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レビュー

【解説・夢枕獏】手塚治虫が描く、アイヌが舞台の歴史ロマンが遂に文庫で登場!『シュマリ』

文庫巻末に収録されている「解説」を特別公開!
本選びにお役立てください。

(解説者:夢枕 獏 / 作家)

今、再び30年目の「シュマリ」

シュマリ』というのは、太い話である。
 太くて、そして大きい話である。
 読んだ方にはもうおわかりであろう。読んでない方は、読み終えた時にわかるであろう。
『シュマリ』は、手塚治虫が劇画ということを強く意識していた頃に描かれた作品で、物語と同様に線までもが太い。
『シュマリ』は、ぼくの手塚治虫ベストスリーのうちの一作だ。
 まずは『火の鳥』。
 次に『安達が原』。
 そしてこの『シュマリ』である。
 今、読んでも、何か滾々こんこんと力が溢あふれてくる。ついでに涙も溢れてくる。
 我々の幸せは、同時代に、手塚治虫という稀有な表現者を得たことであろう。
 手塚治虫は、描き続け描き続けて、一生枯れなかった作家である。
 表現者としてこれは、特筆すべきことだ。
 たぶん、夢枕獏という物語作家の血の中には、手塚治虫という成分が何割か入っている。
 ぼくの自覚で言えば、たぶん、ぼくは、手塚治虫、筒井康隆、半村良、平井和正という四点を結んだ四辺形の中に生まれて、空海に向かって歩き出した書き手ではないかと思っている。
 手塚治虫がらみのことで言えば、『火の鳥』の「鳳凰編」を読んでいなければ、たぶん『沙門空海唐の国にて鬼と宴す』は書き出していなかったろう。
 そして、この稿を書き出して驚いたことに、ぼくはもう、手塚治虫が死んだ年をすでに八年も越してしまったということだ。ついでにシュマリよりも年齢が上だ。
 なんとはるばると時は過ぎてゆくものなのであろうか。
 手塚治虫の歳を越えて書いている自分のことを、これまで想像したことがなかったのである。
 自分でこの年齢まで生きてみてわかることは、六〇歳というなんと若い歳で手塚治虫は亡くなってしまったのかということだ。
 まだまだ描くことのできる年齢であり、ぼくで言えば、今、書くことがおもしろくて楽しくてどうしようもない。
 手塚さんも、たぶんそうだったのではないか。
 八〇歳、九〇歳までもう三〇年生きて、あと百本は新しい漫画を描いて欲しかった。
 今、多くの漫画家は、一作が当ると、その作品をずっと描き続けてしまう傾向がある。売れるものを描き続けて欲しいという出版社の意向もあろうし、そういう作品、そういう描き手がいてもちろんいいのだが、次々と新しい物語を生み出してゆく描き手が少なくなってきているのは残念である。もちろん何人かはそういう描き手はいるのだが、もっと増えて欲しいと思っているのである。
 手塚治虫になる必要はない。
 なろうとしてもなれるものではないし、描き手はどのような描き手であれ、結局自分というものになるしかないのは、もうわかっていることだ。
 ああ、なんだかとりとめがない。
 手塚治虫のことを書き出して、少し興奮してきたらしい。
 手塚さん、もっともっと描きたかっただろうなあ。
 宇宙中を、自分の漫画でいっぱいに埋めつくしてみたかったろうなあ。
 驚くなよ。
 手塚治虫の最後の、死ぬ間際の言葉が、
「頼むから仕事をさせてくれ!」
 だ。
 凄げエだろう。
 昏睡状態で、目覚めるたびにエンピツを握った。
 我もかくありたし。
 我もこのように生きたし。
 ぼくも、手塚治虫のように、死ぬ間際までペンを握っていること、誓います。


手塚治虫『シュマリ 上』

手塚治虫『シュマリ 上』


手塚治虫シュマリ 上』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/321907000745/


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