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レビュー

混沌とした世界を手探りで進む――『火狩りの王 〈二〉影ノ火』日向理恵子 文庫巻末解説【解説:瀧井朝世】

アニメ化でも話題、壮大な王道冒険ファンタジーの傑作、第二弾。
『火狩りの王 〈二〉影ノ火』日向理恵子

角川文庫の巻末に収録されている「解説」を特別公開! 
本選びにお役立てください。

火狩りの王 〈二〉影ノ火』日向理恵子



▼『火狩りの王 〈一〉春ノ火』文庫巻末解説はこちら
https://kadobun.jp/reviews/bunko/entry-47332.html

『火狩りの王 〈二〉影ノ火』日向理恵子 文庫巻末解説

解説
たき あさ  

 長寿と異能を持つ神族が統治する世界。かつての最終戦争の際に使用された人体発火病原体によって、人々は天然の火に近づくと内側から発火する体になっています。生活に必要な火は火狩りたちが黒い森をかつする炎魔から採取している。そんな火狩りたちの口にのぼるようになったのが、最終戦争前に打ち上げられた人工の星、せんねんすいせいるる〉が戻ってくる、という噂です。〈揺るる火〉を狩った者は火狩りの王となり、人々はもう黒い森におびえずにすむというのですが──。

 この奇妙な世界を舞台にした『火狩りの王』の主人公は二人。
 一人は、かみきの村に暮らしていたとう。祖母のために禁を犯して森に出掛けたところ炎魔に襲われ、助けてくれた火狩りは相棒の犬、かなたと金色の鎌を遺して命を落としてしまう。彼の家族にかなたと鎌を返すために灯子は首都と村々を巡回する回収車に乗り、首都へと旅立ちますが、その道のりは困難を極めています。
 もう一人は、首都に暮らすこう。灯子を助けた火狩りの息子です。母親を工場の毒でうしなってからは病弱な妹と二人で暮らしていましたが、偽肉工場の経営者でありおき家の当主であるしちの提案により、彼の邸宅に住まいを移し、落獣から採取する強い威力を持つ雷火を使った武器の開発に取り掛かります。元神族で、首都の転覆を狙う〈〉に対抗するのが研究の目的です。
 第二巻で灯子はようやく首都に到着し、そして煌四と出会います。さらに物語は新たな登場人物を迎え、複雑さを増していきます。第一巻を読んだ方ならおわかりのとおり、なんとも不穏で残酷な内容ですが、この、目を覆いたくなるようなせいさんな出来事から目をそらさずに、世界のありようをちゃんと描いているのがこの壮大な四部作の大きな魅力です。決して子供だましの物語ではないのです。
 特徴的なのは、何が善で何が悪なのか、何が正解で何が間違っているのか、みなわからないまま手探りで進んでいる点です。たとえば煌四が極秘裏に進めている研究は、人々を守ることが目的とはいえ、殺人兵器の開発です。強い威力を持つ雷火を扱う危険性から、原子力爆弾を連想した人も多いのではないでしょうか。はたして、そんなものを作ってしまっていいのか。煌四自身も悩みますが、研究は着実に進んでいきます。また、火狩りのあきは神宮に願い文を届けようと試みますが、彼女の兄はその神宮で殺されています。はたして神族は人間が信頼できる相手なのか。確信は持てませんが、でも、できることをするしかない状態なのです。
 首都に集結した彼らが一致団結して行動を起こすわけではない点も特徴的です。これは仲間がチームを組んで敵と戦う話とはちょっと違うのです。煌四と灯子も時に一緒になるものの、基本的にはバラバラに行動しています。二人はそれぞれに、自分で自分の行動を選びながら進んでいるのです。こんとんの中で、自分は何を望み、どう生きるかを選び、そのために何ができるかを考え続けているといえます。この世界が平和が訪れてほしい、その願いはみな同じかもしれません。でもそのための行動、そのための方法は人によって違う。それは、灯子と煌四だけではなく、明楽も、神族も、も、油百七も、そのほかすべての人々にいえることです。
 素晴らしいなと思うのは、そうした登場人物たちが、それまでどんなふうに生きてきたか丁寧に物語の中に盛り込まれていることです(油百七はずっと謎めいたままですが、『火狩りの王 〈外伝〉野ノ日々』に彼の過去がわかる話が収録されています)。第一巻で主要人物と思われた人たちがあっけなく命を落とすのでぼうぜんとした読者も多いと思いますが、生きていく人も、命を落としていく人も、みんなにその人だけの人生があるのだと伝わってきます。また、そうした背景を背負った上で、自分の人生を自分で選ぶ姿も力強く描かれます。たとえば首都に来てからのの決断などは、彼女のそれまでの人生がわかるからこそ説得力があり、意志の固さがわかります。誰一人、物語を進めるために、あるいは単なるにぎやかしのために登場させているのでない。そこに著者の誠実な姿勢があります。

