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試し読み

「おかけになった謎は、私が承ります」凄腕の通信指令員が大活躍!『お電話かわりました名探偵です リダイヤル』1話試し読み!#4

空前絶後の警察ミステリ!『お電話かわりました名探偵です リダイヤル』

Z県警本部の通信指令室。その中に電話の情報のみで事件を解決に導く凄腕の指令課員がいる。千里眼を上回る洞察力ゆえにその人物は〈万里眼〉と呼ばれている――。

シリーズ1巻『お電話かわりました名探偵です』に続き、ふたたび〈万里眼〉の活躍が読める新感覚警察ミステリ『お電話かわりました名探偵です リダイヤル』が12月刊の角川文庫に登場! 
凄腕の指令課員が活躍するエンターテインメント快作の第一話を特別に公開いたします。



『お電話かわりました名探偵です リダイヤル』試し読み#4

      4

「UFOの中にいるの?」
 驚きのあまり、き返す声が裏返った。
『うん。助け、て』
 真っ先に疑ったのは、イタズラ電話の可能性だ。宇宙人にさらわれてUFOの中にいるから助けに来て。いかにも警察を困らせようとする子どもの考える設定だ。でも男の子のか細い声は苦しげで、とても演技とは思えない。
 そしてなにより、GPSだ。
 地図システム端末画面には、発信地点を示す赤い丸が表示されていない。
 本当に、UFOに……?
 そう思った瞬間、左からいぶき先輩の腕がのびてきた。白く細い人差し指が、僕の指令台の『三者』ボタンを押下する。
 どうやら今回の通報は、魅力的な謎を求める先輩のお眼鏡にかなったらしい。
「お電話かわりました。Z県警通信指令課の君野です」
 しばしの沈黙から、突然会話に割り込んできた幼い声への戸惑いが伝わってくる。
『ヒマリ……?』
「ヒマリというのはお友達の名前?」
 先輩の質問で、男の子は人違いに気づいたらしい。
『うん。同じマンションの……ケンちゃんの妹』
「私はヒマリちゃんじゃなくて、いぶき」
『いぶき』
「そう。いぶき。警察官なの」
『そうなんだ。じゃあ……ヒマリよりずっとお姉ちゃんだ』
「きみの名前は?」
『ユウマ。タケダユウマ』
「ユウマくんね。わかった。何年生?」
『一年生』
「ってことは、六歳か七歳」とつぶやいたのは、和田さんだった。和田さんはディスプレイの向こうからこちらに身を乗り出すようにしながら、僕の事案端末を見つめている。そこには僕がタッチペンでメモした情報が書かれていた。
 いぶき先輩はヘッドセットの耳当て部分を手で押さえ、ユウマくんに語りかける。
「ユウマくん。いまUFOの中にいるの?」
 返事がない。しばらく待ってから、いぶき先輩はもう一度呼びかけた。
「ユウマくん?」
『ああ』と寝ぼけたような声が返ってくる。発声もはっきりせずに言葉が聞き取りづらいし、大丈夫だろうか。
「いまUFOの中にいるの?」
『うん。助けて』
「助ける」と先輩は即答した。
「そのためにいろいろ教えて。UFOの中の様子は?」
『暗いんだけど……青とか、赤とかのライトが光ってる。僕はふわふわ浮かんでいるけど、思うように動けない』
 ふわふわ浮かんでいる?
 無重力状態ということか。
 本当に宇宙に?
 顔を上げた僕に、和田さんがさすがにそれはないだろうという感じで肩をすくめる。
そうだよな。UFOにさらわれたなんて、あるわけがない。
「UFOにさらわれたときのことは覚えてる?」
 いぶき先輩は奇妙な証言に疑いを挟むことなく、淡々と聴取を続ける。
『覚えていない』
「気づいたらUFOの中にいた?」
 おそらくうなずいたのであろうかすかなきぬれに続いて、ユウマくんの声が聞こえた。
『ケンちゃんと、タクトと、ヒマリと一緒に遊んでたんだ』
「そして気づいたら、UFOの中だった」
