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試し読み

<『心霊探偵八雲11 魂の代償』文庫発売記念>廃墟に現れた謎の男―――!?『心霊探偵八雲12 魂の深淵』試し読み#3

『心霊探偵八雲11 魂の代償』文庫発売記念!!
『心霊探偵八雲12 魂の深淵』全11回大ボリューム試し読み

最終巻『心霊探偵八雲12 魂の深淵』文庫発売日はいつ? 待ちきれないあなたへ!
『心霊探偵八雲11 魂の代償』で起きた事件はまだ終わっていない――。

累計700万部突破の怪物シリーズ「心霊探偵八雲」。『心霊探偵八雲11 魂の代償』(角川文庫)の発売を記念し、続きとなる『心霊探偵八雲12 魂の深淵』の増量試し読み版を11日間連続にて配信! 
一足先に続きを味わい、12巻を楽しみにお待ちください。

「心霊探偵八雲」シリーズ最終巻『心霊探偵八雲12 魂の深淵』2022年5月角川文庫より発売予定

角川文庫にて、本編の完結である『心霊探偵八雲12 魂の深淵』の刊行が、2022年5月に迫ります。
『心霊探偵八雲12 魂の深淵』と『心霊探偵八雲 COMPLETE FILES』、2022年5月に文庫版として発売です!

