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レビュー

英子の前に現れた謎の「用心棒」の正体は?大人気シリーズ第46弾!――『三毛猫ホームズの用心棒』赤川次郎 文庫巻末解説【解説:大矢 博子】

「私はあなたの用心棒です。いつも、必ずあなたを見守っています」――。
『三毛猫ホームズの用心棒』赤川次郎

角川文庫の巻末に収録されている「解説」を特別公開!
本選びにお役立てください。

三毛猫ホームズの用心棒』著者:赤川次郎



『三毛猫ホームズの用心棒』文庫巻末解説

解説
おお ひろ(書評家) 

 あかがわろうさんが「幽霊列車」でオール讀物推理小説新人賞を受賞したのが一九七六年。以来、五十年近くにわたってエンタメ小説界のトップランナーとして走り続け、その著作は二〇一七年に六百冊を超えて今も記録を更新中です。
 数多くのシリーズを持つことでも有名な赤川さんですが、やはりその看板といえば「三毛猫ホームズ」でしょう。
 頼りない刑事のかたやまよしろう、活動的な妹のはる、そして彼らの飼い猫にして名探偵のホームズ。この(ふたりと一匹ではなく、ここは作中の表現にならって三人としておくべきでしょう)が毎回さまざまな事件に出会い、ホームズの行動をヒントに事件の謎を解いていくという、ユーモアミステリの人気シリーズです。
 シリーズ第一作『三毛猫ホームズの推理』は著者三冊目の長編として一九七八年に光文社カッパ・ノベルスから刊行。カッパ・ノベルスといえば硬派な社会派ミステリを中心とした名門レーベルで、当時は新人の長編を、しかも軽やかなユーモアミステリを出すというのはとても珍しいことでした。ミステリの読者が男性に偏っていたことから(そんな時代があったんですね)、女性読者を開拓するために選ばれたのだそうです。
 これが男女を問わず大ヒットし、それまでサラリーマンとの二足の草鞋わらじだった赤川さんが専業作家になるきっかけとなりました。
 それから四十五年。今では「三毛猫ホームズ」シリーズは長編五十五冊(最新刊は二〇二三年二月刊行の『三毛猫ホームズと炎の天使』)、短編集が十四冊という日本ミステリ界屈指のロングランシリーズとなっています。
 本書『三毛猫ホームズの用心棒』は十四の短編集の中でも最も新しい、二〇〇九年に刊行された作品で……え? だったら最新のものからじゃなくて最初から順番に読まなくちゃ、とお思いですか? いえいえ、大丈夫。このシリーズはどこから読んでもOKなんです。ただ、シリーズを味わうのに押さえておきたい作品はいくつかありますので、それはのちほど紹介しますね。まずは本書から紹介させてください。

 では、あらためて。本書『三毛猫ホームズの用心棒』は十四の短編集の中でも最も新しい、二〇〇九年に刊行された作品です。ただ他の短編集とは大きな違いがあります。それは、各収録作が発表された時代がバラバラだということ。一九八〇年から二〇〇九年までと、かなり長いスパンの中から採られているのです。
 他の短編集はどれも原則として、「小説宝石」(光文社)を中心に雑誌掲載されたものを順に収録しています。ところが本書は雑誌掲載のものだけでなく、アンソロジーや企画もののために書かれた短編が入っているのです。
 こういった企画ものは、シリーズだけを追っていたのでは見落としてしまったり、入手する機会を逸するとなかなか出会えなかったりするもの。しかも初出をご覧いただくとわかるように、版元もバラバラです。それが一堂に会したわけですから、いわば本書は「三毛猫ホームズ」の短編集の中でも、お宝の一冊と言っていいのではないでしょうか。

「三毛猫ホームズの水泳教室」(早川書房『ミステリマガジン』1980年)
 夜のプールで高飛び込みをしていた女性が死体で発見されます。プールの水量が少なかったのが原因と思われましたが……。短い中に何度もひねりが仕込まれて、展開の妙を感じさせる作品です。
 これはお宝中のお宝かもしれません。なんといっても、赤川さんのデビュー短編であり、その後も人気シリーズとなっている「幽霊」シリーズのながゆうが登場しているのですから。これまでも、つじさきさんの「迷犬ルパン」シリーズとのコラボ(辻真先『迷犬ルパンと三毛猫ホームズ』光文社文庫)や、赤川さんのシリーズキャラの短編だけを集めた短編集(『名探偵、大集合! シリーズ・キャラクター総登場短編集1』光文社文庫)などはありますが、異なるふたつのシリーズキャラがひとつの短編に登場する例はあまりありません。ファンとしては是非、チェックしておきたい一作です。

「三毛猫ホームズの英雄伝説」(角川書店『野性時代』1994年)
 女性を暴漢から守った際、過剰防衛で相手を殺してしまったため刑務所に入っていた男性が出所してきました。当時守られた女性は、その男性と一緒になりたいというのですが、なぜか家族はいい顔をせず……。何が問題なのか、一度では終わらないサプライズに注目。他の収録作もそうですが、ワンアイディアで済ませることもできる短編でも、赤川さんは複数の仕掛けを仕込むことが多く見られます。
 初出は雑誌ですが、その後、『名探偵の挑戦状』(角川文庫)というアンソロジーに採られました。三毛猫ホームズの他、うちやすさんのあさみつひこくりもとかおるさんのじゆういんだいすけもりむらせいいちさんのうし刑事と、九〇年代前半に人気だった名探偵がせいぞろいしています。

