タリバンがアフガニスタンを制圧。タリバンとは? アメリカとの関係は? 池上彰がズバリ解説!
池上彰さんによる信頼の「ニュース入門」、角川新書『知らないと恥をかく世界の大問題(愛称「知ら恥」)』シリーズ。最新刊の第12弾が2021年7月9日に発売、好評発売中です。本書では、世界のさまざまなニュースをイチからわかりやすく解説しています。
今回は、今、大きなニュースとなっているアフガニスタン情勢を取り上げます。
『知らないと恥をかく世界の大問題11』特別試し読み
■アメリカ史上最も長い20年間の戦争に終止符!?
アフガニスタンの反政府勢力タリバンが、2021年8月15日、首都カブールに侵攻し大統領府を掌握しました。ベトナム戦争の最後に、アメリカが不名誉な撤退を迫られた「サイゴン陥落」を想起させる出来事でした。ここまでの流れを振り返っておきましょう。
2020年2月29日、トランプ政権は同年秋の大統領選挙を控え、アフガニスタンのタリバンとの間で「和平合意」を結びました。トランプ前大統領は2016年の大統領選挙中、「自分が当選したらアフガニスタンから軍隊を撤退させる」という公約を掲げていました。その公約を守ったというわけです。バイデン政権もこれを引き継ぎ、9.11米同時多発テロからちょうど20年を迎える2021年9月11日までにアメリカ軍の完全撤退を完了すると表明していました。しかしこの政策が、結果的にアメリカが支えてきたアフガニスタン政府を崩壊させる引き金となってしまいました。
アメリカという国は過去にスペインとの「米西戦争」でフィリピンを奪い植民地にしたり、スペインの植民地だったキューバを独立させたり、あるいはメキシコとの「米墨戦争」でメキシコの領地だったカリフォルニアやニューメキシコを奪ったり、その後も第1次世界大戦、第2次世界大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争など、さまざまな戦争をしてきました。とはいえ約20年間にも及ぶ長い戦争はアフガニスタンが初めてです。それほどタリバンに手を焼いたということでしょう。タリバンとは何か。
■そもそもはソ連のアフガニスタン侵攻だった
2001年10月、アメリカはアフガニスタンに介入することで泥沼の戦争に引きずり込まれたのですが、そもそものきっかけはソ連(ソビエト連邦)のアフガニスタン侵攻でした。
1979年12月25日、ソ連軍がアフガニスタンに侵攻します。当時ソ連は15の共和国がいっしょになってひとつの連邦国家をつくっていました。しかし「共和国」とは名ばかりで、ソ連共産党が支配する巨大な帝国でした。
当時のソ連はアフガニスタンと国境を接していました。現在アフガニスタンの北側を見るとタジキスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタンという国々がありますが、当時はそれぞれ「ウズベク共和国」などという、ソ連の一部だったのです。
ソ連は第2次世界大戦でドイツの侵略を受け2600万人以上が犠牲になったといわれています。女性も多く戦死しています。対ドイツ戦では100万人を超える女性が従軍。2015年ノーベル文学賞を受賞したスヴェトラーナ・アレクシエーヴィチの『戦争は女の顔をしていない』は、看護師としてだけでなく兵士として銃を手に戦った女性たちの告白です。
第2次世界大戦で最も多くの犠牲を出したのはソ連でした。これがトラウマとなり、国境の向こう側に緩衝地帯がないと不安で仕方がない。それはソ連が崩壊し、ロシアになったいまも続いています。
当時のアフガニスタンという国は、ソ連と敵対する国でも仲のよい国でも、どちらでもありませんでした。しかし、国王が病気療養のためにイタリアへ行っている隙を狙って国王のいとこがクーデターを起こします。その後、「クーデターをやれば政権をとれるんだ」と、次々にクーデターが起き、その動きに対して国内のイスラム勢力の活動が活発化します。結果、ソ連としては隣国の状況が心配になり、自分寄りの国をつくるため軍事介入をするようになったのです。
こうして平和なイスラム教の国だったアフガニスタンが、大変な混乱に巻き込まれていきます。ソ連は社会主義国家。宗教を否定する立場をとっています。イスラム教徒の国に無神論者が攻め込んだとなると、戦うのはイスラム教徒の義務「ジハード」です。
ソ連軍と戦うアフガニスタンの若者たちはムジャヒディン(イスラム聖戦士)と呼ばれ、アラブ諸国からも多くの義勇兵が応援にやってきて参戦します。
ここに目を付けたのがアメリカです。「アフガニスタンをソ連にとってのベトナムにしてやれ」とムジャヒディンに大量の資金と武器を与えます。ベトナム戦争中、アメリカ軍は、ソ連の支援を受けた南ベトナム民族解放戦線に手を焼き、ベトナムから追い出されています。今度はその逆をやってやろうというわけです。
