初恋ロスタイム -First Time-
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【板垣瑞生、吉柳咲良、竹内涼真ら出演】映画公開直前・原作小説試し読み『初恋ロスタイム -First Time-』第1回
9月20日(金)ロードショー、映画『初恋ロスタイム』。
映画の公開を記念して、原作小説の冒頭約70ページを7日連続で大公開!
時が止まった世界で、最初で最後の恋をした――。
ロスタイムの秘密が明らかになったとき、奇跡が起こる。
* * *
〝バラのつぼみは摘めるうちに摘め
時はたえず流れ、今日ほほえむ花も明日には
──ロバート・ヘリック
人は生まれながらにして不平等である。
才能、容姿、性格、家庭
考えてもみなさい。諸君らが高校生でいられる時間は、あと二年と三ヶ月しかない。たったそれだけしかないのだ! なのにその貴重な時間を、居眠りなどで浪費してしまって本当にいいのか! もったいないとは思わないのか──!
黒板を強く
教室内のダラけきった空気が目に余ったのだろう。ついに授業を中断して、本格的に説教を始めてしまった。
先生の
いや、生理学的な見地から言えば、昼食後に
とはいえ、もちろん僕は、無駄な反論などしないが。
「──いいか。人生とは一分一秒の積み重ねだ。いまこの
そこでぷつり。
やたら熱の
どうしたのだろう。あまりに不自然な打ち切り方だった。たとえるなら、携帯電話で話しているときに、電波不良でいきなり回線が落ちたかのような……。
不思議に思って顔を上げようとしたが──あれ?
何故だか体が、全然動かない。
おかしい。異常事態だ。まるで意識と肉体のリンクが絶たれてしまったかのように、指一本動かせなくなっていた。
眼球の向きだけはかろうじて変えられるのだが、声は出せなかった。これはまさか、俗に言う
初めての感覚に僕は戸惑い、
考えれば考えるほど、胸に不安が
いよいよ必死になって、体の内側でもがき続けていると、
「ぐっ!」
その直後、ふと冷静になる。
もしや僕は、ただ寝ぼけていただけなのでは?
金縛りにかかった夢を見ていたのだとすると、いまこの背中には、教師の冷ややかな視線と、クラスメイトの
幸いにと言うべきか、残念ながらと言うべきか。教室内の人間は、僕に全く関心がない様子だった。
いや、人だけではない。黒板の上に掛けられた時計すら、午後一時三五分を指したまま微動だにしていない。
もはや疑いようもなかった。
まるで卒業アルバムに
「……おーい、
声を震わせながら、隣席の友人の肩を叩いてみた。
「…………」
返答はなかった。
「佐々木、聞こえてるか? おい佐々木っ!」
体全体を強く揺すってみても駄目だった。手に感じるブレザーの質感が、明らかにいつもと異なっている。コンクリートのように硬くて冷たいのだ。本当に凍結しているのかもしれない。
「──高町先生」
続いて教壇へと僕は呼びかけた。
「……あのう、ご存じですか? 先生は裏では、〝教科書音読機〟と呼ばれています。先生の授業は教科書の内容をなぞっているだけで、死ぬほど退屈だって評判ですよ。あと説教のバリエーションも少ないので、みんなうんざりしてます」
平常時なら
他に試せることはないだろうか。
窓からグラウンドを見下ろすと、ソフトボールの試合中の生徒たちが
「……ちょっと外に出てきます」
一言ことわって、教室後部の出入り口へと向かった。
その引き戸もやはり凍ったように固まっていたが、思いきり引っ張るとわずかに動かせるようになった。どうにか廊下へ出られそうだ。
「よっ」
体を斜めにして戸の間をすり抜け、意気揚々と教室外へ繰り出した僕は、止まった世界の中を観察して回ることにした。
好奇心に突き動かされるように、学校の
風は吹かず、雲は流れず、太陽だけは変わらず
それでも最初は楽しかった。授業中に出歩いても
けれど、歩き疲れて足を止めると、すぐさま心細くなった。
聴覚が
いつもなら雑音と
どうしよう。このまま時間停止の
不安から階段に座り込み、冷えきった
「──過ごさなければ、諸君らは近い将来、必ず後悔することになる!」
不意に高町先生の声が、
いつの間にか僕は、自分の席に
止まっていた時間も、何事もなかったかのように動き出しているようだ。胸の中にじんわりと
いやはや、不思議なこともあるものだ。
一体全体、あの体験は何だったのだろうか。白昼夢にしてはリアルすぎた気がするが、現実とも思えない。何故かというと、僕が開けたはずの教室の戸が、いまは元通りに閉まっているからだ。
おかしいのは世界か、僕の頭の方か、それすらわからなくなった。
結局その日は授業どころではなく、下校時間まで
しかし、驚くなかれ。
なんとそれから毎日、全く同じ時刻に、時間は止まるようになったのだ。
原理なんてもちろんわからない。ただ純然たる事実として、午後一時三五分になれば全ての時計はぴたりと針を止める。
平日も休日も関係ない。晴れの日も雨の日も同じだ。静止した世界の中で動けるのは僕一人というのも毎回同じだった。
やがてその現象に慣れてくると、持ち前の知的探求心がうずきはじめた。
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映画「初恋ロスタイム」
2019 年 9 月 20 日(金)公開
出演:板垣端生 吉柳咲良 石橋杏奈 甲本雅裕 竹内涼真
主題歌:緑黄色社会「想い人」
監督:河合勇人
脚本:桑村さや香
https://hatsukoi.jp/
©2019「初恋ロスタイム」製作委員会