わたしは探している。〈人を殺せる〉怪談を。
第41回横溝正史ミステリ&ホラー大賞〈大賞〉受賞作!
10月22日に発売された、第41回横溝正史ミステリ&ホラー大賞〈大賞〉受賞作にして、新名智のデビュー作『
本作は、“体験した人が死ぬ怪談”を探す怪談師の三咲と、“呪いか祟りで死にたい”カナちゃんのふたりが、本物の怪異を追い求める物語。
怪談を探すミステリであり、怪異とめぐりあうホラーでもある、選考委員の絶賛を浴びた大注目小説を、まずは試し読みからお楽しみください。
『虚魚 』試し読み#14
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小さい頃はおばけの話なんて大嫌いだった。
絵本やアニメを見ていても、怖い場面が出てくるたびにひどく泣いていたような思い出がある。一度、父が冗談で、いたずらするとおばけが出る、なんてお決まりのことを言ったら大騒ぎになった。夜になっても寝室に入れず、リビングで明かりをつけたまま、困り果てた両親と一緒に深夜まで起きていた、なんてこともあったそうだ。
そんな中、とりわけよく覚えている出来事がある。
わたしがまだ小学校へ上がる前のことだ。同居していた祖父が亡くなった。おじいちゃん子だったわたしは大泣きに泣いた。祖父が死んだことを認めるのが嫌で、また
それからすぐ、あるいは記憶がそうなっているだけで、もっと後日のことかもしれないが、わたしは祖父の夢を見た。わたしと祖父は、ふたりでよく遊んでいた八畳の和室に、向かい合って座っている。祖父はじっとうつむいて何も言わない。何も言わないのに、わたしは怒られていることになっている。
視界の隅で何かが動く。黒いものが、家具の後ろからちらちらと見えている。気になるけれど、わたしはそっちを向くことができない。それは怖いものだという意識だけがある。
黒いものは天井の板の間からも、畳の
やがて、黒いものたちが壁や天井や畳を離れて、わたしと祖父に近づいてくる。わたしは叫びたいのに声が出ないし、身動きも取れない。体のすぐ横から、見えないだれかの息遣いがする。
うふふ、ふっ、ふはっ。
わたしは目を覚まし、飛び起きた。その瞬間、自分が眠っていたことを思い出す。そこはいつもの寝室で、左右には両親が眠っている。
安心してまた横になったとき、天井に貼りついた祖父と目が合った。
わたしの叫び声で起き上がった両親が部屋の明かりをつけると、もう祖父は消えていた。わたしは号泣し、母になだめられながら少しずつ、今見た夢のこと、死んだはずの祖父の顔が見えたことをしどろもどろに話した。
だいたい話し終わると、母はわたしの背中をさすった。
「きっとおじいちゃんが寂しがってるのよ。三咲とちゃんとお別れできなかったから」
そうだろうか、と思った。だとしたら、あの黒いものたちはなんだったのだろう。でも幼いわたしには、その違和感を伝えるだけの言語能力がなかった。
翌日、わたしは朝から母と一緒に祖父の部屋に行き、仏壇に手を合わせた。おじいちゃんにお別れしてね、と言われたので、心の中で、さようなら、もう出てこないでね、と唱えた。
ふと顔を上げると、祖父の遺影が目に入った。
「ほら、おじいちゃんも喜んでる」
母にそう言われても、遺影の顔は無表情としか思えなかった。
それから年月が経ち、わたしは十一歳になった。ある日、両親とわたしは車で外食に出かけた。場所は近所のイタリアンレストランだ。でもそこで何を食べたのか、どんな話をしたのかはほとんど覚えていない。当時のわたしは思春期の入り口にいて、両親との距離感も少し変わりつつあった。だから、その夜の食事もあまり楽しんだ記憶がない。そのことをずっと後悔している。もし帰り道であんなことが起きると知っていたら。
つづく
『虚魚 』新名智
第41回横溝正史ミステリ&ホラー大賞<大賞>受賞作
虚魚
著者 新名 智
定価: 1,815円(本体1,650円+税)
発売日:2021年10月22日
わたしは探している。<人を殺せる>怪談を。 横溝賞<大賞>受賞作。
“体験した人が死ぬ怪談”を探す怪談師の三咲は、“呪いか祟りで死にたい”カナちゃんと暮らしている。幽霊や怪談、呪いや祟り、オカルトや超常現象。両親を事故で亡くした日から、三咲はそんなあやふやなものに頼って生きてきた。カナちゃんとふたりで本物の怪談を見つけ出し、その怪談で両親を事故死させた男を殺すことが、いまの三咲の目標だ。
ある日、「釣り上げた人が死んでしまう魚がいる」という噂を耳にした三咲は、その真偽を調べることにする。ある川の河口で似たような怪談がいくつも発生していることがわかり、ふたりはその発生源を求めて、怪異の川をたどっていく。“本物”の怪談に近づくうち、事情を抱えるふたりの関係にも変化がおとずれて――。
選考委員の絶賛を浴びた第41回横溝正史ミステリ&ホラー大賞<大賞>受賞作。
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