「三毛猫ホームズの殺人協奏曲」(カドカワノベルズ『おとなりも名探偵』1996年)
 ピアニストが巻き込まれたストーカー事件や殺人事件を描いたものです。クラシック音楽にぞうけいの深い赤川さんらしい一編ですが、この短編のぜいたくなことと言ったら! 長編のサイコホラーにできそうな要素を惜しげもなくぶちこんでいるんですから。なんてもったいない……いや、これだけの要素を入れながら短編に仕上げる、そのテクニックを賞賛すべきでしょう。
 本編の初出である『おとなりも名探偵』は前述した『名探偵、大集合!』同様、赤川さんのシリーズキャラを集めた短編集です。三毛猫ホームズの他に、三姉妹探偵団やマザコン刑事、そして「三毛猫ホームズの水泳教室」にも登場した永井夕子の短編もあります。二〇〇〇年に角川文庫入りし、現在でも紙と電子の両方で入手可能ですので、ぜひ手を伸ばしてみてください。

「三毛猫ホームズのいたずら書き」(光文社『愛蔵版 三毛猫ホームズの推理』2006年)
 被告をえんざいから救うことができなかった弁護士が、死刑執行後に冤罪の証拠を見つけるという切ない物語です。といっても赤川さんの筆にかかれば、そんな切ない設定も軽やかに読ませてもらえるのがいいですね。
 これは本書収録作の中でも特に、文庫入りを熱望していたファンが多かったのではないでしょうか。初出の『愛蔵版 三毛猫ホームズの推理』とは、赤川さんが二〇〇六年に第九回日本ミステリー文学大賞を受賞したのを記念して刊行された、単行本版の『三毛猫ホームズの推理』です。長編に加え、ボーナストラックとして著者インタビューなどと一緒に、この書き下ろし短編が収録されました。

「三毛猫ホームズの用心棒」(光文社「小説宝石」2009年)
 自分に意地悪をした相手が事故や災難に会う……ありがたいような恐ろしいような用心棒の正体は?
 本書収録作の中で最も新しい(といっても二〇〇九年ですが)作品です。「三毛猫ホームズの殺人協奏曲」では片山家にファックスが入ったことが大ニュースのように書かれていましたが、この作品ではメールを使ってますね。ちなみに一九八〇年に書かれた「三毛猫ホームズの水泳教室」では携帯電話すらなく、警察を呼ぶのに管理室の電話を借りていたり、管理室内で普通に煙草を吸ったりという場面があるのも時代を感じさせます。初出時期の異なる作品がまとまると、こういう楽しみもあるわけです。

 というわけで、もともとが三十年近いスパンの中で書かれた作品の集まりですので、「順番に読まなくちゃ」なんて考えなくていい、というのはおわかりいただけたかと思います。むしろ、一冊でそれだけの幅を味わえるわけですから「三毛猫ホームズ」の入門にも最適と言えるかもしれません。
 それでも、本書を読んでもっと「三毛猫ホームズ」について知りたくなった方は、まずシリーズ第一作『三毛猫ホームズの推理』と第二作『三毛猫ホームズの追跡』の二冊をお読みください。『推理』ではホームズが片山家にやってきた経緯が、『追跡』ではいし刑事をはじめレギュラーメンバーがほぼそろいます。
 ホームズがどのように片山たちにヒントを出すのか、その様子がわかりやすく描かれるのがドイツを舞台にした『三毛猫ホームズの騎士道』、主要キャラクターの石津刑事について知りたいなら『三毛猫ホームズの怪談』といったあたりがお薦め。短編集から選ぶなら、ホームズがいなくなってしまう『三毛猫ホームズの家出』はいかがでしょう。
 ……などと書いているとキリがありませんね。つまりは、最初の長編二作だけ押さえておけばOK、あとはどれを読んでも「おみの楽しさ」があなたを待っています。なんせ長編だけで五十五冊、短編集も合わせれば七十冊近いわけですから、どうぞホームズと仲間達の世界をゆっくりたっぷりみっちり味わってくださいね。

作品紹介・あらすじ



三毛猫ホームズの用心棒
著者 赤川 次郎
定価: 748円 (本体680円+税)
発売日:2023年05月23日

英子の前に現れた謎の「用心棒」の正体は?大人気シリーズ第46弾!
「私はあなたの用心棒です。いつも、必ずあなたを見守っています」――。深夜帰宅中、三枝英子は変質者にナイフを突きつけられたところを見知らぬ男性に救われる。その男は自らを用心棒と言い残し立ち去った。それ以降、英子を困らせる人物が危険な目に合い始める。ついには、彼女に嫌がらせをした上司が殺害された。これらはすべて、英子を救った「用心棒」の仕業なのか? そしてその正体は? 表題作「三毛猫ホームズの用心棒」を含む計5作を収録。大人気シリーズ第46弾。

詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322301000591/
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