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試し読み

<『心霊探偵八雲11 魂の代償』文庫発売記念> 晴香を救えない。悲しみに沈む真琴――。『心霊探偵八雲12 魂の深淵』試し読み#5

『心霊探偵八雲11 魂の代償』文庫発売記念!!
『心霊探偵八雲12 魂の深淵』全11回大ボリューム試し読み

最終巻『心霊探偵八雲12 魂の深淵』文庫発売日はいつ? 待ちきれないあなたへ!
『心霊探偵八雲11 魂の代償』で起きた事件はまだ終わっていない――。

累計700万部突破の怪物シリーズ「心霊探偵八雲」。『心霊探偵八雲11 魂の代償』(角川文庫)の発売を記念し、続きとなる『心霊探偵八雲12 魂の深淵』の増量試し読み版を11日間連続にて配信! 
一足先に続きを味わい、12巻を楽しみにお待ちください。

「心霊探偵八雲」シリーズ最終巻『心霊探偵八雲12 魂の深淵』2022年5月角川文庫より発売予定

角川文庫にて、本編の完結である『心霊探偵八雲12 魂の深淵』の刊行が、2022年5月に迫ります。
『心霊探偵八雲12 魂の深淵』と『心霊探偵八雲 COMPLETE FILES』、2022年5月に文庫版として発売です!

『心霊探偵八雲12 魂の深淵』試し読み #5

     三

 土方真琴は、瞼を閉じて椅子の背もたれに身体を預けた。
 疲労がどっと押し寄せてくる。
 あの事件から一週間が経とうとしている。有給を使って、少し休むことも考えはしたが、真琴はすぐに職場に復帰した。
 立ち止まっていてはいけない──そう思ったからだ。
 晴香を救えなかった。その事実は、部屋に籠もっていくら悔やんだところで、変わりようがない。
 だから、今できることをやる──。
 彼女──七瀬美雪を捕まえることが、今できる唯一のことだと信じ、独自に調査を続けている。
 ふと、胸に痛みが走った。
 調子のいいことを考えて、自分を納得させてはいるが、実際は、あの日の過ちから逃れようとしているだけなのかもしれない。
 具体的に、何をどうすれば良かったのかは分からないが、もっと自分が上手く立ち回っていれば、晴香を救えたかもしれないのだ。
 その罪悪感から逃れる為に、目を逸らしているだけに過ぎないのではないか?
 いや、実際そうなのだろう。だが、それでもいい。ただ立ち止まっているより、幾らかマシだ。
 真琴は目を開けると、パソコンのモニターに向き合った。
 そこに表示されているのは、十六年前に七瀬美雪が、自らの一家を惨殺した事件の記事だった。
 当時の新聞記事では、七瀬美雪は行方不明になっていて、犯人に連れ去られた可能性が高い──ということになっていた。
 当時、この記事を書いた記者に問い合わせてみたが、憶測を働かせたわけではなく、警察の発表をそのまま書いたということだった。
 警察は、初動の段階で、容疑者の推定を含めて、完全に捜査方針を誤ったということになる。
 このとき警察が、正しい判断をしていたとしたら、状況は大きく変わっていただろうと思うが、そのことを責めることはできない。
 事件当時、七瀬美雪は十歳だった。そんな少女が、自らの家族を滅多刺しにして殺害するなど、いったい誰が想像できるだろう。
 後に、七瀬美雪自身が、家族を殺害した理由を語っている。
 七瀬美雪の母、冬美と祖父である寛治は、愛人関係にあった。彼女は、冬美と寛治の子どもだったのだ。
 そのことを知った戸籍上の父である勝明は、まだ十歳の七瀬美雪を虐待していた。
 家の中では諍いが絶えず、その度に、父だけでなく、祖父の寛治や、母の冬美まで、七瀬美雪を罵り、ときに暴力を振るった。
 そうまでして、家族の体裁を整えなければならなかったのか──甚だ疑問だ。
 十歳の少女だった七瀬美雪には、逃げ道はなく、ただ理不尽な暴力に耐え続けるしかなかった。
 そんな彼女の唯一の味方は、祖母だった。
 ところが、事件のあった夜、精神的に崩壊し、包丁を持って錯乱した祖母を、祖父と両親で押さえ付けて殺害した。
 そんなときだけ、一致団結するなど、常軌を逸しているとしか言い様がない。
 それを目の当たりにした七瀬美雪は、残りの家族全員を殺害するに至った。おそらくではあるが、それは逃避行動あるいは、自己防衛だったのだろう。
 このままでは、自分も家族の手によって殺害されると思ったのではないかと真琴は推測している。
 問題は、その先だ──。
 七瀬美雪が、警察に確保されていれば、そこで終わった話だ。ところが、両眼の赤い男──雲海が、彼女を連れ去った。
 雲海には、件の事件の容疑者を、武田俊介になすり付けたかったという思惑があった。
 だが、本当にそれだけが目的なのだろうか?
 真琴には、もっと他の理由があったように思えてならない。
 何より引っかかるのは、事件後のことだ。
 七瀬美雪が、再び姿を現したのは、失踪してから十五年近く経ってからだ。それまでの間、彼女は完全に姿を消していた。
 彼女は、どこで何をしていたのか?
 十歳からの十五年といえば、思春期から大人へと成長する、もっとも多感な時期のはずだ。
 七瀬美雪が、空白の期間、何をしていたのかを解き明かすことが、彼女の行方を辿る一番の手掛かりになるように思えた。
 真琴の思考を遮るように、デスクの上に置いておいた携帯電話が鳴った。
 ──八雲君?
 真琴は、事件以降、幾度となく八雲の携帯電話に連絡を入れている。その折り返しの連絡かと思ったが、モニターに表示されたのは、学生時代の友人、木元の名前だった。
 木元は、今はフリーのカメラマンとして活動している。二年ほど前に行われた、サークルの同窓会で顔を会わせたのが最後だ。
 そんな木元が、どうして急に電話をしてきたのか? 怪訝に思いながらも、「土方です」と電話に出た。
〈まこっちゃん。久しぶり〉
 電話の向こうから、木元の屈託のない声が聞こえてくる。
「木元君。どうしたの。急に電話してくるなんて、珍しいね」
〈いや。実は、この前、中山に会ってさ〉
 木元が共通の友人の名前を挙げる。
 出版社に勤務する中山美佳とは、仕事の絡みもあって、月に一度くらいの頻度で顔を合わせる。
「美佳さん、変わってないでしょ?」
 面倒見がよく、姉御肌である美佳は、よき相談相手でもあったりする。
〈相変わらずだったよ。あっ、でも、今日は懐かしくて電話したわけじゃないんだ〉
「何?」
〈実は、見て欲しいものがあるんだよ〉
「見て欲しいもの?」
〈そう。中山に訊いたら、こういうのは、まこっちゃんが詳しいって言うからさ〉
 木元の声は、相変わらず明るいが、何だか嫌な予感がした。
 良からぬことが起きる予兆──。
「こういうのって?」
〈おれが、今カメラマンやってるってのは、話したっけ?〉
「うん」
〈そっか。実は、仕事で撮影した写真なんだけどさ。ちょっと妙なんだよね〉
「妙というのは?」
〈いわゆる、心霊写真ってやつなんだ〉
 いつだったか、何かの拍子に、美佳に真琴が巻き込まれた心霊現象の幾つかについて話をしたことがあった。
 どうやら、そのことで、美佳は真琴が心霊現象に詳しいと思い込んでしまったようだ。
 昔のよしみで、手助けをしてあげたいという気持ちはあるが、素直に応じられない事情もある。
 これまで、心霊事件を解決してきたのは、真琴ではなく八雲だ。その八雲と音信不通の状態が続いている。
 相談を受けたところで、真琴にできることは、ほとんどない。
「ごめん。今、色々とあって、あまり余裕がなくて……」
 やんわり断ろうとした真琴だったが、木元は〈とにかく、見るだけ見てみてよ〉と強引に話を進め、メールで問題の写真のデータを送ると告げ、電話は切られてしまった。
 ──参ったな。
 真琴がため息を吐いている間に、携帯電話に圧縮された画像データが次々と送られてきた。
 準備万端で電話をしてきたのだろう。
 真琴は、困惑しつつも画像を確認してみる。
「これは……」
 送られてきた画像は、見間違いなどではなく、どれもひと目で心霊写真だと判別できるものだった。
 あまりに鮮明に写っているので、悪戯を疑ったほどだ。
 真琴は、最後の画像を表示させたところで、はっと息を呑んだ。
 その画像だけ、他とは異なるものだった。
 それだけではない。そこには、真琴が追い求めているものが写っていた──。