 この物語には、人類を代表するような、圧倒的な力を持つ英雄は出てきません。この世界のすべてを解決できるほどの腕力と知恵を持つ人なんていないし、そんな簡単にすべてが解決できるほど世界は単純ではない、ということです。と同時に、この物語にはすべてを陰で牛耳る悪の枢軸、みたいな存在も登場しません。人々を支配する神族は謎めいているし、〈蜘蛛〉は人間にとって脅威となる存在ですが、誰かたった一人の悪意がこの世界を動かしているわけではなく、さまざまな要因と思惑が複雑に絡み合って今の社会となっているのです。絶対的な悪も善もなく、みんなの中に少しずつ善きものと、悪──あるいは、何か見誤っているもの──があり、そのために混沌が生まれてしまっている。それが世界の真実であり、だからこそ、灯子たちは、自分が何と向き合いどう行動すべきなのか、慎重に見極めなければならなくなっています。
 灯子も煌四も、この世界を、人間にとってどうにかよいものにしたいと願っているのは同じです。でもまだ十代の彼女たちにはわからないことが多すぎて、迷ってばかりです。この第二巻で、神族のひばりがそんな煌四に向かって、印象的な言葉を残します。

「お前とあの村娘はおもしろいな。お前たちは、ここがいかなる世界かを知ろうとしている。どうにかたすかろうとあがくのでもない、破滅を望むのでもない。この世界がいかにあるのか、ただそれだけを知ろうと、強く思っている」

 この言葉には、はっとさせられます。わかりやすくない世界で、自分ができる最善のことは何かを考える手段として、世界のありようを知ろうとするのはとても大切な姿勢です。この世界のことを何も知らないまま大義名分をみにしたり、中身のない正義をふりかざしたりしていては、何が本当に自分にとって大切なものなのか見失ってしまいます。だから、灯子も煌四も真剣に考え続けている。でも、世界が混沌としているからこそ、彼女たちの答えはなかなか見つかりません。
 そんななかで、少年少女たちが相手にいしをわたす姿がよく描かれるのが印象的です。大切な人はもちろん、出会ったばかりでよく知らない相手にも守り石をわたす姿からは、隣人を大切にしよう、助け合おうとするシェアの精神を感じます。一人一人の戦いは非常に孤独なものですが、こうした思いやる心をもって時に助け合い、協力しあうからこそ、彼らは前に進むことができるのだなと信じたくなります。
 そうして彼らはどんな道を選び、どこにたどり着くのかは──第三巻、四巻、そして外伝で、ぜひ確かめてください。

作品紹介・あらすじ



火狩りの王 〈二〉影ノ火
著者 日向 理恵子イラスト 山田 章博
定価: 880円(本体800円+税)
発売日:2022年12月22日

アニメ化でも話題、壮大な王道冒険ファンタジーの傑作、第二弾。
炎魔の群れに襲われたものの、辛くも逃げ延びた灯子。たどり着いた首都で、自分を助けてくれた火狩りの家族を探し始める。一方煌四は、凄腕の火狩り・炉六の狩りに同行した先で、思いもよらない残酷な光景を目にする。父の仲間だった火狩りたちがある男を拷問していたのだ。それが燠火家当主の差し金によるものと知った煌四は、彼への疑いを深めていくが……。あらゆる思惑が渦巻く中、首都には〈蜘蛛〉と呼ばれる者による反乱の時が静かに迫っていた――。
▼特設サイトはこちら
https://kadobun.jp/special/hinata-rieko/hikari/

詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322204001066/
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