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試し読み

「あなたは決してひとりじゃない」いじめでつらい思いをした人たちへ。世界中のサバイバーが贈る、温かい言葉たち 『FACES いじめをこえて』特別試し読み#2

「いじめは100%あなたのせいじゃない。あなたは悪くない」――勇気を出して語ることで、誰かの役にたてるのなら……と世界中から届いた声。NHKと海外の放送機関が連携し、いじめのつらい体験から自分らしく生きていけるようになったきっかけを語る2分の動画サイトの書籍化です。
日本、台湾、クロアチア、ブラジル、クロアチア、ドイツ、ボスニアヘルツェゴビナなど、20名の体験談を収録。小説家の吉本ばななさんやジャングルポケットの斉藤慎二さん、「不登校新聞」編集長の石井志昂さんなど、様々な方に推薦をいただいています。
カドブンでは、特別試し読み第一話TAKAHIROさんの体験談をご紹介しました。第二話は台湾、エイミーさんの体験談をご紹介いたします。

『FACES いじめをこえて』特別試し読み#1
→書籍詳細・購入はこちら

AMYエイミー

“他人に何が美しいのか決めさせるな” その一言で、私は“私”を取り戻した



エイミー
AMY台湾

LGBT団体職員


“他人に何が美しいのか決めさせるな”
その一言で、私は“私”を取り戻した


 小さい頃からずっと太っていた私は、いつも〝デブ〟って言われてきた。男子の傍を通ると、いつも体型をからかわれた。デブ呼ばわりして、空き缶を投げつけてきた。けれど出来るだけ、否定的な言葉を気にしないようにして、日々の生活で彼らから遠ざかるようにしていた。
 どうやって、いじめに対処すれば良いのかなんて、誰も教えてくれなかった。大人はいじめられている子どもに、〝くよくよするな、おおに考えるな〟とよく言うけれど、私にとって同級生とまったく関係しないことは難しかった。だから映画や本に没頭して、社会の不公平と、どう折り合いをつけるか見つけようとした。私に優しくしてくれる子と友だちになることを学んだ。成果は悪くなかったわ。さらに自分を守る方法として、ユーモラスであろうとした。愉快な人間になれば、みんなが私の太った体型のことなんか忘れて、いじめなくなると期待していた。

 職場でも偏見があって苦しかった。学校だけじゃないの。それが〝太った人間〟への世間一般の見方なの。一度、顧客に、「こんなに太っているのに雇ってもらって、あなたは上司に感謝すべきだ」と、みんなの前で言われたことがあった。腹が立って、悲しかった。でも私は何も言い返せずに、笑うことしかできなかったの。クライアントだったから、ということだけでなく、彼の言ったことは、多分正しいと思ったから。なぜなら私のそれまでの人生は、彼が言うとおりのものだったから。他の人と違う人間が、多様性(ダイバーシティ)を欠く社会で生きていくのはとても難しいって感じた。だからその会社を辞めた後、友だちから言われたひと言には衝撃を受けた。



〝他人に何が美しいのか決めさせるな〟

 その言葉を言われたのは、LGBTのホットラインでボランティアとして働いていた頃でした。17歳のとき、自分がレズビアンだと気付いた私は、LGBTのコミュニティで何かできないかとずっと考えていたの。多様性という考え方を大事にする仲間たちは、私にこう言ってくれたわ。〝あなたはキレイよ〟〝今日は可愛いね〟って。社会の他の場所で受けてきた経験とはまるきり違っていた。この社会におけるマジョリティとは違う人間として、私はあざわらわれ、いじめられてきた。だからその人たちの言うことが最初は信じられなかったの。〝どうせ噓よ。私に服でも買ってもらいたいのかな〟って。
 再び仲間のひとりから、同じように褒められたとき、私はこう伝えた。〝自分は、そんな褒め言葉を言われるのに値しない。これまでずっとみんなから、この体型を嘲笑われてきたんだから〟って。すると彼女が言ったんです。〝他人に何が美しいのか決めさせるな〟と。
 そんな風に考えたことは、それまでなかった。私はその言葉をはんすうするようになりました。そしてなぜ、私は自分を支えてくれる言葉ではなく、知らない人の否定的な言葉を気にするんだろうと自問するようになった。なぜ他人の美の基準に縛られて、〝私は美しい〟と言えないの? って。
 けれど〝自分であること〟は難しい。特にかんぺきであるように、と、社会が私たちに求めるときは。自分がどんな人間なのか気付いてからもう20年になるけれど、今でも自分のイメージと自分が合うように、つまり本来の自分でいるために〝頑張る〟必要がある。自分が自分であるために確固とした勇気を持つのは難しい。だからその勇気を持ち続けられるよう、今もずっと頑張っている。
〝自分が間違えていないと知ること〟は重要な考えよ。以前は、人と違うことが間違っているかのように、私自身、いじめを我慢するべきだと考えていた。でもそれは絶対に違う。誰もがそれぞれ違うし、他の人と違うことが間違っているわけではないのだから。



