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連載

「小説 野性時代」連載コラム「告白します」 vol.6

くわがきあゆ「友達がいない」【連載コラム「告白します」】

「小説 野性時代」連載コラム「告白します」

最も旬で刺激的な物語が詰まった月刊文芸誌「小説 野性時代」より、コラム「告白します」を特別公開!
執筆者の個性が光る「告白」をお楽しみください。

(本記事は「小説 野性時代 2023年9月号」に掲載された内容を転載したものです)

くわがきあゆ「友達がいない」
【連載コラム「告白します」】

 告白します、私には友達がいない。
 どれくらい友達がいないかというと、三十六歳の現時点で、結婚式に呼ばれたことが一度しかない。ちなみにその一度は弟の結婚式である。
 地元にずっと住んでいるが、子どもの頃からの友達はひとりもいない。中学の卒業式の謝恩会にも、成人式の同窓会にも呼ばれなかった。学生時代は、学校で毎日それなりに言葉を交わす友達がいたように思う。ところが、卒業後は揃って人々からの連絡が途絶える。
 なぜこれほど友達がいないのか、原因は不明である。学生時代、私はジャイアンのように、機嫌が悪いからといって友達を殴ったことはない。いや、乱暴者のジャイアンですら、のび太、スネ夫、しずかちゃんと少なくとも三人の友達がいるのだ。私はもっとすごい悪行を働いていたのか。たとえば、誕生日会に呼ばれた友達の家に火を放ったとか。校庭で友達を大縄で次々と縛り上げ、うんていにひょうたんのようにつるして遊んだとか。文化祭でドラッグを混ぜたジュースを友達に配って回ったとか。もちろん、そんなことをした覚えはない。やっていれば、友達が離れていくどころの騒ぎではない。私は友達以上に多くのものを失った人生を送っているだろう。
 私は友達がいないが、寂しくはない。孤高を貫いているのではなく、私の勤務先が学校であるためだ。子ども達は基本的に心が優しい。また、教師の私が自分達の成績をつける立場にあることを知っている。そこで、彼らは私に気を遣って何かとコミュニケーションを取ってくれる。私は毎日学校で子ども達に囲まれていることになるので、寂しくない。何かが違う気はするけれども。
 昨年、『このミステリーがすごい!』大賞の文庫グランプリをいただいた時、受賞者の心得をいくつか聞いた。その中に、いろいろな人から急に連絡が来るかもしれないので気をつけましょう、というのがあった。
 そうか、と私は思った。こういう場合、昔の友達が連絡してくるものなのか。果たして、誰から来るのだろう。電話やらラインやらの着信音を最大にして待ってみた。来なかった。本当にひとりも連絡してこなかった。
 なぜだろうと考えてみた。そうだ、不思議なことに、私の友達はいつしか私に黙って連絡先を変えていることが多いのだ。その後に私も連絡先を変えてしまったから、そもそもみんな私と連絡を取る方法がないのだな、と気づいた。

プロフィール

くわがきあゆ
1987年生まれ、京都府出身。京都府立大学卒業。第8回「暮らしの小説大賞」を受賞し、『焼けた釘』(産業編集センター)で2021年にデビュー。2022年、『レモンと殺人鬼』で第21回『このミステリーがすごい!』大賞・文庫グランプリを受賞。その他の著書に『初めて会う人』がある。

書籍紹介



『レモンと殺人鬼』(宝島社文庫刊)
著者 くわがきあゆ
発売日:2023年4月6日

十年前、洋食屋を営んでいた父親が通り魔に殺されて以来、母親も失踪、それぞれ別の親戚に引き取られ、不遇をかこつ日々を送っていた小林姉妹。
しかし、妹の妃奈が遺体で発見されたことから、運命の輪は再び回りだす。

被害者であるはずの妃奈に、生前保険金殺人を行なっていたのではないかという疑惑がかけられるなか、妹の潔白を信じる姉の美桜は、その疑いを晴らすべく行動を開始する。
(あらすじ:宝島社オフィシャルHPより引用)

掲載号紹介



小説 野性時代 第238号 2023年9月号
編 小説野性時代編集部
発売日:2023年08月25日
商品形態:電子専売

綾崎隼がフィギュアスケートの天才少女たちを描く短期集中掲載「この銀盤を君と跳ぶ」前篇、ブレイディみかこによる自伝的読切シリーズ新章「失われたセキュリティーを求めて」登場!

【短期集中掲載】
綾崎 隼――この銀盤を君と跳ぶ
フィギュアスケート史を変える二人の天才少女。
ただ一つの五輪出場枠をかけて、運命の戦いが始まる!

【読切】
ブレイディみかこ――失われたセキュリティーを求めて 私労働小説―ザ・シット・ジョブ―
スーパー店員にも、理不尽を返す自由はある。
自伝的読切シリーズ、新編開幕!

【連載】
青山文平――父がしたこと
秋山寛貴(ハナコ)――人前に立つのは苦手だけど
阿津川辰海――バーニング・ダンサー
今村翔吾――天弾
恩田 陸――産土ヘイズ
垣根涼介――武田の金、毛利の銀
河崎秋子――銀色のステイヤー
新川帆立――目には目を
中山七里――こちら空港警察
増田俊也――七帝柔道記II 立てる我が部ぞ力あり

【コラム】
告白します――くわがきあゆ「友達がいない」
私の黒歴史――櫻田智也「自惚れ」
告白します――寺嶌 曜「怪物のしもべ」

【記事】
Book Review「物語は。」吉田大助
――蝉谷めぐ実『化け者手本』

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