傷つくことの痛みと青春の残酷さを描いた『青くて痛くて脆い』がついに映画化!
主演に吉沢亮×杉咲花を迎え、8月28日(金)から全国で公開されます。
大学1年の春、秋好寿乃と出会い、二人で秘密結社「モアイ」を作った田端楓。
しかしそれから3年、あのとき夢を語り合った秋好はもういなくて――
冒頭47ページを映画公開に先駆けてお届けしていきます!
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「いや、なんで?」
「何が?」
「……いや、ちょっと考え事してた」
分からないまま、気がつけば、いつの間にか、秋好と出会ってから二ヶ月が過ぎていた。月曜日の四限、習慣のように遅めの昼食を一緒に取っていて僕は我に返った。
あちらから寄ってくる人間を力ずくで突き放す、そんなことが自分のせいでできないままに、僕はまだ秋好と話す間柄にあった。
いつかも食べていた気がする白身魚フライを持ち上げかけ、もう一度皿の上に戻す。
「あのさ、できたら授業で注目浴びるの、いいかげん控えてほしいんだけど」
「あのね、田端くん。いつも言ってるけど、注目浴びたいわけじゃない。私はきちんと正しいことを知っておきたいの」
「結果的に目立ってるから」
ただ、彼女の話し相手を続けてきて、一応、そのこと以外に特別な害はないということが分かってはきていた。
「それにね、先生の講義内容とは違う意見を持つ学生がいることをきちんと知ってもらうのは授業全体にとってもいいことだと思う。私さっきの授業でも思ったんだけど、理想論ってさ、理想ってことじゃん。理想ってことは一番そこを目指すべきだってことでしょ、それを鼻で笑うみたいにして理想論って。戦争の裏の平和じゃなくて、平和の裏にだって平和があった方がいいに決まってるよね。私はそう思う」
確かに害は、ないんだけれど、友達にするには随分と面倒な奴なのは間違いなかった。
僕は意見を拒否する意味も込め、改めて白身魚フライを持ち上げかじる。
ここで意見なんかして、秋好の心にひっかかることを言ってしまえば、彼女はお互いが納得のいくまで議論をしようとする。それは秋好が相手を打ち負かそうとするからではない。自分とは違う意見を持った相手の心中を知り、自らの意見をブラッシュアップしたいと考えているからだ。そういうところが本当に面倒くさい。その面倒くささによって、秋好は周囲からあからさまに敬遠されている。
「理想をさ、追えるとこまで追っていくべきだよ」
僕はいつものように彼女の真っすぐすぎる大きな目を向けられて黙ってしまい、それを
考えてみれば、ここまでの二ヶ月、僕が秋好を切り捨てることのできない理由が、その目にあった。
まがりなりにも、彼女と週に何度か会う仲をやってきて、彼女の面倒くささの中に僕は一つの純粋さを見つけてしまっていたのだった。
痛いし青くさくて見てられない、自分の信じる理想を努力や信じる力で
だから秋好との関係をこの時点で切るとしたら、彼女から嫌われる以外になかったのだけれど、いつあちらから関係を切られても良いという考えは僕を他の人と関わる時より少しだけ自由にさせた。秋好は、そんな僕を嫌がるどころか受け入れた。結果、二ヶ月にして、僕までひそひそと周りから何かを囁かれるようになった。
決して、望んだ大学生活ではなかった。
「そういえば、国際関係研究会はどうなったの?」
「んー、見学に行ってみたんだけどちょっと空気が合わないかなって」
秋好はなんでもないことだというのを装って笑った。バレバレだった。
きっと、すでに秋好を嫌いという
「次またどこか見に行くの?」
「んーま、三年生になったら演習も増えるし、二年までは自己学習を深めていくっていうのもありかなと思うけどねー」
そう言ったものの秋好の顔が多少残念そうであったものだから。
「どうしてもやりたかったら自分で作ったらいいかもね」
冗談のつもりで僕が言ってあげた気休めに、ハンバーグを口に入れた秋好は声をあげた。
「んー!」
「……何?」
「そうか、作れるんだ!」
秋好は口の中のものを飲み込み、例の目で僕を見つめた。まずいことを言ったのは、分かった。
「団体。そっか自分で作れるのか。どうして今まで気がつかなかったんだろ」
手書きのメモ帳を取り出して、彼女は何かを走り書いた。
「受け入れてくれるのを待つだけなんて、もったいない。自分が好きなような雰囲気の場所を作ればよかったんだ。なんで気づかなかったんだろ、ありがとうアドバイスくれてっ!」
彼女は高揚でだろう、頰を赤らめる。