つづく
(本試し読みは『心霊探偵八雲12 魂の深淵』(四六判単行本)を底本にしました)

10/21発売!『心霊探偵八雲11 魂の代償』(角川文庫)



心霊探偵八雲11 魂の代償
著者 神永 学
定価: 880円(本体800円+税)
発売日:2021年10月21日

宿敵・七瀬美雪に晴香が拉致!?  大人気シリーズ、物語は最高潮へ!
八雲の宿敵・七瀬美雪の手により、晴香が拉致されてしまう。晴香の居場所を探す鍵は、四つの心霊現象のどこかに隠されているというのだが……タイムリミットが迫る中、八雲は重大な決断を迫られる。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322106000375/
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ついに完結!!『心霊探偵八雲12 魂の深淵』(角川書店)



心霊探偵八雲12 魂の深淵
著者 神永 学 イラスト 加藤 アカツキ
定価: 1,540円(本体1,400円+税)
発売日:2020年06月25日

大人気「心霊探偵八雲」シリーズ、ついに完結!!
シリーズ累計700万部突破、16年間に渡って読者に愛されてきた「心霊探偵八雲」。そのフィナーレを飾る、待望の完結作がついに発売!!堂々たるラストを見逃すな!!
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/321911000191/
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「心霊探偵八雲」あらすじ、シリーズ全巻はこちら!
【神永学シリーズ特設サイト】



「心霊探偵八雲」シリーズ詳細https://promo.kadokawa.co.jp/kaminagamanabu/yakumo/


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