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試し読み

【新連載試し読み】今野敏『呪護』

1月11日発売の「小説 野性時代」2018年2月号では、今野敏『呪護じゅご』の新連載がスタート!
カドブンではこの試し読みを公開いたします。

高校生が刃傷沙汰にんじょうざたを起こした。
捜査する富野と有沢の前に、姿を現したのは……。
事件の背後に潜む謎を追う!

「鬼龍光一」シリーズ待望の新章スタート!

 係長から、「刃物による傷害事件だから行ってくれ」と言われたが、富野輝彦とみのてるひこは特に驚きもしなかった。
 少年が被疑者だという。富野は少年課なので担当するのは当然のことだった。正確に言うと、警視庁生活安全部少年事件課少年事件第三係だ。
 警視庁も役所なので、部署名はまどろっこしい。
 富野は有沢英行ありさわひでゆきに言った。
「行くぞ。現場はわかってるな?」
「はい。神田錦町かんだにしきちょうの神田学園高校ですね」
 有沢は三十歳の巡査長だ。今時の三十歳はまだまだ若造だが、巡査部長になっていてもおかしくはない。
 有沢はばかではない。時折、小賢しいと思ってしまうくらい頭が回る。巡査部長の昇級試験などすぐにパスするのではないかと思うのだが、いまだに試験を受けた様子がない。欲がないのかもしれない。
 あるいは、昇級ではなく別なことに関心があるのかもしれない。今時の若者の気持ちはわからないと、富野は思う。
 ……といっても、有沢と富野は五歳しか違わない。俺が古いのではないか、と富野は思う。
 自分が古風であるという自覚はある。
 父方の地元は和歌山県、母方は島根県で、どちらも昔ながらのしきたりを大切にしている家柄だった。祖父母たちの影響は否定できない。
「あれえ。現場は、神田署の目と鼻の先ですよ」
 有沢がスマホを見て言う。
「どこだって事件は起きるさ」
「警察署も抑止力にはならないってことですかね」
「そういうふうに短絡的に考えるもんじゃない。広い視野で見れば、警察署には充分に犯罪の抑止効果がある」
「そうですかね」
 富野たちはたいてい電車やバスで移動する。車が使用できる者は限られている。そして、電車やバスの中で事件の話をするわけにはいかない。
 どこで誰が聞いているかわからない。へたに捜査情報を洩らすとクビが飛ぶこともある。
 電車と地下鉄を乗り継ぎ、二人は現場にやってきた。
 神田錦町は古い町だが、今はビルが建ち並んでいる。すぐ近くに首都高速が見えている。
 有沢が言ったとおり、現場となった学校は神田署のすぐ近くだった。共学の私立高校だ。
 事件の直後とあって、学校の前には警察車両やマスコミが集まっており、緊張した雰囲気だった。時刻は午後三時半。普段なら部活が行われている時間だ。
 だが、グラウンドには生徒の姿はない。部活が中止になっているようだ。
 学校の前に制服姿の若い警察官がいた。神田署の地域係だろう。有沢が声をかけた。
「本部の少年事件係です。現場はどこでしょう?」
「化学の実験準備室です。うちの署員がいるのですぐにわかると思います」
 富野は聞き返した。
「実験準備室……?」
「ええ。実験室の隣にある小部屋で、化学担当の教師が使っている部屋らしいです」
 富野は自分の高校時代のことを思い出してみた。たしかにそういう部屋があり、化学の先生がいつもそこにいた。
「行ってみよう」
 富野は有沢に言った。
 校舎は決して大きくはない。少子化で生徒が減っているので、これで充分なのだろう。
 大きくても小さくても、学校というのはどこも同じような雰囲気があると、富野は感じる。
 いつだったか、知り合いの新聞記者に、全国どこに行っても警察署は似たような雰囲気だと言われたことがある。それと同じことなのだろう。
 若い地域係員が言っていたように、現場はすぐにわかった。
 まだ鑑識係の姿がある。所轄の捜査員らしい男が鑑識係の作業を見つめている。富野はその男に声をかけた。
「本部少年係の富野と言いますが……」
「ああ……」
 強面だが、こちらの素性を聞いてすぐに表情をゆるめた。「神田署強行犯係の橘川きっかわだ」
 彼はおそらく、富野より十歳ほど上だ。
「係長ですか?」
「そうだ」
「今、どんな様子ですか?」
「被疑者の身柄は押さえてある」
「少年なんですね?」
「ああ。ここの男子生徒だ。名前は西条文弥さいじょうふみや。二年生で十七歳だ」
「被害者は?」
「ここの教師。化学の先生らしい。名前は、中大路力也なかおおじりきやで、年齢は四十歳だ」
 有沢が言った。

 
このつづきは「野性時代」2018年2月号でお楽しみいただけます。
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