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試し読み

調査を終えたわたしが気づいたこと。それは――。【逸木 裕『五つの季節に探偵は』より「イミテーション・ガールズ」試し読み#9】

日本推理作家協会賞〈短編部門〉候補作。
探偵の真似事に興じる女子高校生がたどり着く、衝撃の真実とは。

虹を待つ彼女』で横溝賞を受賞し、青春小説の気鋭として注目を集める逸木裕。
最新作『五つの季節に探偵は』は、“人の本性を暴かずにはいられない”探偵が出会った5つの謎を描く、精緻なミステリ連作短編集です。
それぞれに年代のことなる、バラエティーに富んだ5つの短編から、1編目にあたる「イミテーション・ガールズ」を全文公開します。日本推理作家協会賞〈短編部門〉候補作にもなったミステリ短編をお楽しみください。



逸木 裕『五つの季節に探偵は』収録短編
「イミテーション・ガールズ」試し読み#9

       6

 わたしはリビングのソファに座り、デジカメのモニターを眺めていた。ボタンを押すごとに、写真が次々と入れ替わる。それを、ぼんやりと見つめている。
 調査が終わってから、一週間が経つ。
 あのとき、もうひとつ、判らないことがあった。
 好美がなぜ、清田先生と付き合っていたかだ。
〈好きなわけないだろ、あんなオッサン〉
 好美は先生に真剣に恋をしているわけではなさそうだった。試験問題を盗むのに本気なのかとも思ったが、カンニングの話に対してはピンときていなかった。ならなぜ、好美は先生とホテルに行っていたのか。
 理由は簡単だった。清田先生は、わたしたちと同じことをしていたのだ。
〈好美がカンニングの相談をしにきたことがあるって、言ったよね。あの子がああいうことを言うのは意外だったけど、理由が判ったよ。好美は、清田先生に弱みを握られてたんだ〉
〈弱み……?〉
〈そう。さっき好美に電話して問い詰めたら、泣きながら教えてくれた。一回好奇心で清田先生とデートしたときに、酔わされて裸の写真を撮られたんだって。好美はそれから、清田先生に脅されて無理やり身体の関係を結ばされてた。好美はカンニングがしたかったわけじゃなかった。そのときの写真を、なんとかして取り返そうとしてたんだよ〉
 そう告げたときの、怜の表情を思いだす。そこには、好美がひどい目にあっていることへのあざけりなどはなかった。昔の友人を思いやる、痛みをこらえるような表情があった。
〈わたしたちはたくさん調査をしたよね。清田先生の相手の写真も、一杯手に入れた。中には、好美と同じ境遇の子もいると思う。怜、この子たちをまとめてみない?〉
〈まとめる? 私が、なんでそんなことを……〉
〈ひとりでは立ち向かうのが大変でも、何人かが集まれば大きな力になる。好美を助けてあげれば、怜の問題も解決する。わたしを嵌めようとしてたくらいだもの。本当はまた好美と、仲よくやっていきたいんでしょ?〉
 わたしの提案に、怜は迷いを見せていた。でも、最終的にどういう選択をするかは、判っていた。怜と好美が図書室の隅で、真面目な顔をして話しているのを見たのは、今日のことだ。〈清田のことを好美の前でかっこいいって褒めたのが、あの子の怒りを買った原因だったみたい〉。怜が安心した様子で報告をしてくれた。
 そしてわたしは、日常に戻った。
 デジカメの写真を切り替えるごとに、調査の断片が次々と現れる。なんだか、夢を見ていたようだ。沸騰するようだった非現実は、あっという間にいつもの日常にみ込まれてしまった。
 モニターに、学校の前でフラッシュを焚かれ、驚いている怜の写真が映った。こんな人間の表情は、普通に生きているだけでは見ることができないだろう。
 ぞくぞくする。普段この世界から隠されている生の人間が、写真の中にいた。
「みどり。何を見てるんだ?」
 反対側のソファには、父がいた。ウィスキーのロックグラスを手にして、だらしなく寝そべっている。二十時過ぎ。父とこんな時間に家で会うのは珍しい。わたしはじっと、父の顔を見つめた。
「どうした、そんな目で見て。いい男だと気づいたか?」
 冗談を言いながらも、目の奥の奥がリラックスしていない。家にいて娘と話しているときも、髪の毛一本分の緊張感を保っている。
 探偵の目だ、とわたしは思った。
〈みどりは、偽物じゃないよね〉
 怜の声が浮かんだ。
 わたしも怜も、偽物だった。怜は本気で放火するつもりはなかったし、清田先生を脅すつもりもなかった。わたしも本心から、怜を助けたいわけではなかった。あれは偽物同士の、偽物の調査だった。
 でも。
 あの調査は、楽しかった。その気持ちだけは、本物だ。
「父さん」
 わたしにも見つけられるだろうか。わたしの、わたしだけの、熱中を。
「その……。何か、手伝えることは、ないかな?」

「イミテーション・ガールズ」 了
(他の短編は書籍でお楽しみください)

作品紹介・あらすじ



五つの季節に探偵は
著者 逸木 裕
定価: 1,760円(本体1,600円+税)
発売日:2022年01月28日

“人の本性を暴かずにはいられない”探偵が出会った、魅惑的な5つの謎。
人の心の奥底を覗き見たい。暴かずにはいられない。わたしは、そんな厄介な性質を抱えている。

高校二年生の榊原みどりは、同級生から「担任の弱みを握ってほしい」と依頼される。担任を尾行したみどりはやがて、隠された“人の本性”を見ることに喜びを覚え――。(「イミテーション・ガールズ」)
探偵事務所に就職したみどりは、旅先である女性から〈指揮者〉と〈ピアノ売り〉の逸話を聞かされる。そこに贖罪の意識を感じ取ったみどりは、彼女の話に含まれた秘密に気づいてしまい――。(「スケーターズ・ワルツ」)

精緻なミステリ×重厚な人間ドラマ。じんわりほろ苦い連作短編集。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322011000440/
amazonページはこちら

『五つの季節に探偵は』&『星空の16進数』。2作刊行記念、逸木裕インタビュー



「世間など関係なく、自分のルールに従って生きる人間が最強だと思います」ミステリ界の新鋭・逸木裕が描く、強烈な個性を持つヒロインたち
https://kadobun.jp/feature/interview/6iv8blin100s.html

『五つの季節に探偵は』レビュー



秘密を暴かずにいられない探偵の物語――逸木 裕『五つの季節に探偵は』レビュー【評者:千街晶之】
https://kadobun.jp/reviews/entry-45177.html


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