【カドブンレビュー】

 美味しい料理とワイン、そして温かい謎解きはいかがですか?

 お腹も心も満たしてくれるレストランがある。それは「ビストロ三軒亭」。三軒茶屋にある隠れ家的レストランだ。この店にはお決まりのメニューは存在しない。客の好みを聞き、その人だけのオリジナルコース料理を作るオーダーメイドレストラン。なんとも贅沢だ。それに加え希望すれば、担当のギャルソンを指名することができ、付き切りで給仕をしてくれるというのも特徴だ。店内の本棚には、ポアロ好きなシェフの影響で、アガサ・クリスティー等の翻訳ミステリーが並んでいる。なんだか料理だけでなく謎解きの香りがしてワクワクしてしまう。

 主人公の神坂隆一(22歳)は、本格的に演劇の勉強をするため大学を中退したが、なかなか芽が出ず苦戦中。ある日、この店の常連客である姉の京子に誘われ来店し、それをきっかけにギャルソンとして働くことに。

 この「ビストロ三軒亭」の隆一以外のメンバーは、ポアロ好きの凄腕オーナーシェフの伊勢(33歳)、先輩ギャルソンで天真爛漫な笑顔で客の心を鷲掴みにする陽介(23歳)と端整な顔立ちで栄養士並みの知識を持つ正輝(24歳)。そしてオネエ言葉で話す大黒柱の室田(40代前半)だ。皆、濃いキャラクターたちばかりでとても興味深い。一瞬、話してみたい!と浮ついた気持ちになり、キャラクターの魅力ばかり書いてしまいそうになったのだ。がそこは落ち着いて……。とにかく男女問わず愛される性格で、読者はお気に入りのキャラクターができるのではないかと思う。

 そんな彼らはとても優秀。料理だけでなく、客が望んでいるだろう会話や仕草がとても自然でお腹だけでなく心も満足させるのだ。どのテーブルからも客の高揚感が漂ってくるようで、こちらまで幸せな気分になる。そしていよいよ隆一にとって初めての客が来店し、そこから物語はぐぐっと動き出す――。

 この作品は4話からなる連作短編集。各話とも謎めいた客が来店する。謎めいた客は全て女性だ。彼女たちの心の奥底には暗いものが隠されていた。悲しい記憶、何故自分だけが選ばれないのかという嘆き、大切なものを失いたくないという不安など様々だ。その暗いものを、メンバーたちのもてなしや料理で少しずつ癒し謎を解いていく。その様子は温かい謎解きのようで心いっぱいに安堵感が広がっていくだろう。抱えているものは違うが、私の中にあった不安も少しずつ和らいでいった。

 そして彼女たちを癒すことができた理由はもう1つある。メンバーたちにも、今の姿からは想像できないような過去があったのだ。苦しみもがいた過去があり周りに救われている。彼女たちの苦しんでいる姿に、自分たちの過去を重ね自然と手を差し伸べてしまうのだ。これから先は前を向いて欲しいと願って。

 この作品には、「ビストロ三軒亭」を愛するものたちの想いが溢れている。謎解きの面白さだけでなく、彼らの成長する姿は読者にエールを送ってくれる。

 是非、この作品に触れ臨場感溢れるオリジナル料理、温かい謎解きとメンバーたちのもてなしを存分に味わい楽しんでほしい。ご来店お待ちしております。

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レビュアー:吉田 伸子

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書籍

『ビストロ三軒亭の謎めく晩餐』

斎藤 千輪

定価 691円(本体640円+税)

発売日:2018年09月22日

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    書籍

    『窓がない部屋のミス・マーシュ 占いユニットで謎解きを』

    斎藤 千輪

    定価 605円(本体560円+税)

    発売日:2017年04月25日

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