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試し読み

【話題作再掲】アイドルばりの美貌の少年は、女子大生二人を標的に定めた。怒濤のどんでん返しミステリー!櫛木理宇『虜囚の犬』#17

カドブンで好評をいただいている、ミステリー『虜囚の犬』。
公開期間が終了した物語冒頭を「もう一度読みたい!」、「7月9日の書籍刊行まで待てない!」という声にお応えして、集中再掲載を実施します!
※作品の感想をツイートしていただいた方に、サイン本のプレゼント企画実施中。
(応募要項は記事末尾をご覧ください)

 ◆ ◆ ◆

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      2

 自分でも驚くほど、海斗はすんなり未尋と打ちとけた。

 彼らは同類だった。ほぼ毎晩、街を夜遅くまでさまよい歩く〝行き場のない未成年〟だ。

 歳は同じく中学三年生。ただし四月生まれの未尋は満十五歳で、九月生まれの海斗はまだ十四歳である。

 しかしながら身長は海斗のほうが高い。百七十センチをとうに超えた海斗に対し、未尋はまだ百六十七・七センチだという。

「すぐに越してやるよ」

 そう言って未尋は笑った。

おやはろくでなしだったけど、元モデルでルックスだけはよかったんだ。身長なんか百九十近かった。遺伝の力って、マジでやばいんだぜ」

 だが海斗は「百九十センチの未尋って想像つかないな」と思った。

 光に透けるととびいろになびく、やわらかな髪。陶器のような肌。ゆったりと優雅な物腰と、しなやかな四肢。繊細な未尋の容姿は、まるきり少女漫画から抜けだした王子さまだった。

「海斗って金に困ってないだろ? 一目でわかったよ。おれもだもん」

 こともなげに、そんな台詞せりふを吐く。それがまた、すこしも嫌味に聞こえなかった。

 海斗は夜の街に溶けこむため、つねに目立たない服装を心がけてきた。安価量販ブランドの無地シャツとデニムに、誰もが履いているようなローカットスニーカーだ。ボディバッグも黒一色で、メーカー名が目立たないものを選んだ。

 だが未尋は違った。彼は着たいものを着て、やりたいことをやった。街から浮こうが目立とうが、気にもとめなかった。

「似合ってなかったらアウトだけどさ。似合ってんなら、誰にも文句言われるすじあいねえじゃん」

 その日の未尋は、海斗ですら女性向けと知っているヴィヴィアン・ウエストウッドのバックパックを背負い、野いちごプリントのシャツを羽織っていた。かと思えば龍のしゆう入りのスカジャンに、ワイドパンツの日もあった。

 中学生なのに、未尋はクラブに出入りしていた。意外なほど、古い映画や音楽に詳しかった。ドラッグと煙草たばこを軽蔑しながらアルコールに寛容で、

「ここのコンビニ店員、顔みだから」

 とビールやカクテル缶を顔パスで買っては、潰れたスーパーの元廃棄物置き場で海斗と乾杯した。

 たまにおかしなやからに絡まれることもあった。しかし未尋がものじせずあしらっているうち、決まって向こうが苦笑して引くか、意気投合するかだった。

「あっちは百戦錬磨だからさ。おれが金持ってるガキだって察したら、うまく合わせてくるんだよ」

 そう未尋はうそぶき、

「ま、それすらもわかんない〝馬鹿ガキ〟が相手だったら、逃げるしかないけど」

 とかたほおで笑ってみせた。皮肉っぽいその仕草と台詞は、海斗の目にことさら大人びて映った。

 三橋未尋の母は「いわゆるシングルマザー」だそうだ。

「ただしうちのは、稼げるシングルマザーな」

 美容師かつ、県内各地に美容院の支店を八店持つ経営者なのだという。実子である未尋いわく〝カットの腕は三流、商才は一流〟。

「もともとは水商売やってて、美容師は三十近くなってから目指したんだとさ。雑草魂ってやつかな。なにをしてでも生きていける、バイタリティある女だよ」

 また、未尋には種違いの弟がいるという。四歳になるつきだ。

「あいつ、泣き虫でうるせえんだ。だからベビーシッターのもりさんに任せて、その間おれは外をぶらついてるってわけ。ま、もうベビーって歳でもないけどな」

 気のない声で未尋は言った。

「歳が離れた弟妹は可愛かわいい、なんてよく聞くけど、知らねえ男との間にできた弟じゃ情の湧きようがねえよ。突然家にあらわれた、エイリアン見てる気分」

「わかるよ」

 海斗はあいづちを打った。ゆっくりと、刻みこむように言う。

「おれも、親父の後妻に対して同じ気持ちだ。いきなり出現して、わがもの顔で家に住みついた異星人だと思ってる。最近は金を出し惜しみしなくなったから、前よりはましだけど……」

「うちも、金だけはある」

 未尋はにやりとした。海斗の拳に、拳をかるく打ち当てる。

「家はくそ、学校も糞。だったらおれたちはこうして、自分で自分の居場所を探しまわるしかないじゃんか。なあ?」

「そうだ」海斗はうなずいた。

「ほんとうに、そうだ」

 心からの同意だった。

(つづく)

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https://www.kadokawa.co.jp/product/321912000319/


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