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レビュー

「予感」が実現すること そのこと自体に物語としての快感がある 『悲しい話は終わりにしよう』

 ミステリー(推理小説)とは呼ばれないし、作者もまた読者を驚かせるつもりはさほどないと感じられるけれど、ミステリー的な手法を取り入れて作品世界の構築に臨む。そうした試みを行う若手作家達が、二〇一七年の小説界を賑わせた。
 例えば古谷田奈月(こたやなつき)は『望むのは』で、目の前にある問題から読者の意識をそらすミスリード(誤誘導)の演出を完璧に決めた。『消えない月』の畑野智美(はたのともみ)は、ある小道具の意味を終盤で明かすことで、ヒロインにつきまとうストーカーの異常性を悲しみと共に描出した。町田そのこはデビュー短編集『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』の一篇で上質な叙述トリックを決めていたし、又吉直樹の芥川賞受賞後第一作『劇場』のラストの展開は、紛れもなく「伏線と、その回収」だった。
 一九九一年生まれの小嶋陽太郎(こじまようたろう)も、若き一群に名を連ねる人物だ。彼の作品が「青春ミステリー」と呼ばれることはないが、「ミステリーの要素を取り入れた青春小説」の書き手として、二〇一四年のデビュー作『気障でけっこうです』以来、キャリアを重ねてきた。
 第七作に当たる書き下ろし長編『悲しい話は終わりにしよう』は、四方を山に囲まれた長野県松本市が舞台。大学生の「市川」と中学生の「佐野」、二人の「僕」の視点が入れ替わりながら、二つの三角関係が描き出されていく。「市川」はこの地に生まれ育ち、大学もこの地にあるものを選んだ。退屈な日常は、キャンパスで知り合った同性の友人・広崎と、同級生の女の子・吉岡との出会いによってかすかに変化する。そんなある日、広崎が、吉岡への恋愛感情を「僕」に告白してくる……。「佐野」は、中学一年の時に実父を自殺で亡くしていた。クラス内での腫れ物扱いに嫌気が差した頃、手を差し伸べてくれたのは学年一の人気者である、奥村だった。二人の蜜月期は、転校生の少女・沖田の存在によって歪み始める。
 巻末のプロフィールからも明らかなように、著者は長野県松本市出身であり信州大学出身だ。自身が青春期に体感し、ストックしていたさまざまな素材を、故郷を初めて舞台にした本作で解放したのは間違いないだろう。これまでの作品で描かれてきたようなキラキラは影を潜め、鬱屈が前面に押し出されていることも、著者自身の実感によるものなのかもしれない。何より驚かされたのは、ミステリーの取り入れ方だ。本作における「伏線」とは、「予感」なのだ。ゆえに「伏線の回収」とは、「予感の実現」となる。ここには確かにミステリーならではのトリックがあり、終盤にサプライズも仕掛けられているのだが、「ネタは分かっていたよ」と胸を張る人はいない。「分かっていた」予感が実現すること、そのこと自体に物語としての快感があり、そのこと自体に登場人物達にとって意義があるのだから。しかも「予感の実現」の感触はほんのつかの間で、物語は予想だにしなかった方向へとさらに一歩、先へと進む。そして、未曽有の人間ドラマが爆発する。タイトルの意味が、心に突き刺さる。
 この作品を、「青春ミステリー」と呼ぶ人はやっぱりいない。この作品は、ただただ抜群に優れた「小説」だ。

『望むのは』
古谷田奈月
(新潮社)
高校1年生小春のお隣の家のお母さんは、ゴリラだ。彼女にはずっと離ればなれに暮らしていた息子がいる。最近同居を始め小春と同じ学校へ転入してきた、人間の歩だ。さまざまな個性や感情が入り乱れたのち、ラストでまさかのサプライズが発動する全5篇の連作短編集。


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