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連載

矢月秀作「プラチナゴールド」 vol.44

【連載小説】時には休息を ──特殊犯罪に挑む女性刑事たち。 矢月秀作「プラチナゴールド」#12-2

矢月秀作「プラチナゴールド」

※本記事は連載小説です。
>>前話を読む

 家村と共に初代永正鉱業社に残った二人もまた、ARCの取締役に名を連ねていた。
 家村たち三人は、会社の整理が終わるまで太一郎と共にいた。
 太一郎亡き後、遺された太一郎の妻と耕太の面倒をみていたのも家村だったと、元社員の男性は証言していた。
「家族同然の付き合いをしていたんですね」
 りおがつぶやく。
「家族同然というより、もはや本当の家族だったのかもしれんよ」
 杉平がりおを見やった。
「まだ詳細は調べているところだが、永正耕太の母親が死んだ後、大学の学費や生活費を援助していたのも家村ではないかという線が強まっている」
「奨学金やアルバイトでまかなっていたわけではないんですか?」
 つばきが訊く。
「今のところ、永正耕太が奨学金を申請したという話は出てきていない。生活費も、両親の死亡保険金で賄っていたのかと思っていたが、それはすべて債務整理と母親の療養費で使ってしまっていたようだ」
 杉平が答えた。
「なるほどー。それだと、学費とか生活費の出所が気になりますねー」
 りおは腕組みをする。
「ということは、家村が永正耕太をかくまっている可能性が高いですね」
 さも、考察をしているように言うが、顔を上げ、首をかしげた。
「匿うは違うか。永正耕太が逃げてると決まったわけじゃないし。誘拐? いや、そういう関係ならさらうというのもなんだかヘンだし。あれ? どういうこと?」
 頭が混乱してきたようで、小難しい顔をしてしきりに首をひねる。
 つばきはりおを見てくすっと笑ったが、その疑問は確かだった。
 家村と耕太の関係はわかった。
 しかし、それが永正耕太とその家族の失踪とどういう関係があるのか、判然としない。二人の関係が基地局窃盗せつとうにどう関わっているのかもさっぱりわからない。
「杉さん、家村の調査はどのくらい進んでいるんですか?」
「一応、家村の身辺と動向は捜査員を付けて常時マークしている。今のところ、家村が永正耕太と接触しているという報告はないがな。家村の背景についても捜査を続行中だ」
「家村の自宅や別宅は?」
「家村の名義で登記されている戸建てとマンションは三箇所。戸建ての一つは自宅。もう一つは熱海あたみにあり、別荘として使っているようだ。立川たちかわにあるマンションは五階フロアの八室すべてを会社名義で購入していて、社員寮として貸し出している。八室を全部調べてみたが、入居しているのはARCの社員とその家族だけだった」
「他に家村、もしくは家村と共に永正鉱業社で働いていた幹部名義の住居は?」
「ないな。そこは相当調べたから、見落としはない」
 杉平が断言した。
「会社の保養所とかないんですか?」
 りおが訊く。
立山たてやまにある。そこも調べさせたが、いなかったな」
「半年ですもんねー」
 りおは組んだ腕に力をこめた。
「ホテルかなあ」
 ぼそっと漏らす。
「半年もホテル滞在する?」
 つばきがりおを見た。
「最近、コロナでホテルとか旅館、大変じゃないですか。なんで、月極料金で長期滞在プランとか出してるんです。高級ホテルでも一カ月三十万円くらいで滞在できるんですよ。食事、ベッドメイク付きで。私も休暇が取れたら一週間くらい泊まってみたいです」
 にっこりと笑う。
「地方のホテルとか旅館だったら、半分の十五万円も出せば、一カ月滞在できるところがあると思います。それだと、賃貸マンションの家賃と変わらないですもんね。そういうところに家族みんなでいてもおかしくないと思うんですけど」
「それはあるかもしれんな」
 杉平がうなずく。
「子供の学校は?」
 つばきが疑問を口にした。
「区域外就学じゃないですか? 特別な事由がある義務教育中の子供は、住民票登録地でなくても秘密で通えるんですよねー」
 りおが答える。
 つばきはじっとりおを見つめた。
「なんだか、経験者みたいね」
「あ、いや……友達にいたもので」
 りおは笑顔を作った。
「その線はあるな」
 杉平が割って入る。
「各自治体の教育委員会、福祉相談所、県警に問い合わせてみよう」
 杉平が立ち上がる。
「二人とも、少し待機していてくれ。彩川君の線で情報が出れば、そっちを追ってもらうから」
 そう言い、自席へ戻っていった。
「優しいねえ、杉さんは」
 つばきがふっと微笑ほほえむ。
「そうなんですか?」
 りおはきょとんとした。
「私たちの疲れた様子を見て、待機の名目で休憩をくれたんだよ」
「そっかー」
 りおが目を丸くして、笑みを浮かべた。
「まあ、そういうことだから、仮眠室で少し寝よう」
「私なら大丈夫ですよ」
「無理するな。私だってきついんだから、退院したばっかのあんたはもっときついはずだよ。がんばるところと休むところのメリハリをつけないと、息が切れちまう。まあ、私も言えたガラじゃないんだけどね」
 自嘲し、立ち上がった。
「杉さん! 仮眠室で休んでます!」
 つばきが言うと、杉平は右手を上げた。
「ほら、行くよ」
「じゃあ……そういうことで」
 りおは促され、席を立って、つばきと共に仮眠室へ向かった。

▶#12-3へつづく


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