元「ベイビーレイズJAPAN」の渡邊璃生さん初の小説集『愛の言い換え』が5月2日に発売になりました! その中から選りすぐりの傑作書き下ろし3篇を30日間連続で全文特別公開します。
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コンビニエンスストア・「ファミワ」。昨夜、冷凍炒飯で失敗した経験から、新は買い物カゴに冷凍ピラフを入れた。
ふと蒼介からのメッセージを確認するためスマートフォンを開くと、ロック画面に通知が数件溜まっていた。
「(あ、通知音切ったままだった。)」
内容を確認すると、タブには「すみません。」、「シャンプー買うの忘れてました。」という蒼介からのメッセージが表示されていた。
思わずため息をつく新。アプリを起動し、返信文を打った。
「なにしてたんだよ。」
すぐに既読がつき返信が届く。内容を目にし、新は肩を落とした。
「いろいろです。」
「いろいろ?」
「とにかく忘れてた。ごめん。」
「いいよ、買ってくから。」
「すみません。」
蒼介からスタンプが届く。大きな目玉がついたみかんが笑顔で土下座していた。「キモ。」とだけ返し、生活用品コーナーへ移動する。コンビニエンスストアに陳列されたシャンプーは、新の髪質に合わないものが多い。商品と睨めっこし、白と黒のパッケージを手にし、ピラフの上に重ねる。吐き気を堪えながら会計を終え、足早にコンビニエンスストアを出た。
今日も自宅に鍵はかかっていない。怒る気力もないのか唇を尖らせ、彼は玄関に入った。目の前には土下座をした蒼介。
「ほんっとすみません。」
「(無駄に綺麗な姿勢だなあ。踏んでやろうか、本当に。)お前なあ。『やれ』って言って、『はい』って言っただろ。」
「うん……。」
「もう買ったからいいけどさ。ほら、ボトルに入れてこい。」
「はい。」
新はシャンプーを蒼介に押し付け、キッチンへ向かった。ピラフを皿に空ける。袋を捨てるためゴミ箱を開くと、そこには炒飯の袋があった。ご飯だけはしっかりと食べているようだ。上にピラフの袋を落とし、蓋を閉じた。
すると、ボトルの詰め替えが完了したのか蒼介が風呂場から出て、電子レンジの稼働音にかぶせるように声をかけた。
「あ、聞いてよ、新ちゃん。『レインコート男』、見つからなかったよ。」
「は? もしかしてそれ探しててシャンプー忘れてたのか? ばーか。」
「だって心配だったからさあ。」
会話を遮るように電子レンジが「チン、」と鳴る。一旦話を切り上げ、新はピラフとスプーンを手にテーブルについた。「いただきます、」と手を合わせ、会話を再開する。
「大体、『レインコート男』って夜に出るらしいじゃん。昼に探しても意味ないんじゃねえの。」
「でもなにか痕跡があるかもだし。」
「探偵気取りかよ。」
ピラフを口にかきこむと、昨夜からチャンネルが変わっていなかったらしい。件のニュース番組が流れた。内容は引き続き台風と対策について、日高心菜とキャスターが話している。明日、明後日は雨らしい。
(つづく)
▼渡邊璃生『愛の言い換え』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
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