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試し読み

〈釣り上げたら死ぬ魚〉がいるらしい――。横溝正史ミステリ&ホラー大賞〈大賞〉受賞作!『虚魚(そらざかな)』試し読み#1

わたしは探している。〈人を殺せる〉怪談を。
第41回横溝正史ミステリ&ホラー大賞〈大賞〉受賞作!

10月22日に発売された、第41回横溝正史ミステリ&ホラー大賞〈大賞〉受賞作にして、新名智のデビュー作『虚魚そらざかな』。
本作は、“体験した人が死ぬ怪談”を探す怪談師の三咲と、“呪いか祟りで死にたい”カナちゃんのふたりが、本物の怪異を追い求める物語。
怪談を探すミステリであり、怪異とめぐりあうホラーでもある、選考委員の絶賛を浴びた大注目小説を、まずは試し読みからお楽しみください。

虚魚そらざかな』試し読み#1

そら-ざかな【空魚・虚魚】(名)
①釣り人が自慢のために、釣り上げた魚の数や大きさなどを、実際よりも大きく言うこと。また、その魚。
②(主に釣り人同士の)話の中には登場するが、実在しない魚。

一、釣り上げると死ぬ魚の話

 釣り上げたら死ぬ魚がいるらしい、とカナちゃんが言った。
「なにそれ?」
 最初、わたしは話半分で聞いていた。そんなことより顔にかかる枝や雑草がうっとうしい。むしけスプレーが効いていればいいが、と思った。
さがの釣り堀で金魚を釣ってるおじさんに聞いたの。そういう魚がいるんだって」
「金魚の釣り堀に?」
「じゃなくて、海に」
 道路を外れてから、もうかなり歩いていた。シャツの内側に汗がべっとりとまとわりついている。ここまで本格的に山歩きさせられるとは思わなかった。時計を見ると四時近い。できれば日が沈む前に帰りたい。
 後ろのカナちゃんは、と見ると、まるで疲れた様子がない。いつの間に拾ったのか、太い木の枝をつえ代わりにしてやぶを払っている。彼女がいつも着ている薄汚いカーキ色のジャンパーの、いたるところにひっつき虫が貼りついていたけれど、本人は気にしていないようだった。
「それってあれじゃないの」一息ついて、わたしは言った。「うれしくて死ぬ、ってパターンじゃないの」
「どういう意味?」
「ゴルフのホールインワンとか、マージヤンチユウレンポウトウとか、出たら死ぬって言うでしょ」
「よくわかんない」
 金魚釣りへは行くくせに、ゴルフや麻雀には疎いらしい。一年以上も一緒にいるのに、わたしが仕事に行っている間のカナちゃんの暮らしは、いまだに謎が多かった。とにかく、ものすごく暇を持て余していることは確かだ。
「珍しい魚を釣って、喜びのあまり死んじゃうんじゃないかってこと」
「そういう感じじゃなかったけどな」
 だんだんと雑木林が開けてきた。目的地が近いみたいだ。そう思って地面を見ると、そこかしこにペットボトルなどのゴミが捨てられていた。見物人たちの落とし物だろう。不届きな連中がいるものだ。まあ、わたしたちも似たようなものか。
「なんかね、見たこともない魚なんだって。そのおじさんが聞いた話では、ぬらっとしてたり、とげとげしてたり」
「深海魚だ」
「そうかも。でね、おじさんの知り合いが本当に釣り上げたの。そのときは、ただ気味の悪い魚だと思って逃したらしいんだけど」
「死んじゃったんだ、その人」
「そう」
 しばらく進むと太陽の光が消えた。山の陰に入ったのだろう。にわかに夕闇が忍び寄り、木々が色を失う。わたしもカナちゃんも話すのをやめた。どこかから、知らない鳥の鳴き声がした。
「死因は?」
 わたしは尋ねた。そこがもっとも重要だ。
「おじさんは知らないみたいだったけど、急に死んだって言うから、病気かな」
「おもしろい死に方だったら話題にするはずだよね。自殺とかさ」
 カナちゃんは、わたしの顔をちらっと見て、また藪をつつく。
「信じてないでしょ」
「あまり」
 仮に本当だったとしても、使えそうではなかった。狙った魚を確実に釣る手段があるならよいが、運に任せるしかないのなら、落ちてきたいんせきが頭に当たって死ぬのと同じことだ。そんな悠長なことはしていられない。
 でも、とわたしは言った。
「死ぬ原因が釣ったことじゃなく、魚のほうにあるのなら……」
「見たら死ぬ魚、ってこと?」

つづく

虚魚そらざかな』新名智



第41回横溝正史ミステリ&ホラー大賞<大賞>受賞作
虚魚
著者 新名 智
定価: 1,815円(本体1,650円+税)
発売日:2021年10月22日

わたしは探している。<人を殺せる>怪談を。 横溝賞<大賞>受賞作。
“体験した人が死ぬ怪談”を探す怪談師の三咲は、“呪いか祟りで死にたい”カナちゃんと暮らしている。幽霊や怪談、呪いや祟り、オカルトや超常現象。両親を事故で亡くした日から、三咲はそんなあやふやなものに頼って生きてきた。カナちゃんとふたりで本物の怪談を見つけ出し、その怪談で両親を事故死させた男を殺すことが、いまの三咲の目標だ。
ある日、「釣り上げた人が死んでしまう魚がいる」という噂を耳にした三咲は、その真偽を調べることにする。ある川の河口で似たような怪談がいくつも発生していることがわかり、ふたりはその発生源を求めて、怪異の川をたどっていく。“本物”の怪談に近づくうち、事情を抱えるふたりの関係にも変化がおとずれて――。
選考委員の絶賛を浴びた第41回横溝正史ミステリ&ホラー大賞<大賞>受賞作。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322106000335/
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