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(評者:鶴岡エイジ / カドブンレビュアー)
君。私と一緒に、泥棒をやってみないかい?
城翠大学に通う柏手因幡は文学部助教の嵐崎望からそう誘われる。嵐崎は、27歳という若さとその美貌、おまけに話も上手いという無敵キャラで女子学生にも大人気のイケメンだ。物心ついたときには父親はおらず、母親の有子とつつがなく毎日を暮らすことを第一に考えてきた地味学生の因幡に、嵐崎はなぜそんな荒唐無稽な提案をしてきたのか?
その後もやたらと構ってくる嵐崎に戸惑う因幡だったが、この一風変わったイケメンはさらに驚くべきことを口にする。不正に取引された金を盗み出し、関係者の悪事を世に知らしめたことで世間にその名を轟かせた伝説の泥棒“ジャバウォック”こそ因幡の父親だというのだ。自身がジャバウォックの仲間であったことを明かして因幡を勧誘する嵐崎。協力していた政治家に裏切られ失意のうちに亡くなった父親の復讐を果たすべく、半ば強引に泥棒稼業に引き込まれる因幡だったが……。
おいおいおい! とツッコミを入れたくなる無茶な展開だが、謎めいた父親の正体や、どこか浮世離れした嵐崎のキャラクター、そして復讐のために結集したジャバウォックのかつての仲間たちが個性的過ぎてなんだかワクワクしてくる。黒のメルセデスを自在に操るやんちゃな凄腕ドライバー祢津敦史。超有名SNSを開発するも世渡り下手な性格が災いして貧乏暮らしに甘んじる天才ハッカー平家真。現役を引退しつつも道具作りで嵐崎を支援する車椅子の偏屈オヤジ底畑治郎。一癖も二癖もある彼らがそれぞれの特技を活かしてチームとして難敵に挑む様は痛快そのものだ。
なにより、初めはおっかなびっくりだった因幡が、経験を重ねるうちに泥棒の血に目覚め成長(というと語弊があるかもしれないが)していく様は大きな見どころだ。
そして迎える父の仇との最終決戦。ターゲットはクイーンズタワー北ウィング60階屋上のペントハウス。因幡ら怪盗チームは、厳重な警戒の中、無事屋上まで辿り着き、部屋中に張り巡らされた3Dセンサーなどの堅牢なセキュリティをかいくぐって、不正の証拠が隠されたPCからデータを盗み出せるのか?
理屈抜きの痛快な怪盗エンタメアクションを堪能すると同時に、巧妙に仕掛けられたトリックにも唸らされた本作。終盤に待ち受ける予想外の展開にきっと読者は驚かされるはずだ。
この作品はいわば怪盗ジャバウォック2世の誕生の物語。今後彼らがどんな活躍を見せてくれるのか、次作に期待したい快作だ。
▼久住四季『怪盗の後継者』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
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