取材・文:河内文博(アンチェイン)
“大人も泣けるアニメ”の作り手、岡田麿里監督の最新作!
“大人も泣けるアニメ”として、300万人の心を動かし、大ヒットを記録した映画「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」の脚本家であり、「さよならの朝に約束の花をかざろう」で映画監督デビューを果たして、国内外から高い評価を得た岡田麿里。その最新監督作「アリスとテレスのまぼろし工場」がついに公開となる。
「呪術廻戦」「チェンソーマン」など、人気作を多数発表してきたスタジオ・MAPPA。同スタジオが手掛ける、初のオリジナル劇場アニメーションとなった本作は、岡田監督が作り上げる世界観に惚れ込んだ中島みゆきが主題歌を務めることでも話題となっている。
物語は製鉄所の爆発事故により外界との出口を失い、時が止まってしまった町が舞台。その不思議な町の中で鬱屈とした日々を過ごしていた14歳の正宗は、謎めいた同級生・睦実に導かれて、製鉄所の第五高炉へと足を踏み入れる。そこにいたのは、言葉を話せない野生の狼のような少女・五実。二人の少女との出会いが、“世界の均衡”が崩れる始まりだった。止められない“恋する衝動”を抱えた少年少女の運命とは――。
この日の舞台挨拶で、満席の客席から割れんばかりの拍手で迎えられたのは、岡田麿里監督、睦実役の上田麗奈、五実役の久野美咲。前日の夜まで仕上げをしていたという劇場公開版の初お披露目ということも伝えられ、客席からの期待感も募るばかり。それに応えるように監督、キャストが作品への思いの丈を語った舞台挨拶となった。
上田麗奈と久野美咲が語る、本作の世界観!
舞台挨拶のMCを務めたのは、アニメファンとしても知られ、本作にもラジオDJ役で出演しているニッポン放送アナウンサーの吉田尚記。すでに行われた先行上映バージョンで実施された試写会では、「震えが止まらない」「感情が爆発する」といった絶賛の声が届いていることに吉田アナが触れると、岡田監督は「ありがとうございます」と照れた表情。「私は変わっていくことがいいこと、変わらないことはダメなことだと言われて育ってきました。でも変わることに対して、焦る部分やマイナスに思ってしまう気持ちもあったんです。いま、なんとなく閉塞感を感じる時代の中で“変化”ってそれぞれが勝手にしちゃうものなんじゃないか…そういったことを考えて作品に書いてみました」とコメントし、本作の着想を語った。
「もし“変化を禁じられた町”で生きるとしたら?」と本作にちなんだ質問が投げかけられたのは、ヒロイン役を演じた上田と久野。上田は「ポジティブに受け取るのか、ネガティブに受け取るのか。どっちかだよね?」と久野とともに悩みながらも、「うちには猫ちゃんがいるから、ずっと変わらずに一緒にいられるなら幸せだなと思います!」と愛する猫への想い全開の答えに、会場はほっこり。「確かにすごく幸せだね!」と微笑む久野は「この映画の世界のような“変わらなさ”の中の安心感や苦しさみたいなものを感じることって、私たちの日常にもどこかあるなって思うんです。なので、私にとっては作品と日常が繋がっているように思えていました」と続け、岡田監督の世界観に没入してアフレコに臨んだことを話した。
また、ラブストーリーへの想いを聞かれた岡田監督は「世の中、恋より愛のほうが偉い、みたいな感じがありますが、私の中では全然別物で。恋って本当に否応なく好きになっちゃうものじゃないのかなと思うんです。そのよく分からないパワー、恋のトリガーを描きたいと思いました」と力強くアンサー。その監督の心のうちを、作品を通して知る二人が、深く頷いていたのが印象的だった。
3人で向かい合って行われたアフレコ
本作では、劇中で描かれるキスシーンの一幕を、主人公・正宗役の榎木淳弥、上田、久野の3人がお互いに向き合ってアフレコが行われたとのこと。上田は、「3人のリアルを感じながら演じたいシーンだったんです」と振り返る。久野も「休憩中に話し合って、3人で提案したんだよね」と明かした。キャスト陣の熱量ある提案を聞いた岡田監督は、そのアフレコ方法を実践。「お互いに見合いながら演じるとこういう作用をもたらすのか、と驚きましたね。ほかの声優さんたちもそれを見て、皆さん感動していました。この声に負けないようにとキャラクターデザインの石井百合子さんら作画スタッフも奮い立っていました」と榎木、上田、久野の表現力を讃えた。