『心霊探偵八雲12 魂の深淵』試し読み #3

第一章  悔恨

     一

 白いワンピースを着た香菜は、大きく手を広げるようなポーズを取りながら、笑顔を浮かべる。
 次は、カメラに向かって手を振る。
 それから、両手で頬を挟み、唇を尖らせる。
 香菜が動く度に、カメラのシャッター音が連続して響く。
 笑顔を浮かべてはいるが、香菜は正直、うんざりしていた。所属していたアイドルグループを卒業し、初めてソロでの写真集を撮影することになった。
 てっきり、沖縄や、サイパンなどの南の島に行くのかと思っていたのに、連れて来られたのは、山奥にある廃墟だった。
 元が、何だったのかは分からないが、くすんだコンクリートの壁は、あちこちヒビが入っていて、清潔感がない。
 窓ガラスのほとんどは割れてしまっている上に、あちこちにガラクタが散乱している。床には埃が溜まっていて、歩く度にふわっと舞い上がる。
 おまけに、黴臭くて息が詰まる。
 話によると、この建物は、廃墟マニアには知られたスポットらしいが、こんな場所で撮影して、いい写真集が作れるとは思えない。
 清楚な雰囲気の少女が、朽ちた建物を背景に云々と、コンセプト的なものの説明は受けたが、納得できてはいない。
 とはいえ、グループを卒業したアイドルが、軒並み低迷していることを考えると、こうして単独で写真集を撮影させてもらえるだけマシかもしれない。
「いいよ。次は、くるっと一回転してみようか」
 カメラマンの木元の指示に従い、香菜は両手を広げてくるりと一回転する。ワンピースのスカートが、ふわっと揺れた。
「じゃあ、次は少し大人っぽい表情で」
 再び木元が指示を出す。
 大人っぽい表情って、いったいどんな顔のことだよ。不満が湧き上がったが、口にすれば、勘の悪い娘として扱われることが目に見えている。
 香菜は、笑顔を引っ込め、無表情に木元を見つめた。
「いいね」
 木元の喋り方が鼻に付く。
 まだ二十代らしいが、野暮ったくて、実年齢より十歳は上に見える。やたらと呑みに行こうと誘ってくるのも鬱陶しい。
「じゃあ、次は挑発してみて」
 木元が次の指示を出す。
 日常生活において、他人を挑発するようなことはないし、そうしようと思ったこともない。
 求めているのが、どんな表情なのかさっぱり分からない。
 苛立ちから、ついため息を吐いてしまった。
「おっ、いいね」
 木元が、親指を立ててみせた。
 今のは挑発ではなく、ただ呆れただけなのに、こちらの感情を全く察していない。木元は、感性が鈍いのではないのか? と思ってしまう。
 こんないい加減なカメラマンに任せていたら、ろくな写真集にならない。後でマネージャーに抗議しよう。
 ──カチカチッ。
 何かがぶつかり合うような奇妙な音が聞こえた。
 何かの機材の音かと思ったが、それらしきものは見当たらない。
「何かあった?」
 訊ねてくる木元に、「何でもないです」と答えた。
 きっと聞き間違いだろう。
 撮影に集中しようと思ったところで、香菜の足首に冷たい感触があった。
「ひゃっ!」
 香菜は、声を上げて飛び退いた。
 ヒールを履いていたせいで、危うく転びそうになったが、何とか踏み留まる。
「大丈夫?」
 木元が声をかけてくる。
「今、足に何か触った」
 そう言いながら、足許に目を向けたが、そこには何もなかった。気のせいだったのだろうか?
「大丈夫。何もいないから」
「はい」
 返事はしたものの、木元のへらへらとした笑いが癪に障った。
 考え過ぎかもしれないが、香菜のことをバカにしているように思えてしまう。
「次は、カメラに向かって誘惑してみて。おれを恋人だと思ってさ──」
 木元の指示に、虫酸が走った。
 こんなむさ苦しい男を、恋人だなんて思えるわけがない。もうちょっと、こちらの気持ちを考えた指示を出して欲しい。
 だいたい、誘惑って何?
 考えているときに、また足にひんやりとした何かが触れた。
 ビクッと身体が硬直する。
 さっきは、一瞬触れただけだった。だが、今度は、しっかりとした感触がある。
 まるで、足首を掴まれているような──。
「どうした?」
 木元がファインダーから顔を上げて訊ねてくる。
 答えようとしたが、ひゅっと喉が鳴るだけで、声が出なかった。
 足には、まだあの感触が残っている。
 勘違いではない。
 誰かが、香菜の足首を掴んでいるのだ。
 ──カチカチッ。
 さっきも聞こえた奇妙な音がした。
 今度は、音の出所が分かった。足許から聞こえてくる。
 ──何なの?
 確認しようとした香菜だったが、すぐに踏み留まった。
 ──見ちゃ駄目!
 自分に言い聞かせる。
 もし、目を向ければ、とんでもないことになる。
 そう思っていたはずなのに、意思に反して自分の首が動く。必死に抗おうとしたが駄目だった。
 瞼を閉じようとしたが、それさえもできなかった。
 香菜の視線は、足許に吸い寄せられる。
 あまりのことに、悲鳴を上げることすらできなかった。
 いつの間にか、中年の男が、香菜の足許に這いつくばっていた。
 手を伸ばし、香菜の足首を掴んでいる。
 ──何? 何? 何なのこれ?
 這いつくばっている男は、ゆっくりと顔を上げた。毛細血管が浮き上がり、赤くなった目で、ぎろりと香菜を見る。
 紫色に変色した唇が震えている。その奥で、歯がカチカチッと嫌な音を立てる。
 ──嫌だ。嫌だ。
 何とか逃げ出そうとしたが、身体が動かなかった。
 男は、そのまま香菜の足をよじ登ろうとする。
 膝から腰、そこから、さらに腹へと手を伸ばしてくる。やがて、その男の顔が、香菜の目の前まで来た。
「許してくれ……」
 男は、香菜の顔をじっと見つめたまま、懇願するように言った。
「いやぁ!」
 香菜は、叫ぶのと同時に意識を失った。

つづく
(本試し読みは『心霊探偵八雲12 魂の深淵』(四六判単行本)を底本にしました)

10/21発売!『心霊探偵八雲11 魂の代償』(角川文庫)



心霊探偵八雲11 魂の代償
著者 神永 学
定価: 880円(本体800円+税)
発売日:2021年10月21日

宿敵・七瀬美雪に晴香が拉致!?  大人気シリーズ、物語は最高潮へ!
八雲の宿敵・七瀬美雪の手により、晴香が拉致されてしまう。晴香の居場所を探す鍵は、四つの心霊現象のどこかに隠されているというのだが……タイムリミットが迫る中、八雲は重大な決断を迫られる。
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ついに完結!!『心霊探偵八雲12 魂の深淵』(角川書店)



心霊探偵八雲12 魂の深淵
著者 神永 学 イラスト 加藤 アカツキ
定価: 1,540円(本体1,400円+税)
発売日:2020年06月25日

大人気「心霊探偵八雲」シリーズ、ついに完結!!
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「心霊探偵八雲」あらすじ、シリーズ全巻はこちら!
【神永学シリーズ特設サイト】



「心霊探偵八雲」シリーズ詳細https://promo.kadokawa.co.jp/kaminagamanabu/yakumo/


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