬間にも「行動しないという選択をしている」かもしれないという真実だ。自身を取り巻く世界は目まぐるしく変わり続けている。AIの進歩は近い将来、職業の淘汰をもたらすかもしれない。首都直下地震は30年以内に70%の発生確率だといわれている。核戦争を警告する世界終末時計の針は前年より30秒進み、残り2分となった。昨日と同じような選択を続けて一日が終わっていく事は実際に感じている以上に危険な事なのかもしれない。うまく自覚出来ていないだけで、実は生死をかけた状況に置かれているのに、行動しないという選択をしてしまってはいないか。

慈悲深い大砂漠から生還した峰は「ある行動」を選択する。まさに選択の連続であった物語のラストに綴られる信念の込められたその行動は私達にとっての希望でもある。


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