『うん』耳を澄ましてようやく聞き取れる程度の音量だった。
 いぶき先輩があごに手をあて、一点を見つめる。
 やがて口を開いた。
「お友達と一緒にかくれんぼしてた?」
 しばらく記憶を辿たどるような沈黙があった。
『……してた』
 僕は思わず息をんだ。和田さんも感心した様子で唇の片端を持ち上げている。
「ユウマくん。すぐに助けに向かうから、ユウマくんの住所を教えてくれる?」
 反応はない。無機質なモーター音だけが響き続けている。
「ユウマくん?」
 もう一度いぶき先輩に呼びかけられ、声が戻ってきた。
『はい』
 ろれつが怪しい。懸命に意識を保っているといった雰囲気だ。
「住所を教えて」
 いぶき先輩も危険だと感じているのか、質問する口調がいつもより強い。
『E市……』
 E市は県庁所在地であるうちの市と隣接する市だ。
 だがその先が続かない。
『E市……E市……』ユウマくんは何度も同じ言葉を繰り返している。
「ユウマくん。しっかりして。がんばって。E市のどこなの」
『E市、い……』
 それを最後に、ユウマくんの声は聞こえなくなってしまった。
「ユウマくん! ユウマくん!」
 いぶき先輩の呼びかけもむなしく、通話が切れた。
「これって、もしかしてちょっとヤバい状況?」
 和田さんが引きつった顔で首をかしげる。
「いや。でも、UFOにさらわれたなんてありえないし、イタズラ電話っていう可能性も――」
 僕はできる限りの楽観的な解釈を披露したのだが、「違う」といぶき先輩に否定された。
「これはイタズラなんかじゃない。早く助けに行ってあげないと、ユウマくんの命が危ない」
「ってことは、本当にUFOに?」
 僕の言葉を、和田さんが即座に否定する。
「いくらなんでもそりゃないよ」
「でも背景に飛行機みたいなモーター音が聞こえていたし、無重力状態だと言ってたし、なによりGPSの信号が拾えない」
「無重力だとは言っていません。ユウマくんは、ふわふわ浮かんでいると言っていま
した」
 いぶき先輩に訂正された。たしかにその通りだけど、「ふわふわ浮かんでいる」のは無重力ってことじゃないのか?
「いぶきちゃん、どうする。かけ直してみるか」
 和田さんが言う。発信地を特定することはできなかったが、着信履歴は残っている。こちらからかけ直すことはできる。
 けれどいぶき先輩は顔を横に振った。
「たぶんつながりません。おそらくスマホの電池が切れているし、ユウマくんは意識を失っています」
 彼女は唇を軽く曲げ、しばらく考えているようだった。情けないけど、なにがどうなっているのかまったく見当がつかない。僕にできることと言えば、先輩の推理を邪魔しないよう、押し黙っているぐらいだ。
 やがてなにかを思いついたのか、彼女は顔を上げた。
「ユウマくんの居所を突き止めるために、協力してもらえますか」
 断る選択肢など、もちろんなかった。

(つづく)

作品紹介・あらすじ



お電話かわりました名探偵です リダイヤル
著者 佐藤 青南
定価: 748円(本体680円+税)
発売日:2021年12月21日

「おかけになった謎は、私が承ります」
「<万里眼>を出せ」。Z県警通信指令室に頻繁にかかってくるようになった<出せ出せ男>からの入電。身元を特定する手がかりはまったくない。気味の悪さを感じつつ、今日も市民からの通報に対応していた早乙女廉は、男の子から『宇宙人にさらわれた』という一報を受ける。信じがたい内容に動揺していると、ほかならぬ<万里眼>その人、君野いぶきがいつものように割り込んできて――。電話越しに事件解決、空前絶後の警察ミステリ!
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322104000286/
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