少年犯罪と家族の在り方を克明に描き出す、著者渾身の傑作サスペンス。
『ユニット』佐々木 譲
角川文庫の巻末に収録されている「解説」を特別公開!
本選びにお役立てください。
『ユニット』著者:佐々木 譲
『ユニット』文庫巻末解説
解説
「ユニット」という言葉から、あなたはまず何を思い浮かべるだろうか。
長くバンド活動をしてきたミュージシャンが、その活動と並行して、新たな仲間と組んだとき、「新ユニット結成」と表現されることがある。それによって彼らは、バンドではやらなかったタイプの音楽を演奏したり、自分の個性をより強く出したりできるのだ。こうしたユニット化の流れは、音楽の世界だけではない。家族の形態も同様だ。戦前までの家父長的な家制度がなくなり、戦後は核家族へと変化したものだが、現代ではシングル化が進み、夫婦の離婚や再婚もあたりまえとなっている。ひとつには、家族のしがらみにとらわれず、ひとりの人間として好きなように生きるという意識が高まってきたからだろう。
もっとも離婚にまで至るには、さまざまな理由がある。いま日本では、結婚した三組のうち一組はのちに別れており、その理由の第一位は性格の不一致だが、虐待や暴力も上位に挙がっているのだ。表から見えない家庭内暴力(DV)は思った以上に多いのかもしれない。家庭といういわば閉じられた空間のなかで、それが毎日のように続き、より激しくなるのであれば、事態は深刻である。
本作『ユニット』に登場する
この小説が最初に単行本で刊行されたのは二〇〇三年十月のことだ。そのちょうど二年前の二〇〇一年十月に、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律、いわゆるDV防止法が日本で施行された。すなわち、法律で保護しなくてはならないほどDVが
そして、家庭の内ではなく外からの暴力によって家族が壊れる悲劇もある。もうひとりの主人公である
暴力夫から子供を連れて逃げる門脇祐子、そして妻子を無残に殺され、生きる希望を失った真鍋篤。そんなふたりが、ある出来事をきっかけに知り合うこととなる。
配管工として働きだした真鍋だが、あいかわらず夜は悪夢にうなされ、酒を飲む金が必要で仕事をするという毎日だった。だが、ある日、そんな生活をきっぱりやめた。妻子を殺した犯人、川尻乃武夫が仮出獄したという話を聞き、
本作で描かれている妻子殺害事件は、一九九九年に山口県
また、有能な刑事でありながら、家では妻に暴力を与え続け、あげく妄執にとらわれながら家出した妻を追跡していくという話には、前例がある。一九九五年に発表、九六年に邦訳されたスティーヴン・キング『ローズ・マダー』だ。
実際の凶悪犯罪をモデルに、そしてキング作品の設定を導入しつつ、舞台を北海道においたうえで、家族の悲劇、復讐、そして再生というテーマを重ね、作者は本作を創りあげたのだ。読みどころは、少年犯罪やDV、そして復讐の正義といった社会問題にとどまらない。子供を連れて逃げる祐子の逃亡劇、彼女を
もうひとつ、本作は作者にとり、新たなジャンルへ本格的に取り組むきっかけとなった重要な作品でもある。この小説を雑誌連載するにあたり、警察組織をきっちりと描こうと北海道警察の取材をはじめたという。
「すると、当時はまだ発覚していなかったA警部事件(02年、道警のA警部が
その後、日本を代表する警察小説の書き手となった作者だが、そのきっかけは、なんと本作『ユニット』にあったのである。
佐々木譲は、現在もなお作風の幅を大きくひろげようと、大胆なif設定を導入した改変歴史小説『抵抗都市』『時を追う者』をはじめ、タイムトラベル作品集『図書館の子』、近未来逃亡サスペンス『裂けた明日』、そして開戦前夜の
冒頭で述べたとおり、「ユニット」という言葉が使われ出したのは、「それまでのしがらみを捨て、より自由に自分らしく生きる」ことが可能になった時代の流れと通じているのだろう。最近の作者の姿勢もまた同じだ。小説ジャンルの枠にとらわれず、これまでにないスタイルや要素を組み合わせて新作に取り組もうとしている。これからどんな作品が登場するのか予想もつかないが、物語の密度と面白さだけは裏切ることはないだろう。
作品紹介・あらすじ
ユニット
著 者:佐々木 譲
発売日:2023年11月24日
少年犯罪、家族の在り方を問う、著者渾身の傑作長編。
17歳の少年に、最愛の妻子を殺害された真鍋。警察官である夫の暴力に耐えきれず、幼い息子を連れて家を飛び出した祐子。ある偶然から同じ職場で働くことになった2人は、互いに傷を隠しつつも少しずつ交流を重ねていく。しかしある日、真鍋は事件の犯人である少年が出所したことを知る。わずか7年という年月での出所に複雑な思いを抱く真鍋は、次第に犯人への憎悪を募らせていく。一方、祐子にも夫の執拗な魔の手が迫っていた――。少年犯罪と家族の在り方を克明に描き出す、著者渾身の傑作サスペンス。
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