舞台挨拶の後半では、本作のために主題歌「心音(しんおん)」を書き下ろした中島みゆきから音声メッセージが到着。「中島は、とにかくもう岡田麿里さまを尊敬申し上げておりますので、映画の完成を、期待に満ち満ちて、お待ちしているところです」という声が会場に響き渡ると、岡田監督は感動に顔を覆っている様子。「毛穴が開きまくって…本当にありがとうございます!」と興奮を隠せず、恐縮しきりだった。
「好きって気持ちはいろんなことを飛び越えちゃう」
吉田アナより、完成した作品への想いを聞かれたキャスト。上田は「決して爽やかではない少年少女の青春のお話で、曇り空が似合って、錆びた匂いが感じられる作品です。それだけにどっぷり浸かれるし、いろんな感情が心の中に渦巻いて、爆発しそうになるんじゃないかなと思います。私たちもまだ観ていない上映版を、ぜひ楽しんでいってください!」とアピール。自身が演じる五実に関して、詳しくは言えないと、ネタバレに配慮して言葉を選ぶのは久野。「最後まで演じて、完成した作品を観て、誰かを好きになる気持ちって素敵なことだし、好きって気持ちはいろんなことを飛び越えちゃうんだなと感じました。作品の中に、皆さんの心にがっしり届くものがあったらいいなと願っています」と万感の想いでコメント。
締めくくりは、もちろん岡田監督。「制作過程は簡単なものではありませんでした。本当に完成するか、スタッフ一人ひとりが不安だったと思います。でも、みんなの熱が途切れなかったんです。声優さんたちの声をいただき、みゆきさんの曲もいただいて、スタッフが皆さんの想いをいただいて、最後まで走り切った映像をこれから観ていただきます。「アリスとテレスのまぼろし工場」 をよろしくお願いいたします!」と深く一礼。大きな拍手に送られ、舞台挨拶は幕を閉じた。
アニメファンならずとも、岡田監督の過去作を知らずとも楽しめる「アリスとテレスのまぼろし工場」。抗えぬ運命に翻弄されながら“変化を禁じられた町”の少年少女たちのひりひりする恋の行方に釘付けになってしまう本作は、映画のみならず、岡田監督が執筆した小説版も刊行中。キャラクターそれぞれの孤独な心に寄り添った、岡田監督の温かな筆致をぜひ小説でも確かめてほしい。
映画公開情報
「アリスとテレスのまぼろし工場」
脚本・監督:岡田麿里
副監督:平松禎史
キャラクターデザイン:石井百合子
演出チーフ:城所聖明
美術監督:東地和生
音楽:横山 克
制作:MAPPA
主題歌:中島みゆき「心音(しんおん)」
出演:榎木淳弥 上田麗奈 久野美咲/八代 拓 畠中 祐 小林大紀 齋藤彩夏 河瀨茉希 藤井ゆきよ 佐藤せつじ
/林 遣都 瀬戸康史
配給:ワーナー•ブラザース映画 MAPPA
9月15日(金)より全国公開
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©新見伏製鐵保存会
STORY
製鉄所の爆発事故により出口を失い、時まで止まってしまった町で暮らす14歳の正宗(榎木)。いつか元に戻れるようにと、何も変えてはいけないルールができ、鬱屈とした日々を過ごしていた。ある日、気になる存在の謎めいた同級生・睦実(上田)に導かれ、製鉄所の第五高炉へと足を踏み入れる。そこにいたのは、言葉を話せない、野生の狼のような少女・五実(久野)。二人の少女との出会いは、“世界の均衡”が崩れる始まりだった。止められない恋の衝動が行き着く未来とは?
書誌情報
『アリスとテレスのまぼろし工場』
著:岡田麿里
定価:748円 (本体680円+税)
刊行中
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322302001006/
「あの花」の岡田麿里が自ら書き下ろし! 新作劇場アニメの原作小説!
製鉄所の爆発事故により出口を失い、時が止まった町で暮らす中学3年生の正宗。変化を禁じられ鬱屈した日々を過ごす中、謎めいた同級生の睦実に導かれ、野生の狼のような少女と出会うのだった――。 岡田麿里監督が自ら執筆した、劇場アニメの原作小説!