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レビュー

巻き添えを出す自殺とテロ、根本にある共通現象

 昨年、日本の自殺者の数は二万一八九七人だった。今からおよそ一五年前、年間の自殺者は三万四〇〇〇人を超えていた。それに比べれば、かなり減少している。
 だが、自殺率では世界ワースト六位で、未だに高い水準にある。自殺者が三万人を超えていた時代には、そのことに注目が集まったが、最近では話題になることが少なくなった。
 なぜ自ら死を選ぶのか。遺書がなければ、その原因が分からないこともある。最近も、知人が急死し、自殺ではなかったのかと言われるが、はっきりしたことは分からない。
 遺書から分かる自殺の原因としては、健康、病気の問題がもっとも多く、ついで、経済問題、家庭問題、職場での人間関係の悩みと続く。年間の自殺者が三万人を超えていた時期には、金融危機以来の経済環境の悪化が原因であると言われた。
 自殺には、数だけではなく、さまざまな問題があるが、本書の著者が注目しているのは、「拡大自殺」という現象である。拡大自殺とは、「絶望感から自殺願望と復讐願望を抱き、誰かを道連れに無理心中を図ること」をさすという。
 著者はこの拡大自殺を、秋葉原事件などの無差別殺人、世界中で頻発する自爆テロ、警官が発砲する状況をわざと作り出すことによる自殺、そして親子心中や介護心中といった現象にまで広げて分析している。
 著者は、日本で無差別大量殺人事件が起こった際に、犯人が犯行後自殺しているケースが少なくないことに注目する。七〇代の男性が新幹線の車内でガソリンをかぶって焼身自殺し、巻き添えで女性一人が亡くなった事件なども取り上げられているが、これも、犯人が他人を巻き込んで自殺をとげている点では無差別大量殺人事件と共通する。
 それは、自爆テロでも同じで、社会によって追い込まれたと感じた犯人が、その腹いせに、他者を大量に殺害し、合わせて自らの命を絶つ点では、日本で起こっている数々の事件と同じく拡大自殺として分析できるというのである。
 親子心中や介護心中になると、無差別大量殺人や自爆テロとは同列に扱えないようにも思える。だが、親子心中でも、親が自殺願望を抱き、そこから子どもを道連れにするという点では、同じ性格を持っている。それは、介護心中の場合も同じで、自己破壊願望が拡大自殺に結びついたところにそうした事件が起こる原因があるというのである。
 日本では今のところ、自爆テロは起こっていない。日本人は、自爆テロを敢行するのはイスラム教徒であり、イスラム教の信仰にもとづいて、彼らは自らの命を犠牲にささげているととらえている。そこには、戦争中の特攻のイメージが投影されているのかもしれない。
 だが、自爆テロを敢行するのは、基本的に個人であり、せいぜい兄弟や仲間などごく少人数で実行されている。そこにテロ組織が介在しているわけではない。
 イスラム国(IS)が関与しているとされるときにも、たんにISが犯行声明を出すだけで、ISのメンバーが実際に犯行に及んでいるというわけではない。
 その点が見落とされているために、無差別大量殺人や巻き添えを出す自殺と現在の世界で頻発するテロが根本において共通した現象であることが見えてこない。
 現代の社会では、閉塞感が強く、絶望した人間を凶悪な犯罪に駆り立てる環境が生み出されているし、復讐心を満たすような手段が簡単にとれるのだ。
 その点で、さまざまな現象を拡大自殺という観点からまとめて考察することには重要な意味がある。テロ対策が進まないのも、その観点が欠けているからだ。
 安全安心な社会の実現には、拡大自殺をいかになくしていくかの対策が不可欠なのである。


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