すごくつらい、大変な人生
それでも苦しむ価値はある

 4年間のボランティアを経た後、今、私はLGBT団体職員として働いています。経験上、他の人と違う人間であることが、どんなに困難か私は知っている。ゆえに、多くの人が助けを求めてくると、すぐに感じ取ることができる、その人の状況と抱えている問題を理解することができる。友だちが私にしてくれたように、必要なときに、その人に寄り添って助けることができる。私は今、女性が身体的な面で前向きになれるような取り組みをしています。女性の性教育を社会で可視化できるようにしていきたい、そして女性の性につきまとう悪いイメージを減らしたいのです。
〝人生をやり直せたら、同じ体型で、同じ人生を選ぶ?〟。これまで、何度もそうかれたわ。私は同じ人生を選ぶ。それが私を助けてくれたから。太りすぎている身体のおかげで、たくさんの宝をもらえた。もし太っていなかったら、社会で太った人が不公平に扱われていることを永遠に知ることはなかったでしょう。まったく知らない人からだって、太っているというだけで馬鹿にされ、傷つけられることを。そして、そうした不愉快な出来事を経験しなければ、心の底から私を受け入れてくれる人の純粋な優しさに触れることもなかったでしょう。その人たちは、私が何かをしたからではなく、〝私が私であるから〟公平に接してくれたのです。そうした純粋な優しさと出会えたことは、自分の人生にとってものすごく貴重なことだった。



 今、子どもの頃の自分に会えたらこう伝えたい。〝大変な人生になる。すごくつらい。それでも苦しむ価値はある。本当よ〟って。子どものときは、自分に寄り添ってくれる人に出会うまではとても大変。あなたが弱いと、意地悪く見られたり、からかわれたり、困難な試練が続くでしょう。けれどラッキーだったら、〝あなたは間違っていない〟と言ってくれる人と出会うことができる。その人たちは、あなたのことを信じ、力をくれ、あなたは強くなって自分の足で立つことができるようになる。差別されることが、どんな気持ちなのかわかるから、あなたは他の人に優しく接することができる。すべての人が公平に扱われるわけではないと知っているから、世界をより良くするためにベストを尽くすことができる。そうした経験をできることは、とても価値があること。お金には換えられないほど価値のあることなのよって。
 それはかつての私と今、同じ苦しみのなかにある、〝あなた〟にも伝えたいこと。あなたを嫌う人もいるでしょう、けれどあなたを愛してくれる人もいる。あなたを愛する人の近くにいて。傷ついたら、あなたを愛する人と一緒にひと休みして。人生は簡単じゃないけれど、まずあなた自身を守って。そして自分自身を傷つけ過ぎないで。
 ひとつ覚えておいて。あなたは間違っていない。自分自身を好きになるのが簡単じゃないのはわかっている。でも好きになるように練習してください。あなたはひとりじゃない。なぜなら私がいるし、多くの人もあなたの味方でいるのよ。

『FACES いじめをこえて』特別試し読み#1



『FACES いじめをこえて』
著者 NHK「FACES」プロジェクト
定価: 1,320円(本体1,200円+税)
発売日:2021年01月29日
https://www.kadokawa.co.jp/product/322002000957/


「ダ・ヴィンチ」「ヨメルバ」でも『FACES いじめをこえて』関連記事を公開中です!

◆ダ・ヴィンチニュースにて、『FACES いじめをこえて』紹介記事
https://ddnavi.com/review/728405/a/

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