江戸川乱歩の名作短篇「赤い部屋」に捧げる表題作ほか、著者が敬愛する作品へのオマージュだけを集めた、ミステリファンにはたまらない全九篇。
『赤い部屋異聞』法月綸太郎
角川文庫の巻末に収録されている「解説」を特別公開!
本選びにお役立てください。
『赤い部屋異聞』著者:法月綸太郎
『赤い部屋異聞』文庫巻末解説
解説
いったい、このような本に、どんな解説を書けばいいというのだろうか?
いきなり弱音を吐いてしまったが、本書は明らかに解説者泣かせの代物である。法月綸太郎と私は同年生まれ、デビュー作『密閉教室』以来ずっとリアルタイムで読んできた作家の文庫解説の初依頼とあって喜び勇んで引き受けたはいいが、私は今、少しばかり後悔(?)している。
その理由は本書をすでに読み終えた方、いや一編でも読んだ方ならおわかりだろう。いずれも先行作品への「オマージュ」として書かれた全九編が収められたこのコンセプチュアルな連作短編集には一作ごとに「細断されたあとがき」が付されており(単行本化の際に加筆されたものである)、そこでは法月氏自ら各編のオマージュの
「あとがき」は本文庫にもそのまま収録されている。となると私はなるべくそれとはダブらないことを書く必要があるし、読者に蛇足と
「赤い部屋異聞」
オマージュとはリスペクトの表明だが、意識的/無意識的に、しばしば対象作品への「批評」にもなりうる。本書の収録作全てに言えることだが、表題作に選ばれたこの作品はとりわけそうだ。元ネタの短編「赤い部屋」は
「砂時計の伝言」
オマージュ先であるコーネル・ウールリッチ(=ウィリアム・アイリッシュ)の短編「一滴の血」の「有罪の決め手となる物証のアイデア」(法月)は、同作以前にも以後にも数々の応用例があるが、本作もシンプルで切れ味鋭いニュー・ヴァージョンを
「続・夢判断」
ジョン・コリアの非常に有名な短編「夢判断」に卓抜な
「対位法」
親本の単行本を初読の際、いきなり自分の名前が出てきて大層驚かされた。簡単に説明しておくと、私はかつて『あなたは今、この文章を読んでいる。』という長編評論で「作者」が何らかの仕方で「書くこと」を前景化する──それは「私は今、この文章を書いている。」という文に還元される──「メタフィクション」に対して「読者」による能動的な関与すなわち「読むこと」を作品の中枢に置く「パラフィクション」なる新ジャンル(?)を提唱し、その一例としてフリオ・コルタサルの「続いている公園」を分析した。コルタサルは作中世界の「外部」、つまり「それを読んでいる状況」を仮構することによって
「まよい猫」
落語の「元犬」を出発点にしつつ、いかにも法月氏らしい「入れ替わり」のアイデアを導入した好作。ある意味、取ってつけたようなオチっぽいオチが
「葬式がえり」
本作の背景について「あとがき」に付け加えられることは特にない。最初にも触れたように法月氏と私は同じ年の生まれなのだが、われわれ世代(一九六〇年代生まれ)の小説愛好者にとって「奇想天外」という今は亡き雑誌の存在は特別な意味を持っている。SFとミステリと更にはジャンル分け不能の「変」な小説を同誌には沢山教えられた。ラフカディオ・ハーン=
「最後の一撃」
数ある法月氏の著作の中でも最大の「奇書」と言うべき、全編が「読者への挑戦」をめぐる長短のテクスト群から成る『挑戦者たち』より。ネタバレになるので伏せておくが、同書の該当箇所に当たってみるとニヤリとさせられるだろう。
「だまし舟」
本書唯一の書き下ろし。「読めない本」という魅力的なアイデアは、のちに
「迷探偵誕生」
法月氏には『ノックス・マシン』に始まる一連の複雑系SFミステリの作品群があり、本作もその系譜に属する。奇想と逆説が
以上九編、いずれも凝りに凝った「オマージュ」作
作品紹介・あらすじ
赤い部屋異聞
著者 法月 綸太郎
定価: 836円 (本体760円+税)
発売日:2023年05月23日
作家・法月綸太郎が、偏愛する東西の名作九篇に捧ぐ、オマージュ連作短編集
日常に退屈した者が集い、世に秘められた珍奇な話や猟奇譚を披露する「赤い部屋」。新会員のT氏は、これまで九十九人の命を奪ったという恐るべき〈殺人遊戯〉について語りはじめる……。江戸川乱歩の名作短篇「赤い部屋」に捧げる表題作ほか、著者が敬愛する作品へのオマージュだけを集めた、ミステリファンにはたまらない全九篇。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322209001183/
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