世界で8500万部の大ベストセラーになっている『アルケミスト 夢を旅した少年』の作者、パウロ・コエーリョの最新刊『弓を引く人』が刊行されました。弓道を題材にした寓話を通して、人生を実り豊かにするヒントがちりばめられた、素敵なイラスト満載の本です。まずは、プロローグの一部の試し読みからお楽しみください。
『弓を引く人』試し読み#3
「我々はまず、相手の言い分を聞くことと、そして相手を尊敬することを学ばなければならない。それを学ばない内は、他人のことを判断してはならないよ。あの人は良い人だった。彼は私に恥をかかせようとはしなかったし、自分が私より優れていることを証明しようともしなかった。そのような印象を与えたかもしれないがね。彼は私に戦いを挑んできたように見えたかもしれないが、自分の技術を披露して、それを認めてもらいたかっただけなのだ。それに射手は予想外の試練に立ち向かわざるを得ない場合がある。これは弓道の修行の一環だ。まさしく、彼が今日、私にさせたことはそれだったのだよ」
「あの人は、あなたが弓の第一人者だと言っていました。でも、僕は哲也さんが、弓道のマスターであることさえ知りませんでした。哲也さんはどうして大工として働いているのですか?」
「弓道の精神はすべての道に通じるからだ。それに木材を扱う仕事をしたいというのが、私の長年の夢だった。弓道を極めた者は弓も矢も的も必要としないのだ」
「この村では面白いことが何もおこりません。でも、今突然、僕がここにいて、もう誰一人として関心を示さない弓術のマスターと顔を合わせているなんて、信じられません」と少年は目を輝かせて言った。「弓の道とは何のことですか? 僕に教えてくださいますか?」
「教えることはむつかしくない。村に歩いて帰る間に、1時間もかからないで教えることができるだろう。むつかしいのは、そのあと、必要な精度をマスターできるまで毎日練習を積み、
少年の目は哲也にどうか教えてくださいと懇願しているようだった。哲也は黙ったまま、15分近く歩き続けた。哲也が再び口を開いたとき、彼の声は若返っているように聞こえた。
「今日、私はとても
何分か前、お前は私のことをマスターと呼んだ。マスターとは何なのだろうか。私ならこう言おう。マスターとは何かの知識を教える人のことではない。マスターとは、魂の奥底に最初から持っている自分自身の知恵を見つけるために、最善を尽くしなさいと、生徒を鼓舞し、彼らに霊感を与える人のことだ」
そして山道を下りながら、哲也は少年に弓の道について説明をしたのだった。
(続きは本書でお楽しみください)
作品紹介:『弓を引く人』著パウロ・コエーリョ
弓を引く人
著者 パウロ・コエーリョ 共訳 山川 紘矢 共訳 山川 亜希子
定価: 1,980円(本体1,800円+税)
発売日:2021年11月20日
『アルケミスト』のパウロ・コエーリョが贈る、人生を実り豊かにする教え
この国で最高の弓の達人である哲也は、現在、小さな村の普通の大工として生きていたが、ある日、遠い国から来た別の弓の達人から挑戦を受けた。
哲也はこの挑戦を受けることによって、その弓の達人だけでなく、村の少年にも弓の真髄を教えるのであった――。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322102000108/
amazonページはこちら