わたしは探している。〈人を殺せる〉怪談を。
第41回横溝正史ミステリ&ホラー大賞〈大賞〉受賞作!
10月22日に発売された、第41回横溝正史ミステリ&ホラー大賞〈大賞〉受賞作にして、新名智のデビュー作『
本作は、“体験した人が死ぬ怪談”を探す怪談師の三咲と、“呪いか祟りで死にたい”カナちゃんのふたりが、本物の怪異を追い求める物語。
怪談を探すミステリであり、怪異とめぐりあうホラーでもある、選考委員の絶賛を浴びた大注目小説を、まずは試し読みからお楽しみください。
『虚魚 』試し読み#11
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これは、わたしの友人が、妹から聞いたという話です。
彼女の通っていた高校では、一時期、こっくりさんのような遊びが
その遊びでは参加者が円を作って立ち、ひとりだけは円の中心に座ります。このひとりが、いわば霊媒役で、遊びの最中は目隠しをしなければいけない決まりでした。
次に、他のメンバーが、その霊媒役の子の頭に手を置いて、こっくりさんを呼び出すためのおまじないを唱えます。こっくりさん、こっくりさん、来てください、という、あれですね。そして質問。恋の相談とか、今度のテストに出る問題とか。ここは普通のこっくりさんと同じです。それから円をばらして、教室のあちこちに散ります。
最後に、中心に座っていたひとりが立ち上がり、直感に従って何かをする。
これはなんでもいいんだそうです。どこかを指差すとか、何か叫ぶとか。とにかく、その動作が、こっくりさんからのメッセージになるというわけです。
当時はかなり流行したようで、ほとんどの女子生徒が一度くらいは参加させられていた、と聞きました。なかでも、とくに熱心にやっていたのが、あるひとりの女子生徒でした。仮にK子と呼びます。
彼女は、クラスの中心的な人物で、明るく社交的な性格でした。ただ、その一方で、占いとか心霊現象みたいなことに、すごく興味を持っていました。こっくりさんの遊びにも、異常なくらい執着していたそうです。嫌がる生徒に無理やりやらせたり、それで結果が気に入らなければ、除霊と称して虫や雑草を食べさせたり。まあ実態としては、こっくりさんを口実にいじめをしていた、ということなのでしょう。
ある日、彼女は仲間を集めて、同じクラスのとある女の子を空き教室に連れ込むと、こっくりさんの霊媒役をやらせました。その子は、K子が以前からいじめの標的にしていた相手で、こっくりさんの祟りを真剣に怖がっていたので、K子たちからすれば、格好のおもちゃだったみたいです。その日も彼女は嫌がっていましたけど、K子たちに無理やり座らされて、目隠しをつけられて……それからはおとなしくなったそうです。遊びの最中に目隠しを外すと呪われる、とみんなが言っていたので、そのことに怯えていたのでしょうね。
あとはいつもどおり。K子たちが彼女の頭に手を置いて、
「わたしたちの中で、最初に死ぬのはだれですか?」
ところが、質問を終えたK子たちがルール通り教室の四方に散らばっても、円の中心にいたその子は、なかなか立ち上がろうとしません。最初は笑って見ていたK子も、だんだんいらだってきました。そこでK子は、座っている子の背後にそっと忍び寄って、いきなり目隠しを奪い取ったんです。
それを見ていた周りの子たちが口々に、呪われちゃった、死んじゃうよ、などとはやし立てます。やられたその子は、しばらく
で、翌朝、その子は学校のすぐ近くにある用水路から、遺体となって見つかりました。
どうやら、用水路に頭から落ちて、それで首の骨を折ってしまったようなんです。その子がK子たちに嫌がらせを受けていたことは、学年のほとんどが知っていましたから、K子たちに突き落とされたんじゃないかとか、自殺じゃないかとか、いろんな噂が立ちました。でも結局、警察の捜査で、彼女は誤って用水路に落ちた、事故死ということになったそうです。
それでも、学校内に一度広まった噂は、なかなか消えませんでした。彼女が亡くなる前に、こっくりさんをやらされていた、という話もすぐに伝わっていきました。遊びの最中に目隠しを取られたということも。じゃあ、これはこっくりさんの呪いじゃないか。みんな、口には出さないけれど、そう思っていました。
