横溝正史生誕120年記念復刊! 横溝正史の異色傑作!
横溝正史『貸しボート十三号』文庫巻末解説
角川文庫の巻末に収録されている「解説」を特別公開!
本選びにお役立てください。
横溝正史『貸しボート十三号』
解説
中島河太郎
金田一耕助のシリーズは、もちろん長篇も楽しいが、中・短篇もそれに劣らずおもしろい。それぞれ題材によって長さが左右されるだけで、中・短篇もそれなりに緊密な構成をとっている。本巻には中篇の力作三篇を収めて、異色の一冊が
「湖泥」は昭和二十八年一月の「オール読物」に発表されたが、挑戦形式をとって推理小説ファンの三氏が、それぞれ解決篇を執筆し、著者の結末とともに併載されている。
横溝氏の地方色ゆたかな作品には、数代にわたる両家の反目、
ここでも対立する両家の双方の息子が、ひとりの女性を争って、一方に
烏の群っている小屋から発見された美女は、片眼が失われていて、そこだけ見ると妖婆のように無気味であった。しかもその小屋の住人は、湖上に浮かんでいた死体をとうの昔に拾いあげてきて、
こうなるとこれまで眠っていたような村も、蜂の巣をつついた
著者がはじめ雑誌に発表したとき、章節に分けていなかった。現行本では多少辞句に手を加えた程度だが、その第八章の終りに当るところで、読者に挑戦している。「作者曰く。以上でだいたい犯人捜索のデータは
それに対して編集部では、三人に
解答者は服飾研究家花森安治、漫画家横山隆一、新聞記者飯沢匡の三氏である。まず花森氏は「『モハン』的解決」と題して、浩一郎、村長後妻、由紀子の三角関係から、赤土の掘穴の場での鉢合わせが凶事を起こしたと推定する。
横山説は「浩一郎の告白」と題して、息子同士と女性二人のからみ合いに大きな意味をもたせ、飯沢説は「名探偵の手紙」と題して、パロディーに仕立ててある。金田一が浩一郎の告白を聞こうとした瞬間、倒れてしまってから半身不随になったので、世界的名探偵フーダニット氏に手紙で
三者三様の解決篇の並んだあとに、著者の解答が示されているわけだが、意外性という点では申し分がない。どうしても眼前の痴情関係に目は向けられがちだが、因習にとらわれた村落には、もっと根強い
著者の疎開生活は「本陣殺人事件」以下の多くの岡山物の長短篇を生んだが、それらは単にローカル・カラーの
「貸しボート十三号」は、昭和三十二年八月の「週刊朝日別冊」に発表されたのが原形である。第四章までは辞句に手入れした程度だが、あとは
金田一の活動と推理を追うていくことは、いたずらに原稿用紙の枚数をふやすだけなので、彼によって解明された真相を、簡単に書き記すとある。事件そのものが極端に変っているだけに、その犯行と動機もすこぶる異様だった。著者はやはり存分に書いておこうと、大幅に改稿して、翌年の東京文芸社版「火の十字架」に収めた。
浜離宮公園の沖で発見されたボートに男女の死体が横たわっていたのが、事件の発端である。どちらの首も
複雑怪奇を極めている事件だけに、かえって犯人にとってウイーク・ポイントがあるのではないか、だから案外簡単に片づくのではという金田一の予言は、半分当っていたが、肝腎なところで半分外れていた。予想を超えてはるかに複雑怪奇だったのである。
殺人現場がボート・ハウスと推定され、被害者の男がボート部選手と判明してその合宿を訪ねたのが、金田一と等々力警部、それに腹心の新井刑事の三人であった。選手たちとの交歓は、はじめは白眼視されたが、話が軌道にのっておのずとかれらの性格、交情が浮かびあがってくる。
かれら全員の
「
被害者はストリッパーだったが、男嫌いで通っていた。レズビアンなのに、急に彫刻家と称する男に夢中になったので、「堕ちたる天女」とからかわれ、本人も自認していた。
第二の石膏美人が見つかる一方、一番目の被害者の同僚が襲われて、首を絞められた。犯人の
現代の愛欲の縮図を見せつけられるが、著者は伏線にも手がかりにもこれらを活用している。センセーショナルな犯罪形態は偶然の結果のように見えたが、あとから
岡山物でお馴染の磯川警部に照会し、戦前の事件との
冒頭に石膏に塗りこめられた死体を見せつけられると、つい乱歩風のスリラーが思い浮かぶ。それに愛欲が加わって、ますます華やかな彩りに
作品紹介・あらすじ
横溝正史『貸しボート十三号』
貸しボート十三号
著者 横溝 正史
定価: 858円(本体780円+税)
発売日:2022年02月22日
横溝正史生誕120年記念復刊! 横溝正史の異色傑作!
白昼の隅田川に漂う一艘の貸しボート。中を見た人々は一斉に悲鳴を上げた。そこには首を途中まで挽き切られ、血まみれになって横たわる、男女の惨死体があったのだ。
名探偵・金田一耕助による聞き込みで、事件直前に、金ぶち眼鏡をかけ、鼻ひげを蓄えた中年紳士がボートを借りたことが判明。謎の人物を追って捜査が開始されたが、事件は意外な方向に……。
表題作に「湖泥」「堕ちたる天女」を加えた、横溝正史の本格推理。
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