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レビュー

【『ヒストリア』カドブンレビュー①】鶴岡エイジ「知花煉、彼女は一体何人分の人生を生きたのだろうか」

池上永一さん『ヒストリア』の第8回山田風太郎賞受賞を記念して、カドブンでは「5人のカドブンレビュアーによる5日間連続レビュー」企画を本日よりスタートいたします。5人のカドブンレビュアーは『ヒストリア』という巨大な作品をどのように読み解いたのか? ぜひ連続レビュー企画をお楽しみください。

知花煉(ちばなれん)、この女性は一体何人分の人生を生きたのだろうか。
この逞しさ、溢れんばかりのバイタリティは一体どこからくるのか。

太平洋戦争末期の沖縄で少女時代を過ごし、その後移民としてボリビアに移住したウチナーンチュ(沖縄人)、煉の波乱の半生を描いた本作は、一人の女性の濃密すぎる体験が凝縮され、600ページ超というボリューム以上の読み応えを感じさせる歴史エンタメ巨編だ。

大切な人を失いながらも凄まじい空襲をくぐり抜け、多くの屍を乗り越え生き延びる煉。
大きな傷跡を残したままの戦後の沖縄でその才能を活かし、商売で成功を収める煉。
共産主義者の疑いをかけられ、アメリカ陸軍の諜報機関であるCICから追われることになった煉。
そして舞台は移住先の南米ボリビアへ。
女子プロレスラーで国民的英雄でもある女傑カルメンに果敢に闘いを挑む煉。
開拓地コロニア・オキナワでの挫折と成功。
そして後のチェ・ゲバラとなるエルネストとの恋。
これでもかと押し寄せる運命の荒波に敢然と立ち向かい、時に国家機関の切れ者相手に一泡吹かせる煉の勇姿は痛快そのもの。
特に開拓地コロニア・オキナワでの荒地開墾から、現地で仲間となった日系人カルロス、セーザル兄弟が組み上げたの飛行機によるコロンビアへの決死のフライトが描かれる中盤以降は、大冒険活劇の様相を呈しページをめくる手が止まらない。
そして終盤、物語はそのスケールを更に広げ、煉は世界の危機に直面することになる。

混乱する世界を舞台に活躍する煉の姿を描くと同時に、この物語は煉の魂を取り戻す物語でもある。
戦争によって分かたれたもう一人の自分の魂(マブイ)との対峙。
相反する考え方を持ち、行く先々で自分の邪魔をするもう一人の自分の影に翻弄されながら、激動の世界を生き抜く煉は、失った自分自身と再びひとつになることができるのか。

そんな壮絶な煉の半生にもようやく決着がつき、安穏が訪れようかというラスト。
ホッと一息ついて心地よく読了しようとする読者は思い知ることになる。
最後の1ページで世界は反転し、エンタメ作品としての『ヒストリア』は吹き飛んでしまうのだ。
いや、これこそが『ヒストリア』の主題ではないのか。
ボリビアに移住し、ボリビア人として生きることを決意しながらも、全編を通してウチナーンチュとしてのアイデンティティを強烈に主張し続ける煉の姿とも相まって、現在与えられた平和を当たり前のように享受する我々に対する作者からの強烈なメッセージを感じずにはいられないこのラスト。
煉の波瀾万丈の人生とともに、ぜひ多くの方に味わっていただきたいと心から感じる作品である。


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