ところが、そんな騒ぎの中だというのに、K子だけはなぜか楽しそうな様子で学校へ来ていました。さすがにこっくりさんはもうやっていませんでしたが、授業中に廊下をふらふら歩いていたり、先生がそれを注意すると、いきなり笑いだしたり、はたから見てもおかしな状態だったといいます。
それで何週間か経った、ある日の放課後のことでした。
とある生徒が帰ろうとすると、K子の声がどこかの空き教室から聞こえてきました。しかも、それはあの、こっくりさん、こっくりさん、という、例のおまじないの一節だったんです。
いったい、だれがK子に付き合って、こっくりさんなんかをやっているのだろう、とその生徒は思いました。あんなことがあって、こっくりさんの話はほとんどタブーになっていましたし、それでなくとも、様子のおかしいK子とかかわり合いになろうとする人はほとんどいなかったからです。
その生徒は声のする空き教室に近づいて、ドアにある窓から、こっそり中を覗いてみました。すると、中にある椅子や机は、部屋の隅に片付けられていて、そうしてできた教室の中央のスペースに、目隠しをしたK子がしゃがみこんでいました。
ところが、本来ならいるはずの、他の参加者というのがそこにはいなかったんです。K子は、だれもいない教室で、たったひとり目隠しをして、こっくりさんを遊んでいました。
すると次の瞬間、K子は
なんとかちゃんは落ちて死ぬ。そういう言葉でした。
それは、あの日、K子や、亡くなった女の子と一緒に、こっくりさんをしていた生徒の名前でした。叫んだK子はその場でバタンとしゃがみこむ。かと思うとまたバンと立ち上がって、教室の中をうろうろする。そして立ち止まって、別の方向を指差し、同じことをする。
なんとかちゃんは転んで死ぬ。
なんとかちゃんは食べられて死ぬ。
なんとかちゃんはぶつかって死ぬ。
それはちょうど、電池式のおもちゃみたいなぎこちない動きでした。まるで、K子の体が何か別のものに操られているかのような。そう考えてぞっとしたその生徒は、急いで逃げ出しました。逃げるとき、またK子の叫び声が聞こえました。
K子はばらばらにされて死ぬ。
……その絶叫を最後に、何も聞こえなくなったということです。このあと、どうなったのかはわかりませんが、後日談があります。
事件から数年のうちに、そこで名前を呼ばれた生徒たちは、全員亡くなったというんです。ある人は、自宅の二階の窓から飛び降りて亡くなりました。また、ある人は転んで頭を打って、ある人はキャンプ中に熊に襲われて、ある人は列車に飛び込んで。
つまり、あのとき、取り
そして、最後にはK子も亡くなったといいます。ただ、どうやって亡くなったのか、それは伝わっていません。だけど、もしあのとき、こっくりさんが未来を予言したのだとすれば……彼女もどこかで、ばらばらにされて亡くなっているのかもしれませんね。
あともうひとつ、わからないことがあります。すべてのきっかけとなった、あのこっくりさんのときのことです。あのとき、だれかが彼女に向かって「最初に死ぬのはだれですか?」という質問をしました。
いったい、だれが、どうしてそんな不吉な質問をしたのか、結局わかっていないそうです。
つづく
『虚魚 』新名智
第41回横溝正史ミステリ&ホラー大賞<大賞>受賞作
虚魚
著者 新名 智
定価: 1,815円(本体1,650円+税)
発売日:2021年10月22日
わたしは探している。<人を殺せる>怪談を。 横溝賞<大賞>受賞作。
“体験した人が死ぬ怪談”を探す怪談師の三咲は、“呪いか祟りで死にたい”カナちゃんと暮らしている。幽霊や怪談、呪いや祟り、オカルトや超常現象。両親を事故で亡くした日から、三咲はそんなあやふやなものに頼って生きてきた。カナちゃんとふたりで本物の怪談を見つけ出し、その怪談で両親を事故死させた男を殺すことが、いまの三咲の目標だ。
ある日、「釣り上げた人が死んでしまう魚がいる」という噂を耳にした三咲は、その真偽を調べることにする。ある川の河口で似たような怪談がいくつも発生していることがわかり、ふたりはその発生源を求めて、怪異の川をたどっていく。“本物”の怪談に近づくうち、事情を抱えるふたりの関係にも変化がおとずれて――。
選考委員の絶賛を浴びた第41回横溝正史ミステリ&ホラー大賞<大賞>受賞作。
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「ナキザカナプロジェクト」
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