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レビュー

実は猫好き?世紀の天才エドガー・アラン・ポーの傑作「黒猫」【ポーの謎に迫る解説 連載第1回】

新訳『ポー傑作選』2ヶ月連続刊行記念!
エドガー・アラン・ポーの謎に迫る解説 第1回【全5回連載】

河合祥一郎による、エドガー・アラン・ポー新訳ポー傑作選1 ゴシックホラー編 黒猫が先月に発売されました。また3月23日(水)にポー傑作選2 怪奇ミステリー編 モルグ街の殺人も発売されます。
これを記念して、文庫巻末に収録されている「作品解題」や人物伝、そして、研究者やファンの間で長年にわたり解明されてこなかった、ポーの奇怪な死の謎に迫る解説を一部抜粋して、全5回の連載でご紹介します。

第1回はポーの代表作「黒猫」について。ポーが飼っていたという、大きな錆び猫と魔法のような黒猫が登場します。
ぜひ本選びにお役立て下さい。

▼第2回はこちら
https://kadobun.jp/reviews/entry-45426.html
▼第3回はこちら
https://kadobun.jp/reviews/entry-45432.html


エドガー・アラン・ポー新訳『ポー傑作選1 ゴシックホラー編 黒猫』

ポー傑作選1 ゴシックホラー編 黒猫
著 エドガー・アラン・ポー 
訳 河合 祥一郎


「黒猫」“The Black Cat”(1843)

(『ポー傑作選1 ゴシックホラー編 黒猫』文庫巻末「作品解題」)

解説
河合祥一郎

 初出は、一八四三年八月十九日発行の『ユナイテッド・ステイツ・サタデー・ポスト』(のちの『サタデー・イヴニング・ポスト』)誌上。
 ポーは少なくとも一八四四年から一八四九年までキャタリーナ(愛称ケイト)という名の大きなび猫を飼っており、その前に飼っていた黒猫が魔法のように台所のくぐり戸を抜ける見事さについて、一八四〇年に「本能対理性──黒猫」と題するエッセイを書いている。そこでも黒猫は魔女だと述べているが、悪魔は黒猫を使い魔として用いるという俗説を利用しながら、本作は書かれている。
 動物虐待というおぞましい過程が詳細に描かれるなかで、妻の殺害があまりにあっさりしすぎていることから女性べつを読み取る読者もいるだろう。ただし、本作の核心は、現代では「リアクタンス(誘導抵抗)」「カリギュラ効果」として知られる「やってはいけないと思うとかえってやってしまう」という心理にある。「告げ口心臓」や「天邪鬼」などでも取り上げられるテーマだ。
 遺体処理の方法として地下室の壁に塗り込めるというのがゴシックだ。「アモンティリャードのさかだる」でも地下室の壁のなかに閉じ込める方法が採られているが、これは「中世のそうりよたちがその犠牲者らを壁の中に閉じ込めた」方法(99~100ページ)としてポーのなかで一つの定まった概念となっていたと思われる。ローマ帝国時代に、処女でなければいけないウェスタのが肉体的罪を犯した場合、巫女の血を流すことは禁じられていたので、地下に生き埋めにされたのだという。この方法は中世のカトリック教会に受け継がれた。しかし、この作品が書かれるすぐ前の一八四二年七月十六日付のフィラデルフィアの雑誌『パブリック・レジャー』に、地下室で身元不明の女性の白骨死体が見つかったという記事があり、ポーはそこから本作を思いついたのではないかとする説もある。
 猫の名前「プルートー」はめいかいつかさどる神の名前。サー・ウォルター・スコットの「悪魔学についての手紙」(一八三〇)に、現実に存在しないかもしれない猫に悩まされている弁護士の話があり、ポーは影響を受けたかもしれないという指摘もある。
 映画化もあるが、いずれも翻案の度合いが強すぎる。

▼第2回「義父との確執と13歳の少女との結婚!「数奇なるポーの生涯」」はこちら
https://kadobun.jp/reviews/entry-45426.html

作品紹介



ポー傑作選1 ゴシックホラー編 黒猫
著 エドガー・アラン・ポー
訳 河合祥一郎
定価  836円(本体760円+税)

この猫が怖くてたまらない――戦慄の復讐譚「黒猫」を含む傑作14編!新訳
おとなしい動物愛好家の「私」は、酒に溺れすっかり人が変わり、可愛がっていた黒猫を虐め殺してしまう。やがて妻も手にかけ、遺体を地下室に隠すが…。戦慄の復讐譚「黒猫」他「アッシャー家の崩壊」「ウィリアム・ウィルソン」「赤き死の仮面」といった傑作ゴシックホラーや代表的詩「大鴉」など14編を収録。英米文学研究の第一人者である訳者による解説やポー人物伝、年譜も掲載。
あらゆる文学を進化させた、世紀の天才ポーの怪異の世界を堪能できる新訳・傑作選!

●傑作ゴシックホラー+詩
赤き死の仮面 The Masque of the Red Death (1842)
ウィリアム・ウィルソン William Wilson (1839)
落とし穴と振り子 The Pit and the Pendulum (1842)
大鴉(詩)The Raven (1845)
黒猫 The Black Cat (1843)
メエルシュトレエムに呑まれて A Descent into the Maelstrom (1841)
ユーラリー(詩) Eulalie (1845)
モレラ Morella (1835)
アモンティリャードの酒樽 The Cask of Amontillado (1846)
アッシャー家の崩壊 The Fall of the House of Usher (1839)
早すぎた埋葬 The Premature Burial (1844)
ヘレンへ(詩) To Helen (1831)
リジーア Ligeia (1838)
跳び蛙 Hop-Frog (1849)
 作品解題
 数奇なるポーの生涯
 ポー年譜
 訳者あとがき

詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/321912000043/
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