【朗読つきカドブンレビュー】
カドブンを訪れて下さっている皆さん、こんにちは。
秋の訪れを感じる今日この頃、いかがお過ごしでしょうか?
今回ご紹介するのは、日本SF界の巨匠、小松左京著の『ゴルディアスの結び目』です。
本書は、1976年1月に文芸雑誌「野性時代」に初掲載され 、1978年の第9回星雲賞(日本短編部門)を受賞した表題作「ゴルディアスの結び目」を含む4つの短編が収められた、「ちょっと変わった短編集」となります。
その中でも圧巻だったのはやはり「ゴルディアスの結び目」。
岩だらけの山中に建つ特別な病院に幽閉されているのは、大きな心の傷を負い精神を病んだ美しい少女、マリア。
彼女が隔離されていた病室では、室内に急に岩が出現したりベッドが宙を舞うといった怪奇現象が起きていた。
日本人のサイコ・エクスプローラー、伊藤浩司はこの現象の原因を探るため、マリアの心の中へ潜入し心の傷の真相を突き止めようと試みるのだが……
といったもの。
映画「ザ・セル」を彷彿させるこの作品は「心理学と物理現象を混ぜた最初のSFではないか」という評もあり、ジワジワと進む物語の不気味さ、壊れてしまった人の心の哀しさ、そして凶暴さを描いたサイコSFスリラーで、まったく時代を感じさせません。
映画でもいいし、じっくりと観られる連続ドラマでもいいですが、映像化されたら面白いだろうなあ、なんて思っちゃいました。
難をいうと登場人物が少ないので自分が演じられる役がなさそうなのと、CGを多用することになるので無茶苦茶制作費がかかる、ということでしょうか(笑)。
先に本書は「ちょっと変わった短編集」と記しましたが、実はこの4つの短編、著者が南極旅行をした際に旅で印象に残った場面や心象風景をフィクションの形で書いた「メモ」──本書の巻末にある小松左京氏の言葉を借りますと「ほんの一行ずつのメモ」、なのだとか。
そういわれれば確かに納得で、表題作「ゴルディアスの結び目」と、地球を脱出した宇宙船の冒険を描いた「すぺるむ・さぴえんすの冒険」以外は、「物語」というよりは、むしろ「宇宙理論の講義」あるいは「人類や宇宙のルーツにまつわる思索」のような印象を受け、小説と考えて読むと難解でとっつきづらい印象を受けます。
しかし、「ほんの一行ずつのメモ」としては、これらの短編群が持つ情報量は圧倒的ですし、なかなか得ることのない機会──日本SF界を牽引してきた作者の思索の跡を我々に垣間見せてくれるという機会──を与えてくれる希有な本である事は間違いありません。
長編、 短編、本格SFからホラー、SFミステリー、ノンフィクションと幅広いジャンルで活躍し、日本SF作家クラブの会長も務めた小松左京氏ですが、残念ながら2011年に亡くなられました。
『日本沈没』『復活の日』『さよならジュピター』など数々の作品を残した同氏ですが、なんとなんと!
地球から遠く約5億キロ離れた空間に浮かぶ、肉眼では見えない小さな惑星には、その発見者により「Komatsusakyo」の名前がつけられているそうです!
秋の夜空の下、遠い宇宙に浮かぶ惑星「小松左京」に思いを馳せながら、ページを開いてみてはいかがでしょうか。
◇本格SFの一つの到達点! 小松左京『ゴルディアスの結び目』が八重洲ブックセンター(http://www.yaesu-book.co.jp/)限定で復刊!
※2019年3月迄。それ以降は全国の書店でも購入できます。
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