KADOKAWA Group
menu
menu

レビュー

横殴りの雨に打たれるような苦しみのあとに、とびきり美しい風景が待っている『悲しい話は終わりにしよう』

【カドブンレビュー】


No Rain, No Rainbow (雨が降らなければ、虹はかからない)

雨の多い南国ハワイにこの言葉のルーツがあるそうだ。スコールで突然予定が崩れる熱帯の島国を想像すると、いっそう含蓄がある言葉に思えてくる。自分ではコントロールできない事象を受け入れて、その上で前に進もうとする、そんなポジティブなエネルギーに満ちている。

悲しい話は終わりにしよう』は「大学生の市川」と「中学生の佐野」を中心とした二つのパートで物語が進んでいく。舞台は共に長野県の松本市。タイトルからも分かる様に明るいストーリーでは決してない。主人公達を取り巻く状況は厳しく、まるで横殴りの雨の様に否応なく試練が襲ってくる。父親の自殺、母親からの虐待、クラスでのいじめ、そして大切な人の死。

どうしようもない悲しさに囚われて、分かってはいても目の前の辛い現実に向き合えない。せめて、あの時に戻って人生をやり直したい。別の今があったはずなのに。そんな主人公たちの青春はリアリティがある。

作者である小嶋陽太郎と同世代である私には、作中の登場人物一人ひとりの痛みがリアルな感情として伝わってきた。理想の自分と現実の自分とのギャップに苦しみ、だからといって何も行動を起こせず、ただ時間だけが過ぎていく。ほんの少し前の出来事だった自身の学生時代と重ね合わせ、あの頃の自分に想いを馳せずにはいられなかった。

だからこそ、「悲しい話」の結末に示される希望がより強く心に残った。克服する、乗り越えるといった強さではなく、時間をかけて徐々に受け入れて、一歩踏み出していく。等身大の主人公達の物語に勇気が湧いてくる。

地面はひどく濡れていたけれ、嘘みたいに明るい五月の晴天がそこにはあった。地上の水分が次々に蒸発して、日差しと湿気が混じり合っていた。 「すごい雨だったね。でもちゃんとやむんだ」

p.237より


雨はいつか上がる。後にはきれいな虹が輝いて見える。
そう信じて明日も生きていく。


紹介した書籍

関連書籍

新着コンテンツ

もっとみる

NEWS

もっとみる

PICK UP

  • ブックコンシェルジュ
  • 「カドブン」note出張所

MAGAZINES

小説 野性時代

最新号
2025年4月号

3月25日 発売

ダ・ヴィンチ

最新号
2025年5月号

4月4日 発売

怪と幽

最新号
Vol.018

12月10日 発売

ランキング

書籍週間ランキング

1

紳士淑女の≪逆食炎≫お戦記

著者 BirdHatter

2

意外と知らない鳥の生活

著者 piro piro piccolo

3

気になってる人が男じゃなかった VOL.3

著者 新井すみこ

4

メンタル強め美女白川さん7

著者 獅子

5

ねことじいちゃん(11)

著者 ねこまき(ミューズワーク)

6

ちゃんぺんとママぺんの平凡だけど幸せな日々

著者 お腹すい汰

2025年4月7日 - 2025年4月13日 紀伊國屋書店調べ

もっとみる

レビューランキング

TOP