1979年の翌年といえば「モスクワオリンピック」です。当時のアメリカのジミー・カーター大統領は、ソ連で行われるモスクワオリンピックをボイコットしようと世界に呼びかけました。ソ連がアフガニスタンに侵攻したからです。日本はアメリカに従いました。金メダル候補だった柔道の山下泰裕選手(東京2020大会時の日本オリンピック委員会[JOC]会長)の涙の記者会見はいまも記憶に残っています。その山下氏は2020年、東京オリンピックの1年延期決定で記者会見しました。
■「タリバン」をつくったパキスタンの罪
ソ連軍は、アメリカの軍事支援を受けて力をつけたムジャヒディンによって大きな打撃を受け、アフガニスタンからの撤退に追い込まれます。アラブ諸国から応援に来ていた若者たちは、それぞれの国へ帰って行きます。世界はアフガニスタンに関心を持たなくなりました。
アフガニスタンにはさまざまな民族がいます。多くはパシュトゥン人ですが、日本人そっくりのハザラ人(モンゴルが支配した時代の落とし子)、金髪の白人(アレクサンダー大王が遠征した時代の落とし子)もいます。タジク人、ウズベク人が入り交じり、自分たちが権力を把握しようと争い、内戦になっていきます。
今度は、そこに目をつけたのがパキスタンです。アフガニスタンにソ連軍が入ってきたとき、大勢の難民がパキスタンに逃げてきました。パキスタンにいたイスラム原理主義の集団は、難民キャンプの子どもたちのために神学校をつくり、極端なイスラム原理主義を教え込んでいました。パキスタンは、この学生たちに目をつけ、最新兵器を与えて兵士にしたのです。最新兵器は、アメリカがパキスタン経由でアフガニスタンへ送っていたもの。それを途中で抜き取って自分たちのものにしていたのです。
学生のことをアラビア語で「タリブ」と言います。この複数形が「タリバン」です。
大混乱していたアフガニスタンに、パキスタン軍の支援を受けたタリバンが武器を持って入ることで、アフガニスタンは過激派組織タリバンが支配する国になってしまいました。
■ソ連もアメリカも、自分から戦争を仕掛けておいて……
そのアフガニスタンになぜ約20年もアメリカ軍がいたのか。
2001年9月11日、オサマ・ビンラディン率いるアルカイダが、同時多発テロを起こします。このビンラディン容疑者をかくまっていたのがタリバン政権でした。
アメリカは引き渡しを要求しましたが、タリバンはこれを拒否。当時のアメリカのジョージ・W・ブッシュ大統領(息子)は「これらの行為をしたテロリストだけでなく、彼らをかくまう者たちをわれわれは区別しない」と、アフガニスタンを攻撃しました。こうしてアフガン戦争が始まります。
アメリカはアフガニスタンを支配していたタリバンを首都カブールから追い出したのですが、タリバンの残党はしぶとくアフガニスタンの山岳地帯で抵抗を続け、アメリカ軍はこの地にずっと駐留することを余儀なくされたのです。
長期にわたる戦闘は大きな負担となります。戦費は膨らみ、多くのアメリカ軍兵士の命も奪われました。
バラク・オバマ元大統領は一部を除いて完全撤退させる方針を打ち出したのですが、なかなかそれが叶いませんでした。トランプはオバマ政権のアフガン戦略を批判し、2016年の大統領選挙では、「早期撤退」を公約に掲げていました。
「撤退」といえば聞こえはいいのですが、事実上のアメリカの敗戦です。このまま延々と資金と人命を費やすのは無駄なので「アメリカがアフガニスタンを見捨てた」という見方もできます。
■中国とロシアがアフガニスタンに急接近
一方で、アフガニスタンに急接近しているのが中国とロシアです。中国の王毅外相兼国務委員はタリバンの復権を見越し、2021年7月、天津市にタリバン幹部を呼び会談しました。中国にはイスラム教徒が住む新疆ウイグル自治区があります。アフガニスタンの安定は中国にとっても重要なことなのです。また、中国の「一帯一路」構想にアフガニスタンを組み込みたいとの思惑もあるでしょう。
ロシアもタリバン指導部をモスクワでの会議にたびたび招いており、着々と関係を構築しています。中央アジアでの影響力拡大を狙っているのです。
アメリカの対テロ戦争は20年にもおよび、多くの犠牲を出して振り出しに戻ってしまいました。
今後、アフガニスタンにどのような新政府が誕生するのか。国際社会は、再びタリバンによる抑圧的なイスラム統治が行われるのではないか、とりわけ、女性の就労や教育の権利が認められるかどうかに注目しています。
本記事は、角川新書『知らないと恥をかく世界の大問題11 グローバリズムのその先』から一部抜粋・加筆修正の上作成しています。
https://www.kadokawa.co.jp/product/321910000121/
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