訳出不可能だった言葉遊びを見事に新訳した第3弾!
『ポー傑作選3 ブラックユーモア編 Xだらけの社説』
エドガー・アラン・ポー
角川文庫の巻末に収録されている「解説」を特別公開!
本選びにお役立てください。
『ポー傑作選3 ブラックユーモア編 Xだらけの社説』文庫巻末解説
ポーとアメリカ文学界の闘争
解説
河合祥一郎
※本稿では、『ポー傑作選3 ブラックユーモア編 Xだらけの社説』巻末の「ポーを読み解く人名辞典」を、一部抜粋・変更してご紹介します(編集部より)
ポーの時代、アメリカ文学は萌芽期にあり、ポーは新たなアメリカ文学を打ち立てようと努力していた。そのためには、商品として売れる単なる読み物ではなく、文学として「効果の統一性」を有した優れた作品を生み出す必要があると考えたポーは、過激な文学批評を積極的に繰りひろげた。それというのも、当時、「パフ」(puffing)という悪弊があったためだ。「パフ」という語は「プッと吹く、ふくらます」が原意であるが、そこから「過剰に吹聴する、誇大に喧伝する」という意味で用いられた。影響力のある新聞雑誌編集者たちが、文学作品の芸術的価値を正しく評価せずに、ただ商品として売れればよいとばかりに玉石同架で宣伝活動を行い、文壇を牛耳っていたのだ。作品の中身も確認せずに不当に褒めて吹聴喧伝する行為──それがパフだった。たとえば、ポーが嫌った雑誌『ニッカーボッカー』の主筆クラークは、彼が「吹聴」した本はよく売れ、けなせばその本はおしまいになるという強力な影響力を持っていたが、クラークは読まずに吹聴する本もあることを認めていた。しかもクラークは、その影響力を最大限に生かすために業界内の派閥も形成していた。たとえば、ロングフェローの旅行記『海を越えて』(Outre-Mer)はすでに一八三〇年代にその一部を小冊子の形で公刊しており、イギリスの出版社から出版を拒否されていたにも拘わらず、アメリカのハーパー社は一八三五年にこれを二巻本で出版したのみならず、前金で著者に印税も払うという異例な措置をとった。確実に売れる保証がなければこんなことをするはずがなかった。実は、裏でクラークが手をまわしていたのである。ポー研究で知られたモス教授の言葉を借りれば、「一八三五年にハーパー社が『海を越えて』を出版するとなると、クラークとその仲間──その多くは編集者仲間──が、一斉に書評の太鼓を打ち鳴らしたのである」(Sidney P. Moss, Poe's Literary Battles, Durham: Duke University Press, 1963, p. 27)。クラークは、五月九日付のロングフェロー宛ての手紙にこう記している。「本は飛ぶように売れます。大丈夫。宣伝記事を載せた『ニッカーボッカー』を送ります。それと『アメリカン・マンスリー』と……『クーリエ』、『アメリカン〔・レビュー〕』、『コマーシャル〔・アドヴァタイザー〕』、『イヴニング・スター』も、きちんとやることをやってくれます。『ペンシルベニア・インクワイア』も『フィラデルフィア・ガゼット』なども。この件に関して、私は確かなことしか言っていません」こうしてロングフェローの本の販売促進をする代わりに、クラークは彼に『ニッカーボッカー』誌への継続執筆を安い謝礼で五年近くさせたのである。ボストンとニューヨークを中心にこの派閥主義が横行しており、そこに君臨していたのがクラークだった。どんな才能のある新進作家が出てきても、この派閥に認められなければ、売れることはありえなかったし、どんな価値のない作品でも派閥が売ると決めれば売れたのだ。ポーはこれを腐敗と断じて打破しようとしたが、「吹聴」の悪弊はあまりにも蔓延しており、グリズウォルドも一八四二年七月十日にティックノー出版社に「貴社の本を、その品質に関わりなく吹聴します」と平然と書き送っていた。グリズウォルドもクラークも同じ穴の狢だったのである。
ポーは猛然と文壇に攻撃を仕掛けた。そのような批判を行ったのはポー一人だけではなかった。フリーランスのニューヨークの批評家グールドも、ポーと非常によく似た批判活動を行った。ポーの戦いの詳細については次の「ポーの文学闘争」にまとめたが、人物がかなり錯綜するので、本書所収の作品内で言及された主要な人物と併せて、人物に関する注記をここにまとめることにした。『ポー・ログ』(Dwight R. Thomas and David K. Jackson, The Poe Log: A Documentary Life of Edgar Allan Poe 1809-1849, pp. xv-l)も参照した。
続きは、『ポー傑作選3 ブラックユーモア編 Xだらけの社説』巻末の「ポーを読み解く人名辞典」でお楽しみください(編集部より)
作品紹介・あらすじ
ポー傑作選3 ブラックユーモア編 Xだらけの社説
著 エドガー・アラン・ポー訳 河合 祥一郎
定価: 990円(本体900円+税)
発売日:2023年03月22日
ポーの真骨頂、ブラックユーモア! 訳出不可能な言葉遊びを見事に新訳!
ポーの真骨頂はブラックユーモアにあり!?
ダークな風刺小説、謎かけ詩、創作論等知られざる名作23編
訳出不可能だった言葉遊びを見事に新訳!
「人名辞典」「ポーの文学闘争」など巻末ビッグ特典110P!
いがみあう新聞社同士の奇妙な論争を描く「Xだらけの社説」。大言壮語が嵩(こう)じて地獄の門が開く「悪魔に首を賭けるな」。ありえないはずのことが起きる科学トリック「一週間に日曜が三度」。ダークな風刺小説や謎かけ詩、創作論など知られざる名作を23編収録。巻末には「人名辞典」「ポーの文学闘争」他、ファン待望の論考が100頁超。訳出不可能だった言葉遊びを見事に新訳した第3弾!
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322206001076/
amazonページはこちら