カドブンで好評をいただいている、ミステリー『虜囚の犬』。
公開期間が終了した物語冒頭を「もう一度読みたい!」、「7月9日の書籍刊行まで待てない!」という声にお応えして、集中再掲載を実施します!
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(応募要項は記事末尾をご覧ください)
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2
自分でも驚くほど、海斗はすんなり未尋と打ちとけた。
彼らは同類だった。ほぼ毎晩、街を夜遅くまでさまよい歩く〝行き場のない未成年〟だ。
歳は同じく中学三年生。ただし四月生まれの未尋は満十五歳で、九月生まれの海斗はまだ十四歳である。
しかしながら身長は海斗のほうが高い。百七十センチをとうに超えた海斗に対し、未尋はまだ百六十七・七センチだという。
「すぐに越してやるよ」
そう言って未尋は笑った。
「
だが海斗は「百九十センチの未尋って想像つかないな」と思った。
光に透けると
「海斗って金に困ってないだろ? 一目でわかったよ。おれもだもん」
こともなげに、そんな
海斗は夜の街に溶けこむため、つねに目立たない服装を心がけてきた。安価量販ブランドの無地シャツとデニムに、誰もが履いているようなローカットスニーカーだ。ボディバッグも黒一色で、メーカー名が目立たないものを選んだ。
だが未尋は違った。彼は着たいものを着て、やりたいことをやった。街から浮こうが目立とうが、気にもとめなかった。
「似合ってなかったらアウトだけどさ。似合ってんなら、誰にも文句言われるすじあいねえじゃん」
その日の未尋は、海斗ですら女性向けと知っているヴィヴィアン・ウエストウッドのバックパックを背負い、野
中学生なのに、未尋はクラブに出入りしていた。意外なほど、古い映画や音楽に詳しかった。ドラッグと
「ここのコンビニ店員、顔
とビールやカクテル缶を顔パスで買っては、潰れたスーパーの元廃棄物置き場で海斗と乾杯した。
たまにおかしな
「あっちは百戦錬磨だからさ。おれが金持ってるガキだって察したら、うまく合わせてくるんだよ」
そう未尋はうそぶき、
「ま、それすらもわかんない〝馬鹿ガキ〟が相手だったら、逃げるしかないけど」
と
三橋未尋の母は「いわゆるシングルマザー」だそうだ。
「ただしうちのは、稼げるシングルマザーな」
美容師かつ、県内各地に美容院の支店を八店持つ経営者なのだという。実子である未尋いわく〝カットの腕は三流、商才は一流〟。
「もともとは水商売やってて、美容師は三十近くなってから目指したんだとさ。雑草魂ってやつかな。なにをしてでも生きていける、バイタリティある女だよ」
また、未尋には種違いの弟がいるという。四歳になる
「あいつ、泣き虫でうるせえんだ。だからベビーシッターの
気のない声で未尋は言った。
「歳が離れた弟妹は
「わかるよ」
海斗は
「おれも、親父の後妻に対して同じ気持ちだ。いきなり出現して、わがもの顔で家に住みついた異星人だと思ってる。最近は金を出し惜しみしなくなったから、前よりはましだけど……」
「うちも、金だけはある」
未尋はにやりとした。海斗の拳に、拳をかるく打ち当てる。
「家は
「そうだ」海斗はうなずいた。
「ほんとうに、そうだ」
心からの同意だった。
